後日譚その2 転生うさぎとダンジョンコア
それは、わたしが悪魔王を倒してから何年か経った頃の話でした。
……おや?侵入者ですか。珍しいですね。でも、この反応は…
聖獣達や眷族達も、珍しい侵入者にどうしようか戸惑っているようです。ここは、わたしが直接対応しましょうか。
〈思念伝達〉で皆にそれを伝えて、わたしは侵入者のもとへと転移します。
それはあっさりと見付かりました。両手で抱えるくらい大きい青白い水晶玉のような物です。仄かに黄色い光を放っています。ちなみに、人影は全くありません。
……侵入者?で合っていますよね。でも、これどう見てもダンジョンコアですよね?
ダンジョンコアって歩いてくるのでしょうか?球体なので転がってきたのでしょうか?っていうかダンジョンコアってダンジョンの外に出て行動するのですか?
疑問は沢山ありますが、だいぶ魔力を失って弱ったダンジョンコアをこのまま放置するのもなんだか落ち着かないので、回収して家の前まで持ち帰ることにしました。その時になんとなく〈全知の瞳〉で軽く鑑定すると、ある情報が目に止まりました。
〈名前〉 (元魂の谷底)
名前欄が空白の後にかっこで元魂の谷底とあります。魂の谷底ってたしか、前に悪魔王が潜伏していた時にわたしが乗り込んだダンジョンでしたよね。っていうか、ダンジョンコアの名前ってダンジョン名なのですね。
何故魂の谷底のダンジョンコアがこんな場所にまで来ているのです?それに元ってなんでしょう?
更に疑問は増えますが、もう一つ気付いた点と言えば、このダンジョンコアの残っている魔力は何故かわたしの魔力にとても近しいものです。わたしの眷族と同じくらいに似通っていました。はて?謎が深まるばかりですね。
まあ、何はともあれ持って帰りましょう。弱っていますし、後で魔力を注いであげて力を取り戻させてから事情を聞いてみましょうか。聞けるかわかりませんが。
領域の結界ぎりぎりの場所に転がっているダンジョンコアを拾って再び転移します。中央広場に戻ると、弥生と如月、卯月にプリシラさんとわたしの眷族達が揃っていました。ちなみに、ここに居ない眷族のクーリアさんは獣王国に出張中です。おっと、スライムちゃんのことも忘れていませんよ。だから頭の上で暴れないでくださいね。
後はペガサスのベガと、アルジミラージのミラーの姿も見えますね。ベガはほぼわたしと一緒に中央広場に居ますが、ミラーはよく卯月に拉致られて領域中を駆けずり回っています。それ以外にも他の聖獣達と定期的に連絡を取り合って、わたしに報告したりもしています。働き者のミラーにもう少し何かしてあげたほうが良いでしょうかね?今度考えておきましょう。大体こういう時は忘れますけど。
わたしが帰ってきたのに気付いた眷族達とミラーが周りに集まって来て、興味深そうに水晶玉を見ています。
「あるじさま~?これは何なのです?卯月達と近い魔力を感じるのです」
「…卯月も魔力の違いが分かるのですね。偉いですよ」
「えへへ~」
(いやいや、分かって当たり前ですから。甘やかしすぎです、トワ様)
ミラー。貴女は卯月がいかに鈍いのか知っているはずです。これは卯月にとって大きな進歩なのですよ。たぶん。
「卯月のことは置いといて、あるじ様、これは何なのですか?」
「…これはダンジョンコアですよ。何故ここに来たのかは謎ですが…」
「ダンジョンコアですか…」
「あらあら。ダンジョンが移動する話は稀に聞きますが、ダンジョンコア自体が移動するというのは初めて聞きましたね」
「…ダンジョンが移動、ですか?」
「ダンジョンが移動、というよりは、元から移動式のダンジョンというものがあるそうですよ?私も詳しいことは存じませんが」
……ほうほう。そんなものもあるのですね。ダンジョンって不思議ですね。
プリシラさんは冒険者ではありませんでしたし、これ以上の詳しいことは知らないみたいです。機会があればセラさんやエルさんに聞いてみるのも良いかもしれません。あ、クーリアさんでも良いですね。
ってそんなことは後回しです。今はこのダンジョンコアさんをどうするのか決めないといけません。
「…とりあえず、話を聞ける状態にしましょうか。…会話が出来るのかどうかわかりませんが」
念のため、スライムちゃん以外の皆さんには少し離れてもらい、中央広場の真ん中でダンジョンコアに魔力を注ぎます。すると、嬉しそうにピカピカと光を放ちました。
さて、では会話出来るか試してみますか。〈思念伝達〉を繋いでみましょう。
(…わたしの言葉がわかりますか?)
(もちろんだよ!)
おっと元気の良いが返って来ました。声的に…女の子でしょうか?でも、ダンジョンコアに性別なんて無いですよね?
(…貴方は帝国領土にあった『魂の谷底』ですね?)
(うん。もうそのダンジョンは閉鎖したから、今はその名前ではないけれどね)
(…それで、何故ダンジョンを閉鎖してこの領域に来たのですか?)
(それはアナタ様にお願いがあるからだよ)
(…わたしにお願い、ですか?)
(うん。是非ここにボクを住まわせて欲しいの!)
(…つまり、ここでダンジョンを作りたいのですか?)
(正確には、アナタ様の傍に居たいの!)
なんだか妙に好かれているので詳しく話を聞いてみると、悪魔王にダンジョン最奥を乗っ取られていた時に、ダンジョン内を滅茶苦茶にされまくったせいで瀕死状態だったのを、わたしが魔力を注いだことで命を吹き返したそうです。そのことにとても感謝しているのと、わたしの魔力がとても気に入ってしまったので、そのまま少なくなった自分の魔力を少しずつわたしの魔力と掛け合わせて変質させて、眷族に近い状態まで変化させたのだとか。器用なことしますね…。それからダンジョンは閉鎖して、わたしの魔力を辿ってここまで来たらしいです。その道のりはまさに険しかったようですが、わたしに会いたい一心でなんとか辿り着いたのだとか。
(…そこまで慕われて、苦労してここまで来たのに追い出す訳にもいきませんか。仕方ないですね。ここでダンジョンを開くことを許可します。後で場所を決めましょうね)
(うん!ありがとう!)
しかし、ここまで転がって来たのかと思いましたが、ダンジョンコアの体を人型の魔物に変化させていたようです。それに、かなり長生きしている上位のダンジョンということもあって、その状態で戦ってもその辺の魔物に負けることはそうそうないのだとか。もうダンジョンなんて開かないで自力で戦えば良いと思います…。
わたしにかなり近しい魔力ということは、後は名前を付けてあげれば眷族化しそうですね。ダンジョン名を付ければ良いのでしょうか?
(…貴方の名前はやはりダンジョン名が良いのですか?)
(うん。でも、アナタ様に任せるよ)
(…わたしが名前を付けるのは決定事項なのですね。そうですね…)
やはり、月の領域のダンジョンなのですから、月にちなんだ名前が良いですね。
(…朧…ダンジョン名は『朧月夜』でどうでしょう?)
(『朧月夜』…。今日この時から、ボクの名前は朧月夜!)
(…言いにくいので普段はオボロと呼びましょう)
(うん!)
名前を決めた時に、眷族の繋がりのようなものを感じました。同じものを他の眷族達も感じたようでそわそわとしています。
こうして、わたしの領域にダンジョンが作られることになりました。ついでに眷族も増えました。これ以上増えるのはさすがにちょっと面倒ですね。別に増やしたくて増やしている訳ではないのですけどね。成り行きというものです。