019 たこ焼き無双の弊害
祭りが終わると売り上げランキングが発表された。
ランキングは【ジャンル別】と【通り別】の二通り。
その内、重視されるのは【ジャンル別】だ。
【通り別】の場合、ジャンルを問わないのでどうしても偏る。
ルシアスのような飲食系はどうやっても上位には入れない。
なぜなら屋台の中には家の所有権を販売している者もいるからだ。
「さて、俺たちはどうなったかな? まぁ見るまでもないと思うが」
ルシアスとミオは大通りの広場に来ていた。
巨大な掲示板に張り出されたランキング表に目を通す。
【ジャンル別:飲食】
1位:ルシアス 14,400,000ゴールド
2位:トーマス 58,930ゴールド
圧倒的だった。
周囲の人間はルシアスの店に関する話で盛り上がっている。
公表されていないが、利益額もルシアスたちが断トツだ。
彼らの店の利益率は他所の2倍近くあった。
それだけ強気の価格設定をしても売れまくっていたのだ。
「えーっと、フリッツたちは……めんどいから探すのやーめた」
ルシアスは20位までしか確認しない。
ちなみに、フリッツたちの店は117位だった。
場所を考えると惨憺たる結果と言える。
「大勝利ですね! ルシアス君!」
「楽勝だったな」
ルシアスとミオは大満足で帰路に就く。
他所は屋台の片付けをしているが、彼らにはその必要が無い。
スマホでサクッと〈吸収〉すればそれで済むからだ。
「やぁフリッツ」
せっかくなので、ルシアスはフリッツの店に立ち寄った。
串に刺さったイカが大量に余っている。
ルシアスがいなければ客の胃袋に消えていたであろう食材だ。
残念ながら廃棄されることとなる。
「ルシアス……!」
フリッツは作業を止め、ルシアスを睨む。
悔しさから自然と歯ぎしりをしていた。
その力は凄まじく、歯茎から血が流れている。
「俺たちは1位だったが、そちらは何位だったかな?」
ニヤリと笑うルシアス。
「祭りで勝ったくらいで調子に乗るなよ!」
「一等地で負けた奴がほざくなよ」
「貴様ァ!」
「よさねぇか、フリッツ!」
PTメンバーがフリッツを止める。
その声がなければ、フリッツはルシアスに仕掛けていただろう。
腰に差している剣を抜き、問答無用に斬りかかっていたはずだ。
そして、ルシアスの反撃を食らって死んでいたに違いない。
ルシアスは懐に護身用のハンドガンを忍ばせていた。
「チッ、今回はお前の勝ちってことにしておいてやるよ。だがな、冒険者としての実力じゃお前なんぞ落ちこぼれのカスだ。一生F級で這いつくばっているといいさ。それともなんだ、これを機にたこ焼き屋に転職するか?」
フリッツの発言に、彼の仲間たちが声を上げて笑う。
「負けたくせに口達者な奴だ」
「なんだとぉ!?」
ルシアスは呆れ笑いを浮かべ、歩き始める。
フリッツが「待て」と叫ぶが、止まることはなかった。
◇
ルシアスにとって、たこ焼き屋はその時限りのものだった。
フリッツたちをぎゃふんと言わせることが唯一無二の目的だ。
そして、その目的は無事に達成した。
彼にとって、たこ焼き屋は終わったものだ。
しかし、世界的にはそうではなかった。
「ルシアス君! タコさんが急騰して買えないですー!」
「まさかこんなことになるとはなぁ」
祭りから二週間――。
たった二週間で、たこ焼きは世界中に広まった。
今ではどこもかしこもたこ焼きを販売している。
高級レストランですら意識の高い謎のたこ焼きを作っていた。
この世界にたこ焼き旋風が巻き起こっているのだ。
その影響は凄まじい。
これまで激安だったタコが連日最高値を更新している。
一攫千金を狙ってタコ漁に特化する漁師も増えていた。
「俺たち完全にやっちゃったなぁ」
「ですねー……」
「今後は異世界のネタを表に出すのは控えよう」
「その方がいいかもしれませんね」
タコ不足を嘆く声に胸を痛めながら、二人はギルドに向かう。
するとここでも、たこ焼き旋風の影響を感じることとなった。
「見たか? 緊急クエストだってよ」
「しかも今回は10倍だ。かなり熱いぜ」
「たこ焼きに感謝だな」
ギルド内ではタコ不足を喜ぶ声で溢れていた。
その理由となっているのが緊急クエストだ。
緊急クエストは、内容的には普段のクエストと変わらない。
指定された魔物を倒せば終了だ。
ただし、クエストの攻略カウントや報酬が通常の数倍になる。
今回の設定は10倍だ。
つまり、1度クリアするだけで10回こなした扱いになる。
「なるほど、たしかにタコ絡みだな」
掲示板の前で呟くルシアス。
今回のクエストは海の魔物を討伐するものだった。
タコの漁獲を妨げているらしい。
討伐することでタコの流通量が大幅に増える。
「海だと銃の威力が落ちそうですけど……どうしますか? Cランクのクエストなので厳しそうですよ」
ミオが不安そうにルシアスを見る。
「まぁそうだけど、タコ不足の原因は俺たちだしな。挑戦してみようぜ」
ルシアスは乗り気だった。
今日に至るまでの戦いで自信を強めていたのだ。
F級より上――E級やD級の敵を狩ったこともある。
また、厄災クエストで乱獲した魔物の中にはC級もいた。
決して分の悪い戦いとは思っていない。
「ダメならダメで仕方ない! いっちょやってやろうぜ、ミオ!」
「はい!」
二人は意気揚々とクエストを受注した。




