010 DVDとベッドルーム
「この〈テレビ〉って機械、どういう仕組みなんですかね? こんなに薄い箱の中に人が映っていますよ!」
「分からん。それに〈入力切替〉ってボタン以外は何も映らないし。スマホで買える物は不思議でいっぱいだぜ」
ルシアスとミオはリビングでDVDを観ていた。
ソファにくつろぎ、テレビに繋げたDVDプレーヤーでビデオを流す。
この世界におけるテレビは、DVDやゲームを映すための道具でしかない。
複数あるチャンネルは全て砂嵐が流れていた。
『食らえ! 我が渾身の魔法! プロメテウス・イン・ザ・メテオ!』
テレビに映っているのはファンタジー作品だ。
金髪の少年が魔法で隕石を撒き散らしている。
実写と見間違うほどのハイレベルなCGだ。
CGを知らない二人は、それが実写だと思い込んでいた。
「なんですかこの魔法はー!?」
前のめりになってぶったまげるミオ。
「魔法がそんなに強力なら、冒険者学校では魔法しか教えなくなるっての」
ルシアスは「ふん」と鼻で笑う。
現実の魔法とテレビの中の魔法には大きな隔たりがある。
この世界の魔法はもっと地味だ。
例えば、小さな炎や水、それに電気を生み出すことしかできない。
それらが積もり積もってこの世界のインフラを構築しているのだ。
単独で戦闘に使える強烈な魔法なんてものは存在していない。
冒険者が戦いで魔法を使う場合、基本的には道具との合わせ技だ。
引火性の液体をぶっかけて魔法で火を点けるといった感じに。
間違っても隕石の雨が降り注ぐことはない。
「あー面白かった! 今度また違うDVDを観ましょう!」
「そうだな」
人生初の映像作品を堪能したあと、二人はベッドルームに向かう。
そこでようやく気づいた。
「この部屋……思ったより狭くないですか?」
「二人分のベッドを設置したら他の物は置けなさそうだ」
ルシアスは〈ショッピング〉でベッドを購入する。
そして、まずは試しに一つだけ設置してみた。
「「でかっ!」」
それが二人の感想だった。
ベッドはダブルサイズなので、実際にはそれほど大きくない。
少しお高い宿屋で使われている物と同じサイズだ。
しかし、部屋が狭いことで大きく感じた。
それに何より……。
「部屋の半分以上をベッドが占めていますよ! これじゃあ、私のベッドを置くことができないじゃないですか!」
「そうは言っても、スマホで買えるベッドはこのサイズが一番小さいぞ」
「そういえば家具屋さんで売っているベッドもこのサイズでしたね……」
二人はぐぬぬと唸る。
だが、どれだけ唸れど結果は変わらない。
切り出したのはルシアスだ。
「仕方ない、一緒のベッドで寝るか」
「えっ! えええっ!? ルシアス君と一緒のベッドですか!?」
「安心しろ、襲うつもりはない」
「それは分かっていますけど……緊張しますよぅ」
「だったらミオはソファで寝るか?」
「それは疲れるので嫌ですね」
「なら地面に布団を敷くか?」
「それもちょっと」
「だろー? なら同じベッドしかない」
「たしかに……。分かりました、同じベッドで寝ましょう!」
こうして二人は同じベッドで寝ることに決まった。
「じゃ、俺は風呂に入ってくるよ。またあとでな」
「はい!」
ルシアスはミオに背を向け浴室へ向かう。
その瞬間、彼は心の中で呟いた。
(やべぇよ、同じベッドだってよ、おい」
すまし顔で言っていたが、実は緊張していたのだ。
生まれてこの方、同年代の女と同じベッドで寝た経験がなかった。
(俺とミオはただの冒険者仲間。それだけだ。何も起きるはずない)
そう自分に言い聞かせながらも、何かが起きることを期待していた。
そして、それはミオも同じだった――。




