026 転移ゲートとピッキング
塔の仕様上、多くの冒険者は入念に準備を整える。
しかし、ルシアスたちにその必要はなかった。
スマホでサクッと買い物をすればいいからだ。
それでも、二人は翌朝まで休むことにした。
塔が現れる前――草原をかっ飛ばしていた時に疲労が溜まっていたから。
十分な休息を取り、いよいよ塔に挑む時がやってきた。
「うお、一日ですげぇことになってんな」
「全国から続々と冒険者が集まってきていますからね。今アポロタウンの宿屋はどこも埋まっているみたいですよ。宿泊費も通常の10倍くらいするとか」
「この有様を見れば頷けるな」
塔の周囲には大量のテントが並んでいた。
アポロタウンの宿屋を確保できなかった冒険者たちだ。
もはや草原というよりテント平原とでもいうべき状況だ。
「これが塔の入口か」
「たしかに普通と違いますね」
出入口といえば扉になっているのが普通だ。
しかし異次元迷宮の塔に関しては違っていた。
扉があるはずの場所に、異次元へ転移するゲートがあるのだ。
見た目は縦長の黒いモヤモヤした楕円形。
それをくぐると塔の1階へ転移する。
「おいおい、そんな装備で挑むつもりか?」
ルシアスたちに中年の冒険者が声を掛ける。
彼はパンパンに膨らんだバックパックを背負っていた。
「何か問題でも?」と首を傾げるルシアス。
「そりゃ問題大ありだろうよ。お前さんや嬢ちゃんのバックパック、ぺたんこじゃねぇか」
「ああ、これは魔石を入れるための物なんでね」
「そいつは結構だが、中に入ると出られないんだぜ? 言っておくが中に水飲み場や店なんてねぇぞ」
「大丈夫さ」
ルシアスが力強い口調で頷く。
それを見たおっさん冒険者は誤解した。
「記念に挑戦するにしてももう少し準備したほうがいいけどなぁ、5年に1度のチャンスなんだし。ま、お前さんらがかまわないって言うならそれでいいけどさ」
おっさんはルシアスたちが早々に逃げ帰る前提だと思っていた。
そのことにルシアスも気づいていたが、面倒なので指摘しない。
「できる限り頑張るさ。じゃあな」
ルシアスとミオはゲートをくぐった。
◇
ゲートの向こうには荒野が広がっていた。
10メートル程の小さな岩山が乱立している。
そこら中にスライムゴブリンが湧いていた。
「ここは本当に塔の中なのか?」
「不思議ですねー!」
「見た感じ相手はザコしかいない。ミオ、適度に散開して効率よく狩るぞ。弾倉のストックは十分にあるな?」
「大丈夫です!」
「よし、では狩りの時間だ!」
ルシアスたちは二手に分かれた。
そして、蠢くスライムゴブリンを銃殺刑に処していく。
単発モードのアサルトライフルで丁寧に一発一殺。
――というのは最初だけで、すぐにフルオートでばら撒いた。
「ああ、もう面倒くせぇ!」
「えいやーっ! そこにも! やー!」
ミオも上機嫌で戦っている。
どちらも銃をぶっ放している時は気分が高揚していた。
強烈な銃声は耳が痛くなるけれど、それ以外は快感だ。
「これで」「ラストー!」
最後の1体を同時射撃で仕留めて戦いが終了する。
「ハルカさんの言っていた通り、新たな魔物は湧きませんね」
「そういう仕様らしい。だから、セーフエリアが遠くて休憩したいなって場合は、無理に進まずその場で休むんだ」
「そうなんですか!?」
「さっき塔の前で誰かが言ってたよ」
「おー、素晴らしい盗聴力!」
「へへ、まぁな」
二人は雑談をしながら魔石を回収していく。
「ところで増幅器はどこでしょうか?」
「増幅器もそうだが、2階へ行くためのゲートはどこだ?」
魔石の回収が終えた二人は、右往左往してから初期地点に戻る。
するとそこには、黒いゲートと白いゲート、あと宝箱があった。
「白いゲートがリタイア用ですよね」とミオ。
「そのはずだ。なにせ1階に来た当初からあったし」
「えっ!? ありました!?」
「あったよ。気づいていなかったのか」
「前しか見ていませんでしたぁ……」
「だから黒いゲートに入れば次に進めるとして――」
ルシアスがゲートの前にある宝箱を開けようとする。
しかし、箱には鍵がかかっていた。
「――問題はコイツだな」
「ありゃ? 鍵がかかっていますよ!」
ミオも箱を開けようとした。
「宝箱に鍵が掛かっている点は通常のダンジョンと同じだな」
「すると開けるには〈ピッキング〉が必要ですね」
「うむ」
「もちろん私たちが使えるわけもないので、かくなる上はスマホで解決しちゃいますか!」
その言葉にくすりと笑うルシアス。
「それが使えるんだなぁ、〈ピッキング〉は」
「なんと!? 本当ですか!? いつの間に覚えたんですか!?」
「昔から覚えていたよ。俺は〈ピッキング〉だけできるのさ」
そう言って、ルシアスはスキル〈ピッキング〉を発動する。
宝箱の鍵穴が光で満たされていき、ガチャっという音が鳴った。
そして、宝箱が勝手に開き出す。
「すごいじゃないですか、ルシアス君!」
「ふふふ、俺もたまにはスキルを使わないとな」
「なんだか冒険者っぽいですね!」
「一応は冒険者だからな」
ルシアスは腰を屈め、宝箱の中に入っている物を取る。
それは漆黒の水晶玉――増幅器だ。
「これでまずはクエスト達成5回分だ!」
「こんなにあっさり5回分だなんて嬉しいですねー!」
「うむ。この調子でガンガンいこう」
「おー!」
二人は意気揚々と2階へ進んだ。




