022 野蛮な村人
潜水艦を〈吸収〉し、ポーテシアに戻ってきたルシアスとミオ。
「じゃあ俺か!? 俺が倒したのか!?」
「いいや俺だろ! 俺が倒したんだ! 手応えあったぞ!」
「確認しますのでお待ちください――申し訳ございませんがどちらも違います」
ポーテシアのギルドには大勢の冒険者が詰めかけていた。
先ほどルシアスが助けた船に乗っていた冒険者である。
誰もが、大ボスを倒したのは自分のPTだ、と思っていた。
だが、受付嬢の返事は「ノー」の一点張りだ。
「おかしいだろ! これで船に乗っている奴は全員が確認した!」
「報酬を払いたくなくて嘘ついてんじゃねぇのか!?」
「たしかに俺のスキルであいつらは死んだんだよ!」
「それを言うなら俺だってだなぁ!」
ギルドの中が騒然としている。
しばらく落ち着く様子がなかった。
「ルシアス君……これは……」
「此処で報告すると面倒なことになりそうだな」
「別の街で報告しますか」
「だな」
ルシアスとミオは静かにその場から退散する。
そんな二人の様子を隅の席で眺めている女がいた。
「なるほど、あの二人の手柄だったわけか」
女は立ち上がり、赤い髪を掻き上げる。
腰に差している剣のグリップを撫でてからギルドをあとにした。
(大魔王イカとキングオクトパスは大ボス。見た目に反して基礎性能が低いからC級扱いだけど、フィールドが海であることを考慮したら、討伐難度はA級のボスや中ボスと大差ない。それをF級の二人組が仕留めるとは……やっぱり面白いわね、あの子ら。いつか組んでみたいな)
女剣士――ハルカはニヤリと笑う。
頭の中はルシアスとミオのことでいっぱいだった。
◇
ルシアスとミオは小さな村に立ち寄っていた。
「こんなところに村があったんですねー!」
「〈マップ〉がなければ死ぬまで気づかなかった気がするぜ」
村の場所はとても分かりにくかった。
位置的にはアポロとポーテリアの間だが、道なりにあるわけではない。
途中で舗装された道から外れ、森の奥へ進む必要があった。
そう、この村は森のど真ん中に存在しているのだ。
「どう見ても村の人口は100人程度。ギルドがあるとは思えないが……」
馬車から降り立ったルシアスは、その場で村を眺める。
〈マップ〉によると、この村にもギルドがあるとのことだった。
人知れず報酬を受け取るにはちょうどいいと判断しての寄り道だ。
「アレじゃないですか?」
ミオが一軒の建物を指した。
他に比べて二回りほど大きい。
「そんな感じがするな」
二人はその建物に近づき、中に入る。
「よ、ようこそ、冒険者様」
受付嬢がルシアスたちを見て驚く。
場所が場所なだけあり、他に冒険者の姿はなかった。
「ここってギルドだよね? クエストの報酬を受け取ることはできる?」
「可能ですが……お支払いは振り込みのみとなります」
「問題ない。もとからそのつもりだ」
ルシアスとミオは冒険者カードを取り出した。
名前とランクの記載されたカードだ。
キャッシュカードとして利用することもできる。
報酬の額が6桁を超えると基本的に現金では支払われない。
今回の報酬額は9桁だったので、当然ながら振り込みだ。
「それでは……」
受付嬢が冒険者カードを受け取り、クエスト報酬に関する作業を始める。
その手つきを見ていて、ルシアスはなんだか引っかかった。
「どうした? さっきから手が震えているけど」
「えっ? あ、そ、そうでしょうか?」
「ああ、プルプルしているぞ。何かに怯えているようだ」
ルシアスの読みは正しかった。
受付嬢は怯えていたのだ。
「け、決して、そんなことは――」
その時だった。
「ヒルダちゃん、今日も楽しませてくれよぉ」
「一緒に快楽の海で溺れようぜぇ、ヒヒヒヒ」
無精髭を生え散らかした二人組の男が入ってくる。
どちらも筋肉質な腕をしており、見るからに野蛮そうだ。
「ヒィ」
受付嬢のヒルダが顔を引きつらせた。
連中の存在が彼女の恐怖の原因だったのだ。
「おっ? よそ者か?」
「珍しいな、こんな村に」
驚く二人組。
「あいつらに何かされているのか?」
ルシアスが尋ねると、ヒルダはコクコクと頷いた。
「た、助けてください、冒険者様。あの人たち、私の体を……」
「酷い奴等だ」
ルシアスはハンドガンを取りだし、連中の前に立つ。
「後悔したくなければこの受付嬢には手を出すな」
まずは忠告する。
ルシアスとしては荒事にしたくない。
だが、相手にはその気が無かった。
「なんだお前、よそ者が偉そうにしやがって」
「この村にはこの村のルールがあるんだよ!」
「ほう、それはどんなルールだ?」
男たちはニヤリと笑い、次の瞬間、ルシアスに飛びかかった。
「俺たちがこの村のルールを決められるってルールだ!」
「ここには衛兵なんざいねぇ! ここでお前を殺してやらぁ!」
銃を知らないからできる命知らずの行為だ。
彼らの動きは、二度の銃声が響くと同時に止まった。
「衛兵がいないので殺せる……か。いいことを教えてくれてありがとう」
「あぎゃああああああああああああああ」
「か、肩がぁああああああああああああ」
ルシアスは迷わず引き金を引き、二人の肩を撃ち抜いた。