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008 聖域

 死を覚悟した瞬間、ルシアスの脳裏に走馬灯がよぎった。


 最初に浮かんだのは幼少期の記憶。

 両親の下で健やかに育ち、カカシ相手に木剣を振るっていた。

 まだ、才能の差に打ちのめされる前のことだ。


 次に浮かんだのは14歳の記憶。

 冒険者学校に入って2年が経ったある日の一幕。

 この時点で既に才能の差を痛感し始めていた。

 しかし、まだ諦めてはいない。

 努力で才能の差を覆せると思っていた。


 そして15歳の記憶。

 同級生に模擬戦でボコボコにされた。

 その同級生はやる気がなく、自主練に縁のない男だった。

 それなのに為す術なく負けたのだ。

 人生を否定され、打ちのめされた瞬間だった。

 才能の無い者に努力をする価値はないと確信した。


 そこから先は暗い記憶が連続する。

 最後の最後にようやく光が現れた。

 スマホを拾ったことだ。

 だが、その光は目の前の蜘蛛によって食われて消えた。


 嗚呼、もうダメだ。


「やっぱり落ちこぼれは落ちこぼれのままなのかよ、畜生」


 悔しさから自然と言葉がこぼれる。

 そして目を瞑り、ルシアスは死を受け入れた。


「まだ終わりませんよ! ルシアス君!」


 ハッとする。

 ルシアスは目を開けた。

 自分の周囲を半円状の光のドームが覆っている。


「ミオ、これはお前が……」


「そうです! 私が唯一使えるスキル〈サンクチュアリ〉です!」


 ルシアスが死を覚悟した瞬間、ミオはスキルを使っていた。

 自分を含むPTメンバーを絶対不可侵の聖域で包み込むスキル。

 それが〈サンクチュアリ〉だ。

 このスキルは最強の防御力を誇るが、決して万能とは言いがたい。


「まだ銃を撃たないでください! この聖域は敵の攻撃だけでなくこちらの攻撃もシャットアウトします! なので聖域内で銃を撃ったら、銃弾が反射されて自分に当たる可能性が高いです! それに聖域は固定型で動かないので、スキルの効果時間が終わるまで待ってください!」


 ミオが〈サンクチュアリ〉の欠点を説明する。

 そう、このスキルの発動中は攻撃や移動ができない。

 それはつまり――。


「おいおいおい! まずいぞこれ! 魔物が次から次へと来るぞ!」


「我慢です!」


 ――魔物に囲まれても手立てがないということ。

 スキルが終わるまではひたすらに立ち止まるしかない。


「ルシアス君、私の役目はここまでです! この先は任せます! 私はまだ死にたくないので、どうにかしてください!」


 ミオは次の展開を考えていなかった。

 ルシアスを守るので精一杯だったから。


 しかし、それで問題なかった。

 ルシアスを奮い立たせるには十分だったのだ。


「仕方ねぇ、覚悟を決めるか」


 ルシアスは小さく笑い、それから声を上げる。


「ミオ、アサルトライフルを連射モードに変えろ! このスキルが終わると同時に連射だ! 蜘蛛共を殲滅するぞ! 幸いにも敵は前方からしか来ていない! 火力を前に集中させるぞ! 間違っても俺に当てるなよ!」


「はい! できる限り気をつけます!」


「絶対に当てるなよ! 当てたら倍返しだからな!」


「ひぇぇぇぇぇー!」


 そうこうしている内に効果時間が終了に近づく。

 ミオは体感によってあとどのくらいでスキルが切れるか把握していた。


「あと10秒で切れますよ!」


「オーケー!」


 深呼吸する二人。

 蜘蛛の群れも近づき始める。

 そして――。


「今だ! 撃て! ミオ!」


 聖域が消えた瞬間、ルシアスは発砲した。

 ミオも横に飛んで引き金を引く。

 二人の鼓膜を揺るがす銃声が響き渡る。

 あっという間に弾倉が空になった。


「ルシアス君、無事ですかー!」


 弾倉を交換しながら叫ぶミオ。

 それに対してルシアスは。


「どうにかな……!」


 ニヤリと笑って答えた。

 先ほどまでうじゃうじゃいた蜘蛛は消えている。

 例外なく魔石になっていた。


「無事でしたかー! よかったー!」


「おかげさまでな」


 ルシアスはミオに近づくと、力強く抱きしめた。


「ありがとう、ミオ。俺だけだったら諦めていた」


「ルシアス君……そんな……私はただできることをしただけで……えへへ」


 ミオは頬を赤くしながらルシアスの背中に腕を回す。

 そして彼と同じように抱きしめようとした、その時だった。


 ズドドドドドドドッ!


 彼女のアサルトライフルが暴発した。


「わわわわーっ!?」


 自分の銃の銃声に驚いて転ぶミオ。

 せっかくのムードが台無しになってしまい、ルシアスは苦笑い。


「お前もう銃持つな」


 そう言うと、彼はミオに背を向け歩き出した。


「ちょっとー! 待ってくださいよー!」


 ミオは魔石を回収してから追いかけるのだった。


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