006 移動の切り札
翌日。
ルシアスとミオはギルドで合流した。
昨日と違い、今回は5つのクエストを同時に受注する。
「本当に5つもお受けになるのですか?」
受付嬢が再三にわたって確認する。
ルシアスは大きく頷くが、ミオは慌てて止めた。
「ルシアス君、流石に多すぎますよ!」
「たったの5つじゃないか? どれも指定の魔物を20体倒せって内容だ。合わせても100体しかいない。俺たちは昨日だけで数百体は倒しただろ? そう考えれば楽勝だと思うが」
「たしか倒すのは楽勝ですけど、移動が大変ですよ。見てください、このクエストとこのクエスト。移動するだけで片道3時間はかかりますよ。他のクエストだってそうです!」
ミオの言葉に、受付嬢が「その通りです」と同意する。
「複数のクエストを受注するのは冒険者にとって一般的ですが、それは同じエリアに棲息する魔物を対象とした場合に限られます。一日で複数のエリアを駆け回すのは大変ですし、なにより危険かと」
「違約金だってかかりますよ! 分かっていますか!? クエストに失敗したら違約金を払わないといけない上に、クエストに成功した回数が1回マイナスになっちゃうんですよ! 昇格が遠のくんですよ!?」
「そんなこと俺だって分かってるさ」
ルシアスは軽やかに笑い、意見を変えることもなかった。
「問題ない、引き受けよう」
「か、かしこまりました……」
受付嬢が「知りませんよ」と言いながら手続きを進める。
「正気の沙汰じゃないですよ!」
ミオは街を出るまでぶーぶー言い続けていた。
◇
「実は切り札があるんだよ」
城門を通って街を出たところでルシアスが言った。
「切り札? なんですか?」
「ふふふ、まぁ見てな」
ルシアスはスマホを取り出し、とあるアプリを起動した。
スマホの画面にマップが表示される。
画面の上端には『行き先を指定してください』の文字。
ルシアスは最初の目的地となる狩場を選択した。
「いでよ、我が移動の要!」
ルシアスが画面の右下隅にあるボタンをタップする。
すると、どこからともなく馬車が現れた。
「馬車ですよルシアス君! 馬車!」
「俺が呼んだのさ」
「なんですとー!?」
ルシアスが起動したアプリの名は〈タクシー〉。
指定した場所へ運んでくれる馬車を召喚するものだ。
距離に応じてポイントを消費される。
「乗ったぞ、出してくれ」
ミオと共に客車へ乗り込み、御者にゴーサインを出す。
御者が「へい」と答えると、客車の扉が自動で閉まった。
そして、馬車は緩やかに走り出す。
「まさか街の外を走る馬車があるなんて!」
ミオが感動している。
無理も無かった。
本来、馬車は街の中にしか走っていない。
街の外は魔物が跋扈していて危険だから。
外を走る馬車は行商人や物資の運搬だけだ。
そして、それらには大量の護衛がついている。
こうして単独で走るのは異例中の異例だった。
一見すると襲われたらおしまいに感じる。
しかし、スマホで呼べるの馬車にその心配は無用だった。
なぜなら――。
「前! 魔物の群れですよ! 魔物の群れ!」
進路を大量の魔物に防がれていたとしても――。
「やれ」
「ヒヒーン」
ドッゴォーン!
「「「グェエエエエエエ……」」」
――問答無用で轢き殺していくからだ。
この馬車は特別製。
御者と馬には自我が宿っていない。
道を阻む者であれば国王だろうと吹き飛ばす。
「到着しました」
あっという間に最初の狩場へ到着した。
三つ首の小さな犬――ケルベロスベビーの棲息する草原だ。
徒歩だと1時間はかかるところだが、馬車なのですぐだった。
「忘れ物はないですね? 降りますよ!」
ミオがウキウキした様子で客車を降りる。
人生初の馬車に心が躍っていた。
「やっぱり移動は馬車に限るぜ。少し高いが今後も利用しよう」
ミオに続いて客車から降り立つルシアス。
すると馬車はどこか彼方へ消えていった。
「さぁクエストの時間だ」
「頑張りましょー!」
二人は弾倉を装填して前に進んだ。