012 女剣士ハルカ
「ミオ、この場所に陣取ったのは正解だったな」
「ですねー! すごく戦いやすいです!」
戦闘開始からまもなく、ルシアスとミオは笑みを浮かべていた。
思惑通り南と東の門に迫る敵を根絶やしにできている。
いや、思っていた以上だった。
「このアサルトライフルって武器、すげー射程だな」
「今度からもっと離れて攻撃しましょう!」
「同感だ」
二人の使っているアサルトライフルの最大有効射程は約500メートル。
矢とは比較にならない速度で連射できる上に、矢よりも遥かに長い射程。
その活躍ぶりは常軌を逸していた。
だが、二人の無双ぶりに気づく者はいない。
「稼ぐぞ! 稼いで稼いで稼ぎまくるぞー!」
「昇格だー! この戦いでCに上がれるかもしれねぇ!」
多くの冒険者は自分のことでいっぱいいっぱいだ。
なかでも通常のクエストによる昇格が難しい者ほど必死である。
身の丈より高いランクに上がれる数少ないチャンスだから。
「変わった武器で戦ってるねー」
絶好調で銃撃するルシアスに女剣士が近づいてきた。
白銀の胸当てと深紅のミニスカートが特徴的な赤髪の女だ。
燃えさかる炎のような赤のミディアムヘアに、ルシアスは目を奪われた。
彼女の名は――ハルカ。
ルシアスやミオより5歳ほど年上のお姉さんだ。
「それ、自作の武器? 見たことないけど」
ハルカが興味津々といった様子でアサルトライフルを眺める。
「自作じゃないけど、まぁ、そんなところかな」
ルシアスは弾倉を交換しながら答えた。
ハルカに美貌に見とれて、無駄に手間取ってしまう。
「ルシアス君、なにしてるんですかー! って、わお! 美人さんだ!」
遅れてハルカの存在に気づくミオ。
「戦いの邪魔をしてごめんね」
「いえいえ! 大丈夫ですよー! 私たち上からバンバンしてるだけなんで!」
「それはよかったわ」
ハルカは小さく笑い、ルシアスを見る。
目が合うと、ルシアスはドキッとした。
その様子を見たミオは密かに頬を膨らませる。
「自作じゃないけど自作みたいなもの……って不思議な表現だね?」
「まぁ、色々とあって」
「そっかそっか! 先端から飛ばしている小さな鉄の塊で敵を倒すの?」
「銃弾が見えているの?」
驚くルシアス。
「どうにかね。恐ろしく速いよね。どういう仕組み?」
「それが俺にも分からなくて」
「なにそれー、変なの」
ハルカは腹を抱えて笑う。
「私、ハルカって言うの。よかったら今度、私もPTに混ぜてよ。いつもソロで活動しているから」
「別にいいよ。ただ、俺たちはクソザコだぜ? なにせ冒険者学校を出てまだ1年だし、二人して最初のPTを追放された落ちこぼれだからな。ちなみに、俺はルシアスでこっちの女はミオだ」
「こっちの女ことミオです!」
「なるほど、新人なんだ。それで……」
自分のことを知らないわけだ、とハルカは思った。
彼女はC級だが、冒険者の間ではかなりの知名度を誇る。
剣の腕が圧倒的で、実力は既にA級に匹敵すると評判だ。
「ハルカさんは今もPTを組んでいないんですかー?」
ミオが訊く。
「私はソロだね。ここから敵に攻撃する術がないので、こうして他の冒険者に絡んで邪魔をしているってわけ」
「邪魔だなんてそんなことありませんよ! でも、何もしないって勿体なくないですか? 昇格のチャンスですよ!?」
「ミオの言う通りだ。別に戦えなくても寄生できると思うよ。厄災クエストの得点はPT単位で決まる。そしてPTに人数制限はない。その欠陥を突いて数十人規模のPTを結成しているところもある。多ければ多いほど点数を稼ぎやすいのだから当然だ。頭数にこだわってるところなら今からでも潜り込めるんじゃないか」
「たしかにそうだけど、別にランクに興味ないからねー。今の稼ぎでも十分だし。それだったら滅多に見られない他の冒険者の戦闘を眺める方が楽しいじゃん? 現にこうしてルシアスたちを発見できたわけだし」
「なるほど、変人だな」
「あはは、まぁね。ところで、二人は新米なんだよね? ちゃんとギルドでPT登録はした? 登録してないとPTとしてカウントされないよ」
「大丈夫。俺たちはPTでクエストを受けている最中だったから」
「なら問題ないね。じゃ、私はこれで失礼するよ。またねー!」
ハルカは城壁の内側へ飛び降りた。
もしその動きに気づいていたら、ルシアスたちは驚いていたはずだ。
只者ではない実力者だぞ、と。
しかし、彼らは――。
「ヒャッハー! 皆殺しだー! 撃てミオ! 撃て撃てー!」
「弾倉交換! 照準バッチリ! えいやーっ! あちょー!」
ハイテンションで銃撃していたので気づかなかった。
そうこうしている間に魔物の殲滅が完了する。
冒険者たちは城壁から下りて、最寄りのギルドへ向かう。
ルシアスたちもその流れに続く。
いよいよ結果発表の時だ。




