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018 アポロ祭り

 祭りの当日。

 ルシアスたちの屋台は、始まる前から目立っていた。


「なんだあの店」


「どうやってあんなに大きな箱を運んできたんだ」


「それにたこ焼きってなんだ?」


「なにかとんでもないことが起きそうだな」


 屋台の看板には大きく『たこ焼き』の文字。

 ずらりと並ぶ業務用の大きな自動たこ焼き器。

 そして、店の後ろには食材を貯蔵する大型冷蔵庫。


 それらは全て、この世界の人間が知らない物だった。

 明らかな異彩を放っており、皆の視線を釘付けにする。


 ファーン、ファーン、ファーン。


 大通りから演奏が聞こえてくる。

 祭りの開始を合図したものだ。


「ミオ、最初はフルに稼働しなくていい。屋台は作りたてを提供するのが大事だからな。まずはこの店の認知度が上がるまで少なめでいくぞ」


「はい!」


 ミオがサクッと調理に取りかかる。

 それと同時に通りへ客が流れてきた。

 しかし、大通りに比べると明らかに少ない。


「いらっしゃいませー!」


「うちの店いかがっすかー!」


「自作の剣を売ってますよー!」


 客を見るなり接客合戦が幕を開ける。

 屋台の中から声を上げる店主たち。

 通りに立っての接客は禁止されていた。


「周りの人らには申し訳ないが、これは戦争なんでな」


 ルシアスは切り札の一つを使うことにした。

 それが――拡声器だ。


「ここでしか食べられない世界初の料理『たこ焼き』はいかがですかー! 見てください! 自動でポンポン作られていますよ! それに安い! 一口サイズなのでお子様にも最適! 外はカリカリ、中はふわふわ! 最高に美味しいですよー!」


 彼の声は他の通りにまで響いた。

 すぐ隣に立っているミオは耳を押さえてうずくまる。


「なんだなんだ!?」


「なんつー声の大きさだよ!」


「あの変なラッパみたいなアイテムが関係しているのか!?」


 誰もが驚く中、ルシアスは第二の切り札を発動。


『たこ焼きって知っていますか?』


『アポロ祭のとある店にしか売っていない世界初の料理!』


『その調理風景は手品の如し!』


『見て良し・食べて良しの絶品! お祭りの新定番! たこ焼き!』


『興味のある方は31番通りにあるたこ焼き屋までどうぞ!』


 そこら中からルシアスの声が響く。

 その声はドローンに仕掛けたスピーカーから流れていた。


「ふふふ、これならば『通りに立っての接客』には入らない! 合法的に街全体へ宣伝する悪魔的手法!」


「黒に近いグレー行為ですよ!」とミオ。


「少しでも白が混ざっていたらそれは白なのさ」


 豪快な高笑いを繰り出すルシアス。

 その間にもドローンは縦横無尽に飛び回って宣伝する。

 そして、全体に宣伝し終えると、そそくさとルシアスのもとへ帰還。

 長時間の使用は問題になりかねない、とルシアスは考えていた。


「31番通りのたこ焼き屋……アレね!」


「本当にたこ焼き屋ってのがあるぞ!」


 ほどなくして効果が現れた。

 ルシアスの宣伝に興味を持った客が集まってくる。


「さぁ勝負の時間だ! ミオ、完成しているたこ焼きを捌いたらたこ焼き器をフル稼働させろ!」


「はいぃ!」


 ミオがたこ焼きを舟皿に移す。

 それを受け取ったルシアスは最後の仕上げを行う。

 ソースとマヨネーズをかけ、店の前に立っている子供に近づけた。


「この鰹節をまぶすと……完成だ!」


 子供の顔の前で鰹節をぱらぱらとかけ、最初のたこ焼きが出来上がる。

 鰹節の踊り狂うたこ焼きを見て子供は目を輝かせた。


「これはタダであげよう」


「えっ、いいのー!?」


 その後ろに立つ母親が「本当にいいんですか?」と驚く。


「最初に来てくれたお客さんだからサービスってことで。気に入ってくれたら追加で買ってくれると助かるよ」


「ありがとうございます」


 こうしている間にも続々と人が集まってくる。


「ママー、たこ焼き、食べていい?」


「いいわよ、熱いうちにお食べ」


「うん!」


 ルシアスからたこ焼きを貰った子供が実食に入った。

 その姿を周囲の客が興味深そうに眺める。

 未知の食べ物の味が気になって仕方ないのだ。


「美味しい! ママ、これすごく美味しいよ! ママも食べてみて!」


 子供は爪楊枝でたこ焼きを刺し、母親に食べさせてあげる。


「わぁ! 本当に外がカリカリで中がフワフワ! それにタコの弾力が美味しいわ! すみません、追加で6個入りをいただいてもよろしいですか?」


 母親の反応は完璧だった。

 味の感想を言うだけでなく、追加購入までしたのだ。

 次の瞬間、他の客が我先にとたこ焼きを求めた。


「まいどあり!」


 もはや宣伝をする必要はない。

 ルシアスとミオは手分けしてたこ焼きの販売を行う。

 ミオが作り、ルシアスが商品の受け渡し。


「ルシアス君、たこが切れちゃいました! 買ってきます!」


「はいよ! 店番は任せておきな!」


 たこ焼き器が調理を進める間に、ミオが食材の補充を行う。

 その間も、店には続々と人が押し寄せていた。


「たこ焼きうめぇ! なんだこれ!」


「それにあの鉄板、どうなってんだ!?」


「勝手にたこ焼きができていくぞ!」


「面白すぎる! 面白すぎるよこの店!」


「やべぇぇぇぇぇぇ!」


 もはや人が人を呼ぶ状態だった。

 それほど広くない通りが人で埋め尽くされてしまう。

 例年なら混み混みの大通りがスカスカになっていた。


「ルシアス君、タコの調達が完了しました!」


「早くカットしろ! たこ焼きの販売は俺がやっておく!」


「はいぃ!」


 追加のタコを調達するのにも苦労しない。

 適当な魚屋に行けば掃いて捨てるような価格で売られている。


「まさかタコにこんな使い方があったなんて」


「唐揚げ以外にタコが活躍するとは」


 誰もが感嘆する中、たこ焼き器は止まることなくたこ焼きを生み出す。


「6個入り2セットのお客様ー! はい、まいどあり!」


 ルシアスたちの店にできた人だかりは、祭りが終わるまで途切れなかった。

 否、祭りが終わってもしばらくは名残惜しそうに続いていた。

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