047 終章エピローグ:決着
勝負は実にあっけなかった。
「これで俺の2勝。おしまいだな」
「嘘だ……そんな……こんなこと……」
ギルドにて――。
勝ち誇るルシアスに対し、フリッツは崩れ落ちる。
勝負は第3ラウンドに突入することなく終わった。
ルシアスとフリッツの討伐数には圧倒的な差があったのだ。
その差――なんと50倍。
フリッツは30分で5体しか倒せなかった。
第1ラウンドも、第2ラウンドも、結果は5体だ。足しても10体。
一方、ルシアスは両ラウンドで250体倒した。
もちろんフリッツは本気で、ルシアスは手加減していた。
ドローンでフリッツの戦闘を偵察して余裕だと判断したからだ。
ルシアスが戦ったのは最初の30分だけだ。
その間に第1・第2ラウンドの敵を250体ずつ狩った。
で、残りの30分はギルドのテーブル席で休んでいた。
故に、フリッツ以外の人間は知っている。
ルシアスが本気ではなかったことを。
「何か卑怯なことをしたんだろ! お前!」
フリッツがルシアスの胸ぐらを掴む。
ルシアスは何も言わない。
代わりに討伐隊の面々が言った。
「負けを認められないのか」
「憐れだな」
「自らが提案した勝負内容だろうに」
「情けない」
「今までもああやって人のせいにしてきたのかな」
先輩方の言葉が胸に突き刺さり、フリッツは言葉を失う。
ルシアスは胸ぐらからフリッツの手を離すと、真剣な表情で言った。
「俺からすればずるいのはお前だよ、フリッツ」
「なん……だと……」
「俺には才能がなかった。冒険者学校に入って間もない頃、俺は誰よりもひたむきに努力をしていた。剣の腕を磨き、肉体をいじめ抜き、血の滲むような鍛錬を続け、それこそロイドさんや他の先輩たちみたいになろうと頑張った。だが、俺には才能がなかった。手の皮がめくれるほど剣を振っても、朝から晩まで筋トレをして力をつけようとも、大して努力のしていない才能だけの奴に勝てなかった。その一人がお前だ」
「…………」
「たしかにこうして俺がお前を圧倒できたのは、お前の思っているような“実力”とは違うだろう。お前からすると“運”だと思うかもしれない。だがな、運も実力の内なんだよ。お前には才能があり、俺にはなかった。その代わり、俺には常人とは桁の違う運――スマホがある。俺は俺のカードで戦い、お前はお前のカードで戦った。で、俺が圧勝した。それだけのことだ」
フリッツは再び崩れ落ちた。
「俺に勝ちたいのであれば、ないものねだりで俺のことを『ずるいずるい』と言うのではなく、自分の才能を磨くことだな。それがお前に与えられたカードであり、お前の能力だ。そうして強くなったら、また俺に挑んでこい。俺は何度だって受けて立つ」
ルシアスが言い終えると、ミオが拍手した。
ハルカや討伐隊の面々も拍手する。
「チクショウ……今度は……負けねぇからな……!」
フリッツは悔し涙を流しながら去っていく。
足取りが覚束ないので、仲間に支えてもらっていた。
「やりましたね、ルシアス君! ついに完全勝利ですよ!」
ミオが声を弾ませる。
「ついにって言うけど、よくよく思ったら、ずっと完全勝利じゃないか?」
これまでのことを振り返るルシアス。
厄災クエスト、アポロ祭、異次元迷宮の塔、そして今回。
どれをとってもルシアスの圧勝だった。
「言われてみればたしかに……」
「実力の差はあるけど、ライバルって感じでいいじゃん! さっきの彼!」
ハルカがニヤニヤしながら言った。
「ライバルと思ったことはないけど……俺を高めてくれる存在ではあったな」
ルシアスがここまで頑張れたのはフリッツのおかげだ。
絶対に負けてなるものか、という思いが彼を突き動かしていた。
「若い子らの青春バトルも終わったことだし、そろそろお祝いしないか?」
ロイドが切り出す。
「賛成だ。アラフォーのおっさんはそろそろ眠くて辛い」
「同じく。余力が残っているうちに盛り上がろうぜ」
先輩方の意見に、ルシアスとミオも頷いて同意した。
「酒場に行って乾杯するぞー! 私に続けー!」
ハルカが右手を突き上げる。
討伐隊の面々が「おー!」と呼応した。
一同はぞろぞろとギルドを出て、近くの酒場へ向かう。
ルシアスだけはその場に佇んでいた。
「ルシアス君、どうしました?」
ミオが気づいて振り返る。
「いや、別に」
ルシアスはゆっくりと歩きだす。
歩きながら、考え事をしていた。
(E級に昇格し、フリッツとの戦いにも勝った。大きな達成感があるけれど、同時に燃え尽きた感じでもあるな。明日からどうしたものか)
今後の予定について考えがまとまらない。
とりあえず適当なクエストをこなそうか。
それとも余った金で世界中を旅して回るか。
色々と思い浮かべるけれど、どれもしっくりこなかった。
「おーい、早くしろー! MVPだからってちんたらするなー!」
ギルドの外でハルカが手招きしている。
「わりぃ、すぐ行くよ」
ま、いいか。
明日のことは明日考えればいい。
今は皆と一緒にクエストの攻略を祝うとしよう。
そう考えながら、ルシアスは笑顔でギルドをあとにした。
これにて完結となります。
ちょうど1冊分程度の長さでまとまりました。
皆様に応援しただいたおかげで、今回も楽しく執筆できました。
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絢乃




