031 発明家は伊達じゃない
ルシアスとミオは20階のセーフエリアに辿り着いた。
塔は全部で51階なので、1日目にして4割ほど消化したことになる。
かなりのハイペースと言っても過言ではない。
「今日はここまでだ!」
「もうヘトヘトですー!」
このエリアは10階に比べて冒険者の数が少なかった。
およそ2000人――10階の約3分の1だ。
テントを立てるスペースは十分にあった。
「ミオ、フリッツたちの姿が見えなくないか?」
「あ、本当だ、いませんね」
このエリアにフリッツたちの姿が見当たらない。
「多いから見落としている可能性は……ないか」
「先に進んだんじゃないですか?」
「たぶんそうだろうな。アイツは負けず嫌いは相当だ。同じPTのE級の奴等に強いところを見せつけようとガンガン先に進んでいるに違いない」
「それですよ! きっと!」
二人の考えは誤りだった。
この頃、フリッツたちは塔の外にいたのだ。
11階で早々に脱落していた。
もちろん、そのことに二人が気づくことはない。
「とりあえずこの辺にテントをこしらえるか」
隅っこの空きスペースを指すルシアス。
ミオは「はい!」と同意した。
「テントは1個でいいよな? たぶんこれから人が増えるだろうし、俺たちだけ一人1テントってのも迷惑だろうから」
「了解です!」
ルシアスはスマホでテントを買って組み立てる。
彼らのテントはワンタッチテントという楽に設営できるもの。
説明書に従って覚束ない手つきで作業をしても、ものの数分で完成した。
「思ったより広いですね! このテント!」
完成したテントの中を見て声を弾ませるミオ。
ルシアスは「だな」と笑みを浮かべた。
「これなら二人で利用しても窮屈じゃないぞ!」
「さっそくお布団を敷きましょう!」
「おうよ!」
スマホの〈ショッピング〉により、二人の施設が急速に拡充される。
布団が敷かれ、ポータブルDVDプレーヤーが設置される。
プレーヤーの音が漏れないようワイヤレスヘッドホンも用意した。
明らかに異彩を放っており、その異様ぶりは料理にまで及んだ。
「ルシアス君、串! 串を補充してください! ネタも!」
「はいよ!」
二人は巧みな連携で作業を進めていく。
周りが塩気の強い干し肉を囓る中、二人が作ったのは――。
「串一丁! 完成!」
「わー! このエビ、サクサクして美味しいですー!」
「ガンガン揚げてガンガン食うぞー!」
「はいー!」
――なんと天ぷらだった。
ミニコンロの上に油の入った銅の容器を設置し、それで揚げていく。
必要最低限の衣を纏った一口大のネタは、どれも風味が豊かで美味しい。
「おいおい、こんなところで天ぷらだと?」
「羨ましいな! 俺たちにも分けてくれないか?」
ウキウキで天ぷらを食べていると、周囲の冒険者が群がってきた。
それに対してルシアスは「ふざけんじゃねぇぞ、これは俺たちの物だ。失せろ、このクソ共が」と怒鳴り散らしながら銃を乱射し、ドヤ顔で食べ物を独占する――なんてことはなかった。
「いいぜ。みんなで食べよう! 俺たちの奢りだ!」
ルシアスは笑顔で受け入れ、大きな銅の鍋とそれに見合うサイズのコンロを用意した。
「おいおい、なんだこの鍋は」
「どこから出たんだよ!」
「ていうかどうやって火が点いているんだ!?」
「この変な火を出すアイテムはなんだ!?」
周囲の人間が驚いている。
ルシアスは「俺たちは発明家でね」と嘘を吐く。
発明家と言っておけば面倒を避けられると学んでいた。
「ほぇー、実用性に富んだ物を作る発明家もいるんだな!」
「その若さで発明家兼冒険者とは大したもんだ!」
彼の嘘を誰も疑わなかった。
そうしてルシアスたちは、みんなで天ぷらを楽しむ。
「俺たちも混ぜてくれよ!」
「金なら払うからさ! 頼むよ!」
誰もがルシアスの天ぷらを求める。
流石に鍋が一つだと回らないので、大量に用意する。
いつの間にやら20階のセーフエリアは天ぷら会場になっていた。
「あー、米が食いてぇ!」
誰かがそう呟く。
「なら米も用意すっかー!」
ルシアスは迷うことなく巨大釜を召喚。
熱々でふわふわの米を皆に振る舞う。
「うんめー!」
「まさか塔でこんなうめぇもんが食えるとは!」
「ありがとうな! えーっと、名前なんだっけ?」
「ルシアスだよ。で、相方の女はミオだ」
「ルシアスにミオちゃん、あんたら最高だぜ!」
「ルシアス!」「ルシアス!」「ルシアス!」
「ミオちゃん!」「ミオちゃん!」「ミオちゃん!」
皆がルシアスとミオの名を合唱する。
厄災クエストで44位になっても騒がれなかったというのに、
思いもよらぬ形で注目されてしまうルシアスたちなのであった。