040 第三章エピローグ:報告
炎の魔人イフリートに液体窒素をぶっかける。
そんな他に類を見ない戦い方の結末は――音が示した。
カランコロン。
イフリートのいた場所からの音だ。
そこに魔人の姿はなく、代わりに魔石が転がっていた。
加えて、その傍に宝箱が現れる。
「ルシアス君、これ、これって……」
ルシアスは体を震わせながら「ああ」と頷く。
「俺たちの勝利だぁ!」
「やったぁあああああああああ!」
二人は跳びはねながらハイタッチする。
「本当にクリアしちゃいましたよ! 異次元迷宮の塔!」
「やっちまったぜ! 俺たち!」
二人は大興奮で弾けまくった。
その場で記念撮影を行い、祝勝会と称してBBQも堪能する。
ついでに仮設トイレで排尿を済ませた。
「よーし! 凱旋だ! 帰ろう!」
「はい!」
心ゆくまで楽しんだら塔をあとにする。
最初で最後となる白いゲートをくぐった。
◇
白いゲートの先は塔の外だった。
夕日が沈もうとしている。
今日は41階から始めたのに、これまでより時間がかかっていた。
「やっぱりダメだな」
「ですねー」
塔を出た二人は黒いゲートをくぐってみた。
だが、転移することはなかった。
塔には一度しか入れないということを体感する。
「ギルドに戻って増幅器を納品するぞー」
「おー!」
テントとテントの間を通っていく二人。
「お、君たち、塔に挑んだのかい?」
歩いていると知らない冒険者が尋ねてきた。
見るからに世話好きそうなおじさんだ。
「そうだよ」とルシアスが答える。
「なかなか楽しめたかい? 見た感じ若いし今回が初挑戦でしょ?」
「そう、初挑戦。すごく楽しめたよ」
「何階までいったの?」
「ばっちり51階までクリアしたぜ」
ルシアスが満面の笑みで答える。
その隣でミオも白い歯を見せてニィっと笑っていた。
「えっ」
驚くおじさん。
「だから51階だって。最後まで行ったんだ」
「そ、そうなんだ。すごいねー! お疲れ様!」
「ありがとう。そっちも頑張ってね」
「ありがとうございますーっ!」
話が終わると、二人は街のほうへ消えていった。
「どうしたんだ?」
そうおじさんに尋ねたのは彼の仲間だ。
「さっき若い二人組が塔から出てきたから話したんだ。そしたらさ、51階までクリアしたって言うんだ」
「はっはっは! それは流石にありえないだろ! たぶん10階かそこらで終わったんだろう。見栄をはって51って言っただけだ。それか、11って言ったのをお前が51って聞き間違えたかだな」
「そんなところだよなー」
二人はルシアスたちの言葉を信じていなかった。
◇
「お名前を掲載してもよろしいでしょうか?」
ギルドの受付嬢が言った。
増幅器を渡すだけの予定だったルシアスたちは驚く。
「名前の掲載? なんで?」
「異次元迷宮の塔を最速でクリアした方々のお名前は、例年、掲示板などに掲載しております。ただ、中には掲載を望まない方もおられますので、こうして事前に許可をいただくようにしています」
「なるほど。俺たちは最速だったのか」
「私たちの名前が有名になってしまいますよ! ルシアス君!」
ミオは嬉しそうに鼻息をふがふがさせている。
しかし、ルシアスの様子は異なっていた。
「いや、掲載はしないでほしい」
「よろしいのですか? もしも掲載をお断りされた場合、次に塔の攻略を果たしたPTが最速攻略組として扱われます。国王陛下がS級の認定に用いる資料にもそのPTが最速として記載されるため、お二方が最速で攻略されたという事実は完全に消失してしまいます」
「それでもやっぱり掲載はしてほしくないな」
「どどど、どうしてなんですかーっ!?」
絶叫するミオ。
「だって目立ちたくないじゃん。目立っていいことなんて何もないよ。俺たちはアポロ祭の一件でそのことを学んだだろ。純粋に強いならまだしも、スマホに頼ってるわけだからな。予期せぬトラブルに巻き込まれるリスクは避けたい」
「あー……それもそうですね……」
ミオが納得する。
受付嬢は話の意味が分からなくて首を傾げていた。
「そういうわけだから掲載はしない方向で頼む」
「かしこまりました」
「それじゃ、俺たちはこれで」
受付嬢は「はい」と頷き、さらに続けた。
「あと少しでランクアップですので、今後も頑張って下さい」
「もうランクアップが見えてきたのか!」
「増幅器様々ですね!」
S級以外のランクアップに関する条件は変わらない。
自分のランク以上のクエストを500回クリアすれば昇格だ。
クエストに失敗した場合、クリア回数のカウントが1回減る。
増幅器は1つにつきクエストクリア5回分だ。
そして、二人が納めた増幅器の数は46個。
今回だけで実に230回もクエストをクリアしたことになる。
それでもまだ昇格できないあたり、彼らの落ちこぼれ具合が際立っていた。
「あと少しって具体的にはどのくらいかな?」
「50回になります」
「本当にもうすぐじゃん!」
ルシアスは声を弾ませた。
「もはやフリッツたちなんざ相手にならないんじゃないか」
「でも、相手も増幅器をたくさん納めますよね、きっと」
「そうか、なら急がないとまずいな……!」
フリッツたちは20階にすら辿り着けずにリタイアした。
当然ながらE級に昇格することなど夢のまた夢である。
そのことを知らないルシアスたちは、必要以上に危機感を高めた。
◇
「さてさて、そろそろあの子らも厳しくなってくる頃かな?」
異次元迷宮の塔の前で、ハルカはボソリと呟いた。
「あの子らの実力を測るだけでなく、私自身の腕がどれだけ成長したかを知るいい機会だし、これから数日は存分に楽しませてもらうわよ」
意気揚々と黒いゲートに突っ込む。
だが、塔の中に転移することはできなかった。
PTメンバーのルシアスたちが外に出たあとだからだ。
「もうリタイアしちゃったの!? やっぱり厳しかったか」
少し拍子抜けだな、と思った。
それと同時に、仕方ないのかな、とも思う。
塔では戦闘能力以外にも試されることがあるから。
「せめて30階には辿り着いているんでしょうね? この私が見込んだんだから、しょうもないところでリタイアしていたら許さないわよ」
ハルカは直ちに街へ戻り、ギルドへ移動した。
そして、受付カウンターに直行し、受付嬢に話しかける。
「私のPTが塔の何階でリタイアしたのか教えてもらえないかな? 名義だけ貸していたものだから、結果を知らないんだよね」
「少々お待ちください」
受付嬢が慣れた手つきで情報を調べた。
「リタイアはしていません」
「どういうこと? 塔から出たのは確かなはずだけど」
「51階までクリアして、1時間ほど前に報告されていきました」
「えっ」
「それによってハルカ様の冒険者ランクがB級になりました。おめでとうございます」
「え? あ、うん、ありがとうございます……」
ハルカはトボトボとギルドの外へ向かって歩く。
「塔が出現してからまだ4日目よ。初日に挑んだ最速組ですら40階を超えたところでしょ。あの子らは2日目から挑んでいるから、普通に考えたら30階まで行けるだけでも大したもののはず。なのにもう51階をクリアした? たった二人で? シルバーフォックスやスケアクロウ、プラチナプテラとは当たらなかったのかな? いや、だとしてもやはり厳しいわ。そもそも塔は二人で挑むものじゃないんだし……」
ハルカは自分の考えを口に出しながら歩く。
どれだけ考えても、ルシアスたちがどうやってクリアしたのか分からなかった。
「異次元迷宮の塔じゃ実力を測りきれない、か。やれやれ、どこまでも想像以上の化け物コンビね……」
ハルカは「面白い」とニヤける。
ますますルシアスたちへの興味が強まった。
これにて第三章が終了です。
明日から終章を投稿していきます。
物語の行く末にご期待ください!
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