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034 第37階のテレシア

 ルシアスたちの快進撃が37階で止まった。


「なんだここ?」


 37階のフィールドはどこぞの島だった。

 彼らの目の前には海が広がっていて、すぐ傍に年季の入った桟橋がある。

 太陽が燦然と照りつけ、後ろには木々が生い茂っていた。

 それと――。


「助けてください!」


 ――女がいた。

 銀色の艶やかな長い髪の女で、年齢はルシアスたちと同じくらい。

 ミオに負けず劣らずの大きな胸を誇り、顔も可愛い。


 女はルシアスの胸に飛び込んだ。

 ぎゅっと抱きつき、潤んだ目で彼を見る。


「どうしたんだい?」


 ルシアスはキラリンと白い歯を輝かせて受け入れる。


「待ってください! 人に扮した魔物かもしれませんよ!」


 アサルトライフルを構えるミオ。


「それならそれでいいよ。こんな可愛い子に殺されるなら本望さ」


「ちょっとー! 何を言ってるんですかー! ダメですよ! ダメ!」


 ミオは強引に女を引き剥がす。


「おいおい、ミオ、嫉妬はよせ」


「嫉妬なんて……!」


 していた。

 本当は少し、いや、かなり嫉妬している。

 ただ、魔物かもしれないという警戒心も持っていた。


「とりあえず用件を言うんだ。俺たちにどうしてほしい?」


「向こうの島まで私を送り届けてください!」


 女が海を越えた先にある島を指した。

 大きな館が建っている。


「私はあの館に住んでいるテレシアと申します。不慮の事故でこの島に流れ着きました。しかし、そのことを館の者たちは知りません。このままでは餓死してしまいます。ですから、どうか、どうか私を送り届けてください。もちろんタダでとは言いません。当家に伝わる財宝――漆黒の水晶を差し上げます」


 増幅器のことだ。


「送り届けるだけでいいの? 魔物退治は?」


「海には危険な魔物が棲息しております……」


「そいつを倒さないと渡れないわけだ」


「はい」


「状況は分かった!」


 ルシアスはミオに視線を移す。


「俺は協力しようと思うが、ミオはどうだ?」


「私も賛成です! さっきは魔物かもと疑ってごめんなさいっ!」


「いえ、お気になさらず」


 テレシアは笑みを浮かべ、話を進めた。


「海を渡るには船が必要ですよね」


「まぁ、そうだな」


「そうなると船を造る必要があります。幸いにもこの島には丈夫な木や竹があります。仰っていただければそれらの場所までご案内いたしますよ」


「いや、その必要はない」


「さようですか。出過ぎた発言をしてしまい申し訳ございません。それでは、私はこちらで待機しております。出発の準備が出来たらお呼びください」


「いや、その必要もない」


「えっ」


「今すぐに出発しよう」


「それはどういう……」


 困惑するテレシア。

 ルシアスはニヤリと笑い、スマホを取り出した。

 そして、桟橋の横に潜水艦を召喚する。


「君を運ぶ船はコイツだ」


「これが……船……?」


「そうさ。そこらの船より安全で、海の魔物も駆逐できる」


「ほ、本当ですか!?」


「うむ。では乗り込むとしよう」


「はい」


 三人は潜水艦に搭乗した。

 操縦席にルシアスが座ると、ミオが「待ってください」と手を挙げる。


「今日は私に操縦させてください! 大魔王イカの時、ルシアス君しか操縦していなかったので!」


「そういえばそうだったな。よし、なら頼むよ」


「やったー!」


 ルシアスが席を立ち、ミオが操縦席に着く。


「俺たちはここでミオの操縦を眺めるとしよう」


「はい」


 ルシアスとテレシアは、ミオの後ろにある椅子に並んで座る。


「それでテレシアちゃん、彼氏や恋人とかいる?」


「いえ、いません」


「だったら館に着いたら少し遊ばない? 俺、君を救った勇者様だぜ?」


 ルシアスがテレシアのナンパを始める。

 彼女の肩に腕を回し、鼻の下を伸ばして上機嫌だ。

 勇者の肩書きを活かせば口説き落とせると確信していた。


 それに気づいたミオは頬を膨らませて叫んだ。


「ダメー! やっぱりルシアス君が操縦してください!」


「えー、なんでだよ。今、テレシアちゃんと愛を語らおうとしていたのに」


「だからですよ! そんなこと、この私が認めません! 私たちは異次元迷宮の塔に挑む冒険者ですよ! 戦場でそんなこと、ダメ! 絶対にダメです!」


「なんだ嫉妬かよー、見苦しい奴だ」


「し、嫉妬じゃないもん!」


 嘘。完全な嫉妬だ。


「しゃーねーなー、もう」


 ルシアスとミオは再び座席を交換した。


「テレシアちゃん、俺、フリーだから!」


 ルシアスはウインクして潜水艦を発進させる。


「私、女の子にデレデレするルシアス君は嫌いだー!」


 二人のやり取りを見て、テレシアが「あはは」と笑った。


「ミオ様、ご安心ください。私、ルシアス様にそういう気はございません」


「そんなー!」と落胆するルシアス。


 一方、ミオは「どうしてですか?」と首を傾げていた。

 心なしか唇が尖っている。

 なびかない宣言をされるのは、それはそれで不満だった。

 女心である。


「だって私……」


 テレシアの手がミオの太ももを撫でる。

 さらに彼女は、ミオの首筋をチロリと舐め、妖艶な笑みを浮かべた。


「興味があるのは女性ですので」


 ニコッと微笑むテレシア。


「なんですとぉー!?」


 絶叫するミオ。


「それはそれでアリじゃん!」


 ルシアスは鼻息を荒くして振り返る。


「ナシですよ! ナシ! 私はナシです!」


 ぶんぶん顔を振るミオ。


「私じゃご不満ですか……?」


 テレシアは上目遣いでミオを見つめる。

 両者の顔は息がかかる距離まで近づいていた。


「やっちゃえ、ミオ! キスだ! キス!」


 ルシアスが大興奮で茶化す。

 そんな時、前方に3体の大魔王イカが現れた。


「ルシアス君、敵、敵ィ!」


「あーもう、人が楽しんでいる時に邪魔な奴等だ!」


 ルシアスはサクッと魚雷を発射。

 大魔王イカは、ゴブリンやスライムと同じ感覚で駆除された。


「ミオ様、館に着いたらお風呂をに入りましょう。ミオ様のお体の隅から隅まで、私が丁寧に洗い流させていただきます」


「やだー! 助けてー! ルシアス君ー! 助けてー!」


 ミオの悲鳴が艦内に響き続けるのだった。


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