021 大魔王イカとキングオクトパス
「これ、潜るのはいいですけど、浮上できなかったらおしまいですよね」
潜水艦が動き始めてすぐにミオが言った。
「物騒なことを言うな。想像すると怖くなってきただろ」
「すみません」
今のところ潜水艦は問題なく海の中を突き進んでいる。
ほどなくして、ルシアスは潜水艦の動きを停止させた。
それからスマホを取り出し、〈マップ〉を開く。
「えーっと、こっちで合っているのかな? ――お、正解だ」
船の進む方角を確認した。
潜水艦から見えるのは綺麗な海だけで、目的地が分かりにくい。
「よし、そろそろアレを使ってみるか」
「アレって?」
「まぁ見てな」
ルシアスは「ポチッとな」とボタンを押す。
すると、操縦席の近くにある円形の画面が動いた。
時計の針のような棒が回っている。
ソナーだ。
「これはソナーと言ってだな」
「あー! 映画で見たやつだー! ソナーですよね!? これ!」
「そうだよ」
興奮するミオに話を遮られ、ルシアスはムッとした。
だが、ミオが嬉しそうなのでよしとする。
ピコンッ。
その時、ソナーが海中の敵影を捉えた。
数は二つ。
「大魔王イカとキングオクトパスに違いない!」
「行きましょう!」
「おう!」
ソナーが捉えた敵影に潜水艦を向かわせるルシアス。
いよいよ距離が近くなってきた時、遠目に対象を捉えた。
「大当たりだな」
そこにいたのはトンデモサイズのイカとタコだ。
両者は海面に浮かぶ何かに取り付いている。
その何かが船であることはすぐに分かった。
「あいつら船を潰して冒険者を海に引きずり込むつもりだ!」
「船底から仕掛けられたら手も足もでないじゃないですか!」
「卑怯な奴等だ! 蹴散らしてやる!」
ルシアスは魚雷を使うことにした。
蓋のされていた魚雷用のスイッチを押す。
ウィーンと音を鳴らしながら、天井からスコープが降りてきた。
魚雷の照準を定めるためのものだ。
「あとはこのボタンで……ロックオン!」
ピピピピピピ!
魚雷のホーミングシステムが敵をマークする。
「よし、発射だ!」
「待ってください!」
発射ボタンに触れたところで止まるルシアス。
「なんだミオ」
「魚雷の威力が強すぎた場合、問題になりませんか?」
「問題だと?」
「敵だけでなく船までバラバラになってしまうのでは?」
「ああ、そのことか」
「流石はルシアス君、既に検討済みでしたか」
「いいや、全く考えていなかった」
「なんですとー!?」
驚くミオ。
「ま、敵がいなけりゃ溺れても大丈夫だろう。あらポチッとな!」
ルシアスは迷わず発射ボタンを押す。
「なんですとぉおおおおお!?」
ミオは両手を頬に当てて跳ね上がった。
ピュー……!
潜水艦から発射された二つの魚雷が敵に向かう。
そして、巨大な海の支配者共を捉えた。
ドォオオオオオオオオオン!
強烈な爆音が海中に響く。
その衝撃が潜水艦にも伝わった。
「よっしゃー! 大物撃破!」
魚雷の威力は完璧だった。
先ほどまで船に取り付いていた敵がいなくなっている。
二つの魔石が海底に落ちていった。
流石にそれを回収する手立てはない。
「船はどうですか!?」
「なんか無事みたいだぞ、どうでもいいけど」
「どうでもよくないですよー! もー!」
「俺は自己中だからな。自分がよければそれでいいんだ」
「酷い! ルシアス君は悪魔だ!」
「でもこれでタコが出回るぜ」
「たしかに!」
ルシアスは船の向きを反転させて沖に向かう。
「なーミオ、大魔王イカとキングオクトパスって次はいつ出現するんだ?」
「あの二体は大ボスなので一年は出ませんよ」
「そうか、あいつらは大ボスだったんだな」
魔物にはいくつかの区分が存在する。
一般的にはザコ、ボス、中ボス、大ボスの四つ。
区分によって、再出現までの時間が異なるのだ。
ザコは数分から1時間。
ボスは日に一回で、中ボスは月に一回。
そして、大ボスは年に一回しか現れない。
大魔王イカとキングオクトパスはどちらも大ボス。
来年まで見納めだ。
「ちょっと待てよ」
ルシアスはハッとした。
「大ボスってことは、クエスト報酬は100人で均等配分する前提の額だよな」
「はい」
「それが緊急クエストで10倍ってことは……」
「と、とんでもない額になるんじゃないですか!?」
「ますます金持ちになってしまうぞ!」
二人は既に結構な額のお金を貯めている。
だが、このクエストの報酬はその比ではない。
二人の貯蓄額が二桁増える程の額だった。
「もう働かずに生活できますよ!」
「その通りだ! まあ、暇だから働くけどさ」
「冒険者の鑑ですね!」
「ふふふ、実は暇なだけなんだがな」
「あはは、分かります」
「なんにせよ、帰って盛大にパーティーだ!」
「はいー! というか、今ここでしましょうよ!」
「おっ、それも悪くないな!」
ルシアスは〈ショッピング〉でシャンパングラスを購入する。
そこにコーラを注ぎ、ミオと乾杯した。




