032 小さな城を守る勇者様
ルシアスたちは20階で夜を明かすことにした。
調理道具はそのままだと邪魔になるので全て〈吸収〉する。
その時、当然ながらこのような質問が飛びだした。
「鍋が光になって消えたぞ!? どういうことだ!?」
スマホの〈吸収〉を見て驚いているのだ。
これに対しても、ルシアスは適当な嘘で答えた。
「俺が手に持っているこの〈スマートフォン〉って道具は、エルフ族の技術協力があって作られているんだ。だからさっきの鍋なんかもエルフ族の力で具現化された――言うなれば“実体のある幻”ってやつだ。詳しく説明すると、ホーリーウッド係数を使ったジルハルト演算によって導き出された数値に従って、エルフ族の持つセレインパウダーを調合してだな……ペラペラ、ペラペラ、ペーラペラ」
この世界にはエルフが存在する。
エルフは結界の中で過ごしているため、人前には滅多に現れない。
人間界に伝わるエルフの伝承は、大半がどこかの誰かによる作り話だ。
それをいいことに、ルシアスはエルフ族と提携しているなどと言った。
エルフ関連は未知のことが多いため、嘘を言ってもまずバレない。
さらに意味不明な係数やセレインパウダーなる用語も組み合わせた。
もちろん即席で造った用語だが、これが抜群の効果を発揮する。
「ああ、もういい! 分かった! よく分かった! とにかくすげぇよ!」
皆、難しい話は勘弁してくれと言って去っていく。
ルシアスはニッコリと微笑んだ。
◇
「昨日は最高のメシをありがとうな」
「21階からは敵がグッと強くなるぜ」
「あんまり無理するなよ」
「まずいと思ったらすぐに白いゲートで離脱だぞ」
「若い時はランク上げに焦るものだが、どうせ適当なところで詰まる」
「何十年もこの稼業を続けた奴こそが一流の冒険者なんだ」
「だから冒険者生命に関わるような怪我だけはしないようにな」
翌朝、ルシアスたちは多くの冒険者から感謝の言葉と助言を貰った。
これまで見向きもされなかったのに、天ぷら一つで可愛い後輩扱いだ。
そのことに悪い気はしなかった。
「みんな喜んでくれてよかったですね!」
「俺たちも楽しめたし大満足だぜ」
二人は準備を済ませると、21階に向かった。
◇
21階についてすぐ、ルシアスたちは思った。
今までとは明らかにタイプが違うな、と。
場所はどこぞの小さな城の中で、そこには現地人がいたのだ。
「ここは……謁見の間か?」
「赤い絨毯があって天井にはシャンデリア、目の前には玉座があるし、おそらくそうでしょう」
困惑する二人。
周囲の人間はルシアスたちを見て喜んでいる。
襲ってくる気配はない。
「ようこそ参られた、勇者よ!」
玉座に座っている王様が言った。
「勇者って俺たちのことか?」
「いかにも! 早速だがそなたらには魔物の討伐をお願いしたい!」
「まじで早速だな。で、どこに魔物がいる?」
「城の外の草原だ。約1万の軍勢がこの城を包囲している。そなたらには可及的速やかにこれを排除してもらいたい」
「1万!? 正気か? こっちは二人だぞ?」
「もちろん正気だ」
「なんですとー!?」
ミオが頬に両手を当てて絶叫する。
「無理ですよ! 流石に1万は無理ですって! アサルトライフルでも無理ですよ! ですよね!? ルシアス君!」
「そうだな、ちと厳しい」
「ふむ、ならば帰るか?」
国王が指をパチンと鳴らす。
その瞬間、二人の前に白いゲートが現れた。
リタイア用のゲートだ。
「こちらはいっこうにかまわぬが?」
「なんで助けを乞う立場なのに偉そうなんだよ……」
ルシアスは苦笑いを浮かべる。
「それでどうする? やるのか? やらぬのか?」
「まぁどうにかしてやろう。その代わり、ちゃんと宝箱は渡せよな」
「分かっておる――おい、持ってこい」
国王が命令すると、衛兵が宝箱を運んできた。
そして、ルシアスに向けて箱を開けてみせる。
中には増幅器が入っていた。
「これでいいか?」
「オーケー、利害が一致した」
「先に言っておくが、魔物が一体でも城内に侵入したら失敗だからな。しっかりと守るように」
「なかなか厳しい条件だな」
「案ずるな。この城は小さい。門は一つしかないから守るのに適している」
「魔物がよじ登る可能性は?」
「魔物にそのような能力はない」
「そうか、それは助かるな。では直ちに取りかからせてもらうとしよう」
ルシアスはミオを連れて謁見の間をあとにする。
その足で城を出た。
「マジで小さいな」
外はルシアスたちのイメージと違っていた。
てっきり城の周囲には家々が並んでいるのかと思っていたのだ。
だが、実際には城のすぐ外側は城壁に囲まれていた。
「こりゃ城というより立派な防壁を備えた城みたいな館って感じだな」
「そんなことより、ど、どうしますか? 本当にいますよ! 1万体!」
「たしかにすごい数だ」
開かれている門の外を指しながらミオが顔を青くする。
外の草原には魔物が蠢いていた。
ただ、敵自体はF級の青いゴブリンの群れなので大したことはない。
完全なる質より量だ。
厄災クエストを彷彿させた。
「二人で銃をぶっ放すだけじゃきついよな」
「きついというか無理です! あれだけの数に押し寄せられたら弾倉を交換する時間がありませんよ!」
「だよな。だから切り札を用意しておいた」
ルシアスはスマホを取り出し、門の手前に切り札を召喚した。




