003 ミオ
それから数日間、ルシアスはG級の魔物を狩りまくった。
狩って、狩って、ひたすらに狩って、そして確信する。
――銃があればPTなど不要だ。
その日、ルシアスはギルドに来ていた。
ギルドは冒険者が集う施設であり、色々な機能を備えている。
最近は魔石を換金することでしか利用していなかった。
今日の目的は魔石の換金ではない。
クエストだ。
ギルドでは冒険者に仕事を与えている。
それがクエストと呼ばれるもので、内容は主に魔物退治だ。
クエストをこなすことは、冒険者にとって極めて重要である。
貴重な収入源であり、何より冒険者ランクを上げるのに必要なのだ。
冒険者ランクが高いと様々な優遇措置を受けられる。
特殊なエリアの出入り、定年後の冒険者年金、エトセトラ……。
「Fランクのクエストを適当に見繕ってほしい。内容は問わない」
受付カウンターに行ったルシアスは、受付嬢に話しかける。
受付嬢は「かしこまりました」と答え、手元の資料を確認した。
「これらのクエストはいかがでしょうか?」
数枚の用紙がカウンターに並べられる。
クエスト票と呼ばれるもので、クエストの詳細が書かれていた。
ルシアスはその中から自分に向いているクエストを探す。
しかし、なかなか決めることができなかった。
(冒険者ランクを上げるには自分と同じランク以上のクエストを500回以上クリアする必要がある。だからF級のクエストを受けようとしているが……本当に大丈夫なのか……?)
今になって不安がこみ上げてきたのだ。
ルシアスの冒険者ランクはF。
これまでFランクのクエストはPTで受けていた。
しかも、フリッツや他の仲間に寄生する形で。
ところが今はソロだ。
これまでの彼なら間違いなく失敗するだろう。
失敗だけなら違約金を払って済むからまだいい。
最悪の場合は命を落とす危険があった。
「どうされますか?」
受付嬢が苛立ち気味に尋ねる。
ルシアスは「検討したい」と言ってその場を離れた。
近くのテーブル席に腰を下ろし、握りしめたクエスト票を確認する。
どれを見ても魔物に食い殺される気がした。
「やはり万年Fランカーとして骨を埋めるか……」
膝の上に置いたアサルトライフルを撫でながら考える。
そんな時、ギルド内に女の声が響いた。
「本当に役立たずね! あんた、何のために存在しているの!?」
「ご、ごめんなさい」
「謝ればいいってもんじゃないでしょ! ドジだし、無能だし、足を引っ張るしか能が無いんだから! ちょっと顔が良くて男にチヤホヤされてるからって舐めてない?」
「そんなことは……」
「もういい! あんたなんかクビよクビ!」
「はい……」
声の主は女性限定PTのリーダーだった。
叱責されているのは、金色のセミロングが特徴的な女だ。
なかなかの巨乳で、服は何故か修道服を着ている。
ルシアスと同年齢の彼女は、名をミオという。
ミオは涙を流しながらギルドから出て行く。
リーダーの言っていることは完全な正論と思った。
自分の不甲斐なさが腹立たしい。
だが、いくら頑張っても結果が伴わないのだ。
(あの女も追放されたのか)
ミオに数日前の自分の姿を重ねるルシアス。
だからということもあり、彼は考えるよりも先に動いていた。
「待ってくれ」
「ふぇ?」
ルシアスはギルドを出たところでミオを呼び止めた。
「お前、PTを追放されたんだろ?」
「はい……」
ぐすんと涙をこぼすミオ。
彼女の頬を伝う涙を指で拭き、ルシアスは言った。
「俺とPTを組もうぜ」
「PT? 私とですか?」
「もちろんだ。俺も先日追放されたクチでね。Fランカーだよ」
「なんと!」
「たしかに俺たちは無能だろうよ。だからってこのまま終わっていいのか? 悔しいだろ。だから見返してやろうぜ」
どちらかといえば、自分に対してのセリフだ。
だが、この言葉はミオの心に響いた。
「私なんかで大丈夫でしょうか?」
ルシアスはニヤリと笑う。
「大丈夫さ。俺にはとっておきの武器がある――コレさ」
アサルトライフルを見せつけるルシアス。
当然、ミオは首を傾げた。
「コイツがいかにすごいかはあとで分かるさ。コレがあれば俺やお前でも敵を軽々倒せるぜ」
「本当ですか!?」
「本当さ。だからそんなおもちゃは捨てるといい」
ルシアスがおもちゃと言ったのは杖だ。
武器屋に行けば端金で売っている初心者用の杖。
「俺も剣を捨てた。剣や杖なんてのはもういらないのさ」
「分かりました!」
ミオが「えいっ」と杖を投げ捨てる。
ルシアスは「それでいい」と頷いた。
「才能に恵まれた奴等に見せつけようぜ、運に恵まれた奴等の力をよ!」
「はい!」
もう迷いはない。
ルシアスはミオを引き連れ、F級クエストを受けることにした。