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後日譚その1 転生うさぎと住人達の魔物化

 それは、わたしが悪魔王を倒してから二年ほどの月日が経った頃の話です。



「あるじさま~!大変なのです!!動物達が苦しそうなのです!!」


(…はい?すぐに向かいます。案内してください)



 のんびりお月見をしていたわたしは卯月の報告に心を騒めかせつつも、即座に行動を開始します。まずは現場を見て状況を把握しなければ何も出来ません。



 卯月の案内で現場に辿り着くと、聖樹の根元で苦しそうに横たわっている動物達が居ました。近くにミラーも居たので声を掛けます。



(…ミラーどういう状況ですか?)


(そうですね…。恐らくは魔物化の兆候だと思われます)


(…はい?)



…魔物化?それはこの子達が魔物に変異するということですか?



 確か動物から魔物への変異の生存率はとても低く、1%を切るぐらいだったはずです。このままでは、動物達が全滅するかもしれません。



 そう思い至った瞬間、心の中が大きく騒めいた気がしました。絶対にそんなことはさせません。



(…この子達はわたしがなんとかしましょう。ミラー、ひょっとして他の場所も似たような状況ですか?)


(ちょっとお待ちを……そうですね。あちこちで兆候は出ているようです。…ところで、なんとかするとは?下手に魔物化に干渉するのは危険ですよ?)


(…問題ありません。なんとかします。でも、他の子達まで手が回り切らないですね…。仕方ありません。アレを呼びますか)



 ユニークスキル〈永久〉の能力、〈偶像〉を使って、彼女を呼び出します。魔力が分割されてしまいますが、これくらいならば問題は無いでしょう。



(…では、お願いしますね)


「はいはい。仕方ありませんね。早急に終わらせましょう」



 彼女はわたしと同一存在なのでいちいち説明をしなくても状況を理解しています。話が早いのは助かりますね。



 彼女を送り出したのでわたしも手早くこちらの動物達を助けることにしましょう。魔物化しそうならば、〈全知の瞳〉と〈因果予測〉で状態を確認しながら、〈魂干渉〉と〈精神干渉〉で魂の保護と精神の安定を促し、〈魔力活性化〉と〈魔力操作〉で安全に魔力と体を馴染ませていきます。



 一匹だけなら兎も角、何匹も同時に作業をするのは非常に負担が掛かりますが、わたしが少し負担がかかる程度で大事な住人を助けられるならば問題ありません。



 そうして一日、〈偶像〉の永久と協力して領域中を駆け巡って魔物化しそうな動物達の救助を行いました。しかし、魔物の自然発生はしないのに、まさか動物達が変異で魔物化していくなんて予想外でした。



「まぁ、いずれはこうなるとは思っていたわ」



 翌日、フェニさんがお茶を飲みに月の領域に来た時に話をしたら、至極当然のようにそう言いました。



「領域内は常に貴女の高い魔力に満たされている空間なのよ?聖の魔力と魔の魔力が入り乱れているから魔物化まで時間が掛かったみたいだけどね」


(…)



……全然気が付きませんでした。



 言われてみれば当たり前でしたよね。聖の魔力の影響で魔物が発生しないとはいえ、ここは魔力自体が常に満ちていて、いうなれば魔力溜まりの中に近い空間なのです。長い間、普通の動物達が暮らしていれば魔力がじわじわと体の中に蓄積されていくのは当然のことでした。



「それにしても、まさか魔物化に干渉して全員を無事に魔物にさせるなんてね。相変わらずトワのやることは驚くことばかりね」


(…今ばかりはこの力を手に入れて良かったと心から思いましたよ)



 もしこの力を持っていなかったら、わたしは動物達を常に毒の中に住まわせていて殺していたことになりますからね。



 でも、まだ動物達全体の一割ほどですが、このままでは遠からず全員が魔物化に至るのは時間の問題ですね。その前になんとかしないといけませんか。



 魔力を減らすのは不可能なので、必然的に、わたしの手によって魔物になるか、ここから出ていって普通の動物として暮らすかを選択してもらうことになります。領域の外にさえ出てしまえば、聖樹の森で暮らすこと自体は可能です。わたしの勝手で出ていってもらうのでもちろん身の安全を確保出来るように尽力もしなければなりませんね。



 フェニさんと話をした翌日、眷族と聖獣達を通して動物達と話しをしたところ、全員が魔物化してここで暮らすということになりました。嬉しいですが…それで良いのですかね?



 わたしの〈全知の瞳〉と〈因果予測〉の行使には負担がかかることが弥生達にバレているので、わたしに負担が無いように少しずつ魔物化を促していくことになりました。兆候の見られる者から優先し、兆候の見られない者でもわたしの力でちょっと強引に魔物化させていきます。永久もこき使っ…協力してもらいながら順調に作業を進めていきました。



 そんなある日のこと、弥生が躊躇いがちにこう話掛けてきました。



「主様、魔物化が普通の動物達の間で起きることならば、ひょっとして、普通の人間であるプリシラも危険なのではありませんか?」


(…どうでしょう?体調はどうなのです?)


「今のところは特に問題無さそうですが…」


(…ちょっと聞いてみますか)



 永く生きている神獣達に質問すると、そんなこと知らない。という回答でした。人が魔物になるほど魔力溜まりの中に居ることは相当珍しいことのようです。



 次に人側の知識人、エルさんと獣王国に出張中のクーリアさんに聞いてみました。エルさんは神獣達と同じ回答でしたが、クーリアさんだけ違う回答が来ました。



「死にますね」


「…何故そう言い切れるのですか?」



 通信の魔術具越しにそう答えたクーリアさんに、わたし(言葉で会話しているので人の姿です)は動揺を隠しながら聞き返します。一緒に話を聞いている弥生も顔が真っ青になっています。



「度々そういう実験をする研究者が居たのです。魔力溜まりの中で魔物が発生し、動物が魔物化するのなら、人間がその中で暮らせば聖人になれるのではないか?と考えた人達が。その人たちは例外なく全員が死にました。進化に至る前にです」


「…それは何故です?」


「根本的な構造が違うのですよ。人間の聖人への進化とは、体内にある溜め込んだ膨大な自分の魔力と体を馴染ませることで〈魔力体〉を得ることです。基本的に〈魔力返還〉を持たない人間が、外部からの濃い魔力を浴びることは、常に毒に満ちた環境で暮らすようなものです。動物達は〈魔力返還〉があるからこそ、魔物になるのですよ」


「…つまり、〈魔力返還〉さえあれば、魔物や聖人に進化出来るということですか?」


「理論上はそうですね。ですが、人間が普通の方法で〈魔力返還〉を覚えるのは不可能ですよ。動物が〈魔力返還〉を覚えているのは、人間よりも魔力を回復する能力がとても低いからです。人間は魔力の自然回復量が多いので〈魔力返還〉を覚える必要が無いのですよ。なので、体の構造的に魔力溜まりの中で暮らしても進化するのは不可能なのです」


「…大量の魔力を浴びるのは人にとって毒なのですね」


「はい。詳しい理論は長いので省略しますが、短期間…長くて一ヶ月程度ならばともかく、数年単位で浴び続けるのは非常に危険です。月の領域の魔力は特別ですし、教会内には少ないながらも浄化能力もあるので、教会内で過ごせばそうそう魔力の毒で死ぬことはないと思っていたので言いませんでした。ごめんなさい。もっと早く言うべきでしたね」


「…いえ、このような事態になるまで気付けなかったわたしにも非がありますから。こちらはこちらでいろいろ考えてみます。また何かあったら相談しますね」


「はい。いつでもどうぞ」



 クーリアさんとの通信を終えると、弥生が青い顔でわたしを見詰めます。わかっていますよ。ですが、プリシラさんの意思を確認するのが優先です。



 動物達の対処は一旦永久に任せて、わたしはプリシラさんに朝食の場で話があることを伝え、教会でクーリアさんから聞いた話を伝えました。その上で彼女に問いかけます。



「…今聞いたように、ここに残ることは危険です。貴女はどうしたいですか?」


「…少しだけ、考えさせてくださいませ」


「…その方が良いでしょう」



 教会から出る時、わたしは最後にこう言い残します。



「…貴女がどのような選択をしても、わたしはその選択を尊重します。なので、悔いの残らない選択をしてくださいね。弥生、プリシラさんと一緒に居てください。誰か居た方が考えがまとまることもあります」


「畏まりました」



 その日は昼食と夕食の時間になっても二人が現れなかったので、わたしが食事を作りました。いえ、卯月が料理をしようとしたのを止めたのですよ。あの子の料理はどk…とても刺激的ですからね。



 翌日。朝から弥生を連れてわたしの前で跪いたプリシラさんは、わたしの斜め上の回答を用意してきました。



「…はい?もう一度言ってくれませんか?」


「はい。可能であるならば、私のことを人工魔人にして頂きたいのです」


「…」



 言葉が出ないとはこのような時のことを言うのでしょう。まさに絶句です。何言っているのでしょうこの

人。というか、弥生と何の話をしていたのですか。



「以前から、弥生とこのような話はしていました。ですが、トワ様が許可を下さらないのではないかと諦めていましたが、先日、トワ様は私の選択を尊重すると仰いました」



……確かに仰いましたよ?でもさすがに魔人にしてくれと言われるとは思わないじゃないですか!?というか以前から話をしていたって…弥生も何話しているのですか!?



 言質を取られてしまっている以上、撤回するわけにはいきません。人工魔人にも出来るでしょう。クーリアさんの時の応用みたいなものですし。しっかりと準備をすれば、あの時と違って苦しまないで魔人にさせることは出来ると思います。



……わたしの魔力で強引に変質させる都合上、聖人には出来ないのですよね。



「…本気なのですよね?」


「はい」


「………はぁ、仕方ないですね。動物達の件が落ち着いたら、諸々の準備をして魔人化させましょう」


「ありがとう存じます!」



 こうして、わたしに新しい眷族が増え、眷族に近い魔物達が生まれたのでした。まぁ、だからといって生活が変わる訳ではありませんけどね。




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