020 港町ポーテシア
ルシアスとミオは馬車に乗っていた。
〈タクシー〉で手配したものだ。
「実は私たちが出会ってからそろそろ1ヶ月が経つんですよ」
ミオが言う。
「へぇ」
ルシアスの返事は素っ気ない。
「記念日的な?」
ちらりとルシアスの顔を見るミオ。
そして彼女は、こりゃダメだな、と諦めた。
「あるわけないだろ、面倒くせぇ」
案の定だった。
「ですよねー……」
ミオはガクッと項垂れる。
そんな彼女を一瞥するも、ルシアスは何も言わなかった。
◇
馬車が港町ポーテシアに到着した。
今回の討伐対象と戦うための船にはここで乗る。
「ルシアスさん、これ、私たちの出番ありますかね?」
「ぶっちゃけないだろうな」
ポーテシアは冒険者で溢れかえっていた。
緊急クエストということで、誰もがやる気を漲らせている。
「ま、やるだけやってみるか」
「ですね!」
二人は港へ移動した。
「それから59~80番、あと85番~99番の方、ご乗船ください!」
港では係員の男が船に乗る冒険者を誘導していた。
「あのー! 私たち大魔王イカとキングオクトパスの討伐に来た冒険者です! 船に乗りたいのですがよろしいでしょうか!?」
ミオが係員の男に話しかける。
男は懐から一枚の用紙を取り出し、彼女に渡した。
「その紙にPTメンバーの名前とランクを記入したら、あっちの受付に渡して番号札をもらってください。順番がきたら番号でお呼びしますので」
「はい!」
元気よく答えるミオ。
この時点でルシアスは予感していた。
自分たちが船に乗れるのは数日後になるだろう、と。
そして、受付に行った時点で確信した。
「ルシアス様とミオ様は……どちらもF級ですか」
受付嬢がリストに名前を書き込む。
そのリストにはD級以下の冒険者が集められていた。
隣にある別のリストはC級以上で固められている。
「次の船に乗る方の番号をお呼びします。まず135番から139番」
遠くから声が聞こえてくる。
ルシアスは素早くリストを確認した。
135番から139番はC級の冒険者だ。
「番号飛びまして、次は145番からー……」
飛ばされた番号はD級やE級だった。
(思った通りだ。C級以上を優先していやがる)
ルシアスの確信は正しかった。
D級以下の人間は隠すことなく後回しにされている。
「ミオ、行くぞ。時間の無駄だ」
「ふぇ!? ここまで来たのに帰るのですか!?」
「帰りはしないが、船には並ばん」
ルシアスは早足で港を離れる。
ミオもそれに続いた。
「どうしたのですか? ルシアス君」
「気づかなかったようだから教えてやるが、D級以下の冒険者は後回しにされている。仮に後回しにされなかったとしても、呼ばれるのは半日後やそこらになるだろう。夜に船を出さないなら明日になる。実際には後回しにされているわけだからもっと遅い。早くとも数日後になるだろう」
「えええええ! そんなの待てませんよ!」
「だから待たないことにした」
「え? それって、どういうことですか? 泳いで戦うのですか?」
「そんなわけないだろ」
ふっと笑うルシアス。
「俺に考えがある」
そう言って、ルシアスはポーテシアをあとにした。
◇
街を出た二人は、海岸沿いに進んだ。
道中で何度か魔物に遭遇するも問題ない。
アサルトライフルで皆殺しにした。
「この辺りでいいだろう」
ポーテシアが見えなくなったところで、ルシアスが足を止めた。
「いったいどうするつもりですか?」
「コイツで船を買うのさ」
彼が取り出したのはスマートフォン。
〈ショッピング〉を使って船を調達するつもりだ。
「おー、流石はルシアス君! でも、船は高そうですね」
「かなり高いよ。アサルトライフルが可愛く見える値段だ。だから、大魔王イカとキングオクトパスを倒せたとしてもポイント的には赤字だろう」
「ダメじゃないですか!」
「いいんだよ。10倍設定の緊急クエストだからな。クエスト攻略回数を稼ぐための必要経費ってやつだ。それにクエスト報酬で現金が貰えるし」
「必要経費……難しい言葉を使いますねぇ!」
「ふふふ、本で得た知識だ。カッコイイだろ?」
「はい! カッコイイです!」
会話を終えると、ルシアスはポイントの大半を注ぎ込んで船を買う。
彼が買った船は――。
「なんですかこれー!? どう見ても船じゃないですよ!」
「それが船なんだなぁ! 驚くことに! その名も〈潜水艦〉だ!」
――なんと潜水艦だった。
「前にDVDで観たんだが、潜水艦にはすげー武器が備わっているんだ」
「すげー武器ですか?」
「魚雷って言うんだぜ」
「魚雷!? カッコイイ名前ですねー!」
「たぶん威力もすんごいぞ!」
「おおー!」
二人は直ちに乗り込んだ。
「えーっと、操作方法は……っと」
操縦席に座ったルシアスは、艦内にあった説明書を確認する。
「ペダル操作で前進と後進、レバー操作で浮上と潜水、ハンドルで方向を決めるのか。で、このスイッチが魚雷で……ふむふむ、ふむふむ、なるほど」
ルシアスは説明書を閉じると、それを隣の席のミオに渡した。
「暗記した。戦闘の時間だ」
「私はなにをすれば!」
「そこで観ているがいい!」
「ラジャッ!」
ルシアス達の潜水艦が動き出す。




