030 偽者に気づいた理由
ルシアスが魔物を倒すと、霧は急速に晴れていった。
「まさかあんな魔物がいるとは……。想像以上に似ていたな」
ルシアスが倒した敵の名はスケアクロウ。
相手が複数の場合は、今回のように霧を使って分断する。
そして、相手の仲間に化けて近づき、罠に嵌めてくるのだ。
「ルシアス君!」
霧が晴れると、すぐ近くにミオがいた。
今の今まで霧の特殊効果によって感知できなくなっていたのだ。
「ミオ!」
「今度は本物のルシアス君でしょうね!?」
ミオが武器を構える。
ルシアスが与えたアサルトライフルだ。
「お前こそ偽者ではないか――と言いたいところだが、本物だろうな」
「ほぇ?」
「だってお前、アサルトライフルを持っているし」
「あっ」
「見ての通り俺も持っている」
ルシアスは空に向かって銃を撃ち「本物だぜ」と証明する。
「本当だー! 本物のルシアス君だー!」
「もっとも、わざわざ撃たなくても証明できたけどな」
「そうなんですか!?」
「だってほら、そこに――」
ルシアスが後ろを指す。
「――宝箱があるだろ? 黒いゲートも」
「あります!」
「つまりこのエリアの敵を駆逐し終えたってことだ」
「なるほどー! ルシアス君は流石ですね!」
「お前の馬鹿っぷりも相変わらずだな」
「なにをー!」
頬を膨らませるミオ。
そんな彼女を見て笑うルシアス。
「とにかく間一髪だったな、俺たち」
「へっ? 間一髪?」
「前をよく見てみろ」
ルシアスが前方に視線を向ける。
スケアクロウが進ませようとしていた方角だ。
そこは崖になっていた。
落ちたらひとたまりもない。
「うひゃー、あと少しで落ちていましたよ!」
「今後はこういう敵に備えて対策を考えておかないとな」
「ですねー!」
二人はくるりと身を翻し、宝箱に向かう。
「ところでミオ、お前はどうやって偽者だと見破ったんだ?」
「と言いますと?」
「本物の俺を見て偽者か分からなかったってことは、偽者が銃を持っていなかったことに気づいていないはずだ。もしそこで気づいているなら、本物の俺を目の当たりにした時、真っ先に銃の有無を確認していただろ」
「ええ、まぁ、たしかに、そうですね」
「すると……どうやって判断したんだ? 偽者だと」
「そ、それは、直感ですよ! 女の勘ってやつです!」
「そうなのか」
「そうですよ! 女には分かるものなんです! ビビビッと!」
「女ってのはすげーんだな」
「そういうことです! 女ってのはすげーんです!」
ルシアスはミオの発言を疑わなかった。
だが、真実は違っている。
ミオの説明には多少の嘘が含まれていた。
たしかに最初のきっかけは勘だ。
普段のルシアスと何か雰囲気が違うと感じた。
しかし、この時点では偽者と確信することはできなかった。
無理もないことだ。
スケアクロウは対象の記憶を読んでなりきっている。
姿形だけでなく、声や香りまで本物のルシアスと同じだ。
ミオがルシアスの裸を知っている場合、脇毛の数まで同じになる。
そこでミオは筋道を立てて考えた。
偽者の場合、どうしてルシアスのことを知っているのか。
そして彼女は、スケアクロウの特性である記憶を読む能力に思い至った。
あとはそれを逆手に取った質問をするだけでいい。
『もしあなたが本物のルシアス君ならこの質問に答えられるはずです! それでは問題! いつもルシアス君より先に起きる私ですが、起きたら真っ先にすることがあります! さて、それはなんでしょうか!?』
この問いに対して、偽者のルシアスは即答だった。
『俺の額にチューだろ? 楽勝だZE☆』
それは正解だ。
実際、ミオは密かにルシアスの頬や額にキスをしている。
しかし、それはミオだけが知り得る情報なのだ。
本物のルシアスは寝ているので気づいていない。
なのに知っているということは、すなわち偽者である。
『正解でーす! ルシアス君、貴方は偽者でーす! アウトー!』
そう言ってミオは偽者を銃殺した。
「増幅器ゲット! またしてもクエストを5回クリアしちまったぜ」
「絶好調ですねー!」
ルシアスがバックパックに漆黒の水晶玉を収納する。
「あと少しで20階だ。今日はそこまで行こうぜ。やっぱり休むならセーフエリアで休みたい」
「賛成です! 行きましょう!」
ルシアスが先にゲートをくぐる。
その姿に頼もしさを感じてニヤけるミオ。
「よーし、頑張るぞー!」
彼女はリズミカルなスキップでゲートに飛び込んだ。




