041 ハルカのお誘い
異次元迷宮の塔が出現してから2週間が経った。
ルシアスらの他にも塔の攻略者が現れ始めていた。
塔はあと2週間ほど残っているが、既に皆の関心は薄れつつある。
その頃、ルシアスたちは規則正しいクエストの日々に戻っていた。
日に2~3件、場合によっては4件のクエストをこなしている。
きっちり週に2回は休みをとり、昇格が近づいても焦らない。
そして今日もクエストを受ける――はずだった。
「あと20回でE級に昇格だ!」
「今日も頑張りましょー!」
昼前、ゆるーい調子でギルドにやってきたルシアスとミオ。
そんな二人をとある女剣士が待っていた。
「久しぶり、ルシアス、ミオちゃん」
笑顔で手を挙げたのはハルカだ。
赤のミディアムヘアに白銀の胸当て、それに深紅のスカート。
飛び抜けた美貌も含めて、今日も凜々しさに満ちていた。
「ハルカさん!」
まずはミオが声を弾ませる。
「探していたんだぜ、ハルカ」
ルシアスも笑みを浮かべた。
「私を探していたの?」と驚くハルカ。
「塔の件でお礼を言いたくてな。ハルカが名義を貸してくれたおかげで、俺たちはE級昇格まであと20回ってところまで来た。この調子なら来週か再来週には昇格できるだろう。本当に感謝しているよ」
「えっ」
ハルカはまたしても驚く。
「まだ昇格していなかったの?」
「まぁな」
「なんで?」
「なんでって言われても、ギルドの昇格規定を満たしていないからな」
「増幅器を納めなかったの? それともクエストに失敗した?」
「いいや、どちらも違う。俺たちがただの落ちこぼれってだけさ」
「そう……意外ね」
ハルカにとっては信じがたい話だった。
ルシアスたちの実力なら既に昇格していてもおかしくない。
特に塔を完全攻略したことが大きい。
(本当に不思議な子らね)
独りでに小さく笑うハルカ。
ルシアスとミオは首を傾げた。
「少し話が逸れたけど、そんなわけだから何かお礼をさせてくれよ」
「そうですよ! 私、ハルカさんのために手料理を作りますよ!」
「あはは、ありがとう。でも、手料理はまたの機会で。その代わり、私とPTを組んでもらえないかな?」
「「PT?」」
「実は貴方たちのおかげでB級に昇格してね、とある特殊クエストに参加する権利を得たの。でも、そのクエストは基本的にPTで参加するものなんだよね。だから、塔を攻略した二人の力を貸してもらえると助かるなって」
これに対して、ルシアスは驚いた。
「B級!? ハルカってそんなに上のランクだったんだ!?」
「わー、すごいです!」とミオも続く。
そう、二人はハルカのランクを知らなかったのだ。
若くてソロなので、E級かD級だろうと思い込んでいた。
「ま、特殊クエストには頻繁に参加するからね。身の丈に合わないランクになっちゃったってわけ」
謙遜しつつ、ハルカは話を戻す。
「それで、どうかな?」
ルシアスとミオは目を見合わせてから頷いた。
「俺たちでよければ喜んで協力するけど、本当に大丈夫なの? F級だぜ?」
「ご冗談」と鼻で笑うハルカ。
「いや、マジでF級だって」
「それは分かってるよ。ただ、貴方たちの場合、階級なんて飾りでしょ。塔を攻略したんだから」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
ルシアスとミオは「へへへ」と照れる。
「今回の特殊クエスト、クリアしたら間違いなく昇格できるよ。ただ、PTリーダーがB級以上でなければならないことからも分かる通りかなり危険なの。当然だけど命の保証はできない。油断したら、いえ、油断しなくても死ぬかもしれないわ。それでも大丈夫?」
二人は背筋をブルッと震わせ、唾を飲み込む。
「ルシアス君、どど、どうしましょ? 私たち死ぬかもしれませんよ!?」
「たしかにそうだなぁ」
ルシアスは悩む。
「別に無理して参加しなくていいよ」
これはハルカの本心だった。
だが、彼女は二人が参加するに違いないと思っていた。
理由はないけれど、そんな予感がしていたのだ。
そして、それは見事に的中する。
「F級最後の任務を高難度の特殊クエストで締めるってのも悪くないな」
「ルシアス君、じゃあ、参加するのですか?」
「おうよ。ビシッとクリアして、サクッと昇格してやろうぜ!」
「わっかりましたー!」
何故か敬礼するミオ。
「協力してくれるのね? ありがとう」
「こちらこそ誘ってくれてありがとう。邪魔になるかもしれないがよろしく」
「そんなに気負わなくて大丈夫だよ。私たち以外にも100人近い冒険者が参加するから。当然ながら、その人らもB級以上……というか大半がA級だし。ちょっと危険な寄生ツアーと思えば気楽なんじゃないかな。少なくとも私はそのつもりだよ」
「B級以上が約100人も!? いったいどんなクエストなんだ?」
「そういえばクエストの詳細を言っていなかったわね」
ハルカはニヤリと笑った。
「ドラゴンアイランドに棲息するアースドラゴンの殲滅よ」
「えっ」「マジ?」
「うん! 大マジ!」
「「…………」」
凍りつく二人。
それは特殊クエストの中でもトップクラスに危険な任務だったのだ。




