後日譚その0 転生うさぎは今日もお月見をする
月の領域の中央広場。今日も今日とてわたしは風魔法で作ったクッションでぐでーんと横になって空を見上げていました。
わたしの作ったこの『月の領域』は常夜の世界で常に満月が浮いています。最近では、たまーに満ち欠けをさせています。たまには三日月とかも見たいじゃないですか。
一日のほとんどはただこうして夜空をぼけ~っと見ているだけで終わります。我ながらよく飽きないなと思いますね。
食事時になると、中央広場にある二階建ての一軒家にわたしの眷族達と集まって食事をします。もう弥生の料理の腕はプロ級です。わたしなんかよりも圧倒的に美味しく料理が出来ます。
食事なんてとらなくても生きていけるのですが、なんとなく習慣のようなものですね。やはり、人として生きた記憶がありますから。
食事を終えたわたしは再び中央広場に戻って風のクッションの上に乗りました。うさぎの体は小さいので体が空気のクッションに包まれるようにして沈み、とても心地が良いのです。ダメになりそうです。もうダメになっているかもしれません。
収納魔法からテーブルを出して、お月見用の団子を用意すると、それを確認した聖獣ペガサスのベガが一度人の姿になってお茶の準備を始めて、すぐにわたしの眼の前に置きました。わたしへの奉仕が終わるとすぐにペガサスの姿に戻って広場の端に行きます。それ、めんどくさく無いのですか?まぁ、本人が勝手にやっているので良いですか。
うさぎの姿でのそのそとお茶をもってちびちびと飲み、用意したみたらし団子を一つぱくりと食べます。はい。とても美味しいですね。
ただ、和菓子関連は公国まで行かないと手に入りにくいのが難点ですね。ここと公国が正反対の場所にあるので流通が難しいのは知っていますが…。こういうところは地球の物資の流通能力が恋しくなります。今のところは、わたしが定期的に転移で出向いて買い占めるしかないですからね。
なんてことを考えながら、ぼんやりと月を見上げて団子をぱくりと食べます。領域の遠くからミラーの叫び声が聞こえてきたような…気のせいでしょう。お茶美味しいです。
ずっと常夜のせいで時間間隔がおかしくなりそうな空間ですが、不思議と外の世界の時間はわかります。今は夕方くらいでしょうか。今日も特に何もしないで一日が終わりそうです。
その後、しばらくしてから、卯月と死んだように引きずられているアルジミラージ(額に角のあるうさぎです)のミラーが中央広場に帰ってきて、どこからともなくどこかに行っていた如月も音も無く帰って来ました。わたしの姿を見て二人が人の姿からうさぎの姿になってわたしのもとへ飛び込んできます。あ、ミラーも飛んできたのでキャッチしておきました。
すぐに夕食の時間になり、家で料理をしていた弥生から声が掛かって全員で食事をとり、夜寝る前にもう一度卯月がどこかに遊びに行き、わたしと如月と弥生は一緒にお月見をします。ちなみに、ミラーは中央広場の端っこでベガに介抱されていました。いつもお疲れ様です。
完全に夜の時間になると、卯月と如月は家に帰っていきました。魔人になってそこそこ日が経っていますが、寝ないと落ち着かないようです。弥生もしばらくわたしの相手をしていましたが、眠気がやってきたのか家に帰っていきました。ここからは、わたし一人でお月見タイムです。
そして、特に何も起きることもなく、ただただ和菓子とお茶を消費してだらだらと月を見上げたりクッションに埋まったり、スライムちゃんをのびのびして遊んだり、永久を呼び出して話をしたりして時間を潰し、再び朝の時間になります。
そんななんにもない一日ばかりでしたが、いろいろな事件が起きたり巻き込まれたりもありました。
これは、わたしのゆるゆるな生活とその中で起きた様々な出来事、それによって変わりゆく月の領域で生活する、うさぎのお話しです。