033 グランド・セフト・ルシアス
ルシアスが召喚した物――それは、八輪駆動の大型装甲車だった。
「なんですかこの大きさはー! それにタイヤの数が前に乗った車の倍ありますよ!」
ミオは「ぎょえー」とびっくりする。
「商品説明によると“軍用”らしい」
「出た! 信頼と安心の証、軍用!」
二人は「軍用」がどういう意味かよく分かっていない。
ただ、軍用=高くて優秀、という認識を持っていた。
DVDに登場する物も軍用と付く製品は決まって強力だ。
「この車は装甲車というらしくて、大きいだけでなく頑丈らしい。なんと銃弾をぶち込んでもビクともしないそうだ」
ルシアスは実演してみせた。
アサルトライフルで装甲車の側面を銃撃する。
しかし銃弾は弾かれ、装甲車には傷がつかなかった。
「なんですとー!? す、すす、すごいじゃないですか!」
「だろー? これなら敵の群れに突っ込んでも安心だ」
追加で更なる装甲車を召喚するルシアス。
「ミオは門の付近で暴れろ。俺は敵陣のど真ん中に突っ込んでくる」
「やったー!」
二人は手分けして装甲車に乗り込む。
ルシアスは先頭の車だ。
プップー♪
ルシアスがクラクションで合図を送る
それに対して、ミオもクラクションを返した。
「ショータイムだ!」
ルシアスやニヤリと笑い、アクセルを踏み込んだ。
装甲車のタイヤがキュルルルと唸りを上げて動き出す。
「グォ!?」
ゆっくりと城に迫っていた魔物の群れが驚く。
だが、連中は逃げることなく、無謀な戦いを挑んだ。
全長3メートルの人型モンスターが道を阻む。オークだ。
どうやら正面から装甲車を受け止めるつもりらしい。
「止めれるものなら止めてみやがれ!」
装甲車はますます加速していき、オークを貫いた。
さらに勢いを殺すことなく周囲の雑魚を踏み潰していく。
「これがグランド・セフト・ルシアスだぁ!」
最近ハマっているゲームをもじって上機嫌のルシアス。
その頃、ミオは――。
「これなら安全に戦えるー! もうサイコー!」
こちらも歓喜の轢殺ショーを繰り広げていた。
彼女の通ったあとに残るのは魔石だけだ。
その後も二人は暴れ狂い、そして、全ての魔物を轢殺した。
「「ふぅ」」
門の前に停車させると、ルシアスたちは車を降りた。
額の汗を拭うルシアスに、ミオが嬉しそうに駆け寄る。
「楽しかったですねー! ルシアス君!」
「まぁな。でも運転は疲れるから次は普通に戦いたいな」
「それ分かります。私もなんだかお疲れです」
ルシアスは二台の装甲車を〈吸収〉してから城に戻った。
◇
「も、もう殲滅したというのか……! なんというスピードじゃ!」
王様はルシアスたちの活躍に驚いていた。
「驚くのはそこじゃなくて、たった二人で1万の敵を屠ったところだろ」
王様が返事をする前に、「まぁいい」とルシアスは話を進める。
「これで任務は終了した。ほら、報酬と黒いゲートをよこせ」
「うむ、そうだな」
国王が指を鳴らす。
ルシアスの目の前に黒いゲートが現れる。
宝箱は数人の兵士が協力して運んできた。
「サンキュー!」
ルシアスはサクッと増幅器を回収する。
「さて、次に行くか」
「ですねー!」
「じゃあな、どこぞの王様!」
「うむ、達者でな」
21階を問題なく突破した二人は、次の階層へ進んだ。
◇
「よし、ここで少し休憩だ!」
「ですねー!」
サクサクと塔の攻略を進め、二人は30階に到着した。
このエリアには、20階の10分の1にあたる200人程しかいなかった。
しかも、その大半がルシアスたちより1日早く挑んでいる冒険者だ。
「こんな時間だから冒険者の数が少ないみたいだな」
「まだ昼過ぎですもんね。皆さんサクサク進んでいるのでしょう」
二人は勘違いしていた。
このエリアにいる冒険者の数が少ない理由を。
時間のせいだとばかり思い込んでいた。
たしかに時間も多少は関係している。
しかし、主な理由はこの階に辿りつくだけの実力がないからだ。
29階までを突破するには、かなりの殲滅力が必要になる。
とにかく敵の数が多いので、倒す速度が遅いと飲み込まれてしまう。
ルシアスたちが思っている以上に塔の難易度は高いのだ。
「ここらでリタイアかな」
「怪我をしたら元も子もないからな」
「全くだ」
多くの冒険者が白いゲートに進む。
己の分を弁えているからこそできる選択だ。
この階層に辿り着けるのは、そんなベテランだけである。
唯一の例外はルシアスとミオくらいだ。
「挑まずに撤退するのか」
「なんだか勿体ないですねー」
「とりあえず挑んでみて辛かったら撤退でいいのにな」
「ですよねー、私もそう思います」
新米特有の感想を抱きながら、二人は黒いゲートに向かう。
「今日は40階まで行くぞー!」
「おー!」
周囲の冒険者が満身創痍の中、ルシアスたちは余裕そうに次へ進んだ。
「あの若い奴ら、見たことない顔だな」
「ここまで来てもピンピンしているし、只者じゃなさそうだ」
ゲートの近くにあるテントで、中年の二人組が会話する。
「あの若さでこの階層か。ハルカちゃんを思い出すな」
「ハルカちゃんって……あー、あの赤い髪の子か」
「そうそう」
「そういえばいたなー! C級のPTに混ざってたE級の子でしょ?」
「今じゃC級だぜ、ハルカちゃん。しかもD級以降はずっとソロ専って話だ」
「そいつはすげーな。さっきの子らもハルカちゃんみたいになるのかな」
「いや、もしかするとそれ以上かもな」
「え? ハルカちゃんより上だっていうのか? 流石にそれはないだろ」
「分からないぜ。なにせあいつらは二人でここまで来たんだ。ハルカちゃんは今でこそ強いとはいえ、当時はC級の連中についていくのがやっとって感じだったと聞いている」
「自分たちの実力だけでここまで来たあいつらのほうがすごいってことか」
「俺はそう考えるが」
「たまらんなぁ。我々みたいな平凡な冒険者は立つ瀬がないってものだ」
「はは、違いねぇ。俺たちにも才能があればなー」
二人の中年は酒を酌み交わすと、テントを畳んで白いゲートに進んだ。




