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014 クレープ

 ルシアスとミオが出会ってから約二週間が経過した。


 これまでの間、二人は規則正しく活動している。

 週五日はクエストをこなし、残り二日は休む。


 これは一般的な冒険者に比べて働き過ぎといえた。

 大半の冒険者は週に三・四日しか稼働しない。


「さーて、できましたよー! 朝ご飯です!」


 今日は二連休の一日目。

 休みなのに、二人は朝からしっかり起きていた。


「またしても出たな、未知の料理!」


 ダイニングテーブルまでミオが運んできたのはクレープだ。

 薄くて甘い生地に色々な具材を挟んでいる。


「少し試食した感じだと想像以上に美味しかったですよ! 流石ですね! ルシアス君のスマホは!」


 ミオはルシアスのスマホに入っているレシピアプリを参考にしていた。

 〈クックバッド〉というアプリで、膨大な数のレシピが掲載されている。

 その中には、この世界に存在していない料理も無数にあった。


「どうですか? クレープのお味は!」


 ミオがわくわくして眺める中、ルシアスがクレープを口に運ぶ。

 まずはレタスやツナマヨの挟んだ物をペロリ。


「美味い! いいじゃないか、これ!」


「ですよねー!」


 両手を挙げて「やったー!」と喜ぶミオ。


「今度は……生クリームとイチゴか。こ、これは、合うのか?」


 次なるクレープの具材を確認して顔を引きつらせるルシアス。


「ふっふっふ! 食べてみれば分かりますよ!」


「オーケー、ミオ、顔をここに」


 ルシアスは自分のすぐ前に来るよう指示する。


 ミオは「ほぇ?」と首を傾げながら言う通りにした。

 すぐ傍にルシアスの顔があって、なんだか恥ずかしい。


「どうかしたのですか?」


 ルシアスはニヤリと笑った。


「そこならぶっかけられるだろ、このクレープが不味くて吹き出した時にさ」


「ムキーッ! 失敬な! 絶対に美味しいですよ!」


「本当かよ。ツナマヨとレタスの組み合わせで美味かった食い物だぜ? 具をソフトクリームとイチゴにしたらえぐい味になるだろ」


「とにかく食べてくださいよ! ほら!」


 ミオはルシアスの手からクレープを奪い、強引に彼の口へねじ込んだ。


「んぐっ……!」


 ルシアスが顔を歪めながらクレープをかじる。

 だが次の瞬間、彼の表情はニパッと明るくなった。


「美味い! なんだこれ! 美味すぎるじゃないか!」


「でしょー! 甘い具材も美味しいんです!」


「すげぇなミオ、すげぇな異世界の料理!」


 それからのルシアスは止まることなくクレープを頬張った。

 ミオの用意したいくつもの味がことごとく食い尽くされていく。

 今日の朝食はクレープだけでお腹いっぱいになった。


「ふぅ、食った食った!」


 ぽっこり膨らんだお腹を撫でてご満悦のルシアス。


「ルシアス君、知っていますか?」


 頃合いを見計らってミオは切り出した。


「明日、アポロ祭があるんですよ」


 アポロ祭――。

 それは、年に一度アポロタウンで開かれる大きな祭りだ。

 都市を挙げて盛大に祝うもので、この日はクエストを受けられない。


「もちろん知っているさ。数日前から街も祭りのムードに染まっている」


「なら私たちも参加しましょうよー! アポロ祭!」


 ルシアスは「いやだよ」と即答した。


「祭りだなんて面倒くさい。俺は家で休んでおくよ。気になるなら勝手に参加したらいいじゃないか。お金なら十分にあるだろ?」


 たしかにお金には余裕があった。

 クエスト報酬や魔石の換金で得たお金がたんまり貯まっている。

 大体の買い物を〈ショッピング〉で済ませるため、現金が減っていない。


「違うんですって! 私、出店したいんですよ!」


「出店だぁ?」


「普通、お店を出すのって免許とかいるじゃないですか。でも、アポロ祭は申請するだけで出店できるんです! 私、昔から自分のお店を持ちたいっていう夢があって……だからルシアス君、一緒にお店を出しましょうよー!」


「めんどくせぇ、一人で出せばいいだろ」


「だってだって一人じゃ不安じゃないですかー!」


 ミオは頬をパンパンに膨らませてルシアスを睨む。


 その顔を見て、ルシアスは悟った。

 自分が妥協しない限り終わらないやり取りだ。


「チッ、仕方ねぇなぁ」


「やったー!」


 すかさず「ただし」と右の人差し指を立てるルシアス。


「基本的にはミオが一人でやるんだ。俺は食べ歩きしつつ、ちょくちょく顔を出す。それでいいだろ?」


 本当は顔を出す気などさらさらなかった。

 一回か二回、ちょろっと立ち寄ればそれで済むだろう。

 そんな風に考えていた。


「はい! それで問題ありません!」


 ミオは笑顔で了承する。


「じゃあ私、出店申請をしてきますね! 早くしないと受付が終了しちゃうので今から行ってきます! ルシアス君はお皿洗いをしておいてくださいね!」


 そう言うなりミオは家を飛び出していった。


「まさか祭りなんぞに参加する日が来ようとはな」


 ルシアスは小さく笑い、テーブルの皿をシンクに運んだ。

 この決断が世界を揺るがすことになるとは知らずに……。

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