001 スマホを拾った男
「ルシアス、お前にはPTから抜けてもらう」
今日の狩りを終えて街に戻った時のことだった。
PTを統率する青髪の男――フリッツの言葉が響く。
「同学のよしみだからPTに入れていたがな、もう限界だ。才能がねぇのに努力はしねぇ、できることと言えば〈ピッキング〉で宝箱を開けることだけ。そんなのぶっちゃけ必要ない。箱ごと持ち帰りゃ済むからな」
ルシアスには言い返す術がなかった。
フリッツのセリフが完全に正しいからだ。
18歳で冒険者学校を卒業し、冒険者になってから1年。
この1年間、ルシアスはひたすらにフリッツたちの足を引っ張っていた。
しかも、それを自覚していながら改善しようとしなかったのだ。
むしろ1年間もよくPTから追放されずに済んだものである。
ルシアスもそう思っていたから、憤りを感じることはなかった。
「お前が強くなろうと努力していたらまだ許せた。でもそうじゃないだろ。人一倍の努力が必要なのに、お前は俺や他の奴に比べて怠けていた。冒険者になる前、学生時代からそうだ。学生時代は先生らに言われて受け入れていたが、もう我慢できない。お前と一緒にいるせいで、俺たちは他の同級生におくれをとっているんだ。本当ならもうEランクになっていてもおかしくないのにまだFだ」
フリッツが怒濤の勢いで捲し立てる。
まだまだ言い足りない様子だったが、それ以上は言わなかった。
ルシアスがすっと右手を伸ばして話を止めたからだ。
「すまなかった。今までありがとう、邪魔したな」
それだけ言ってルシアスはPTを脱退した。
◇
ルシアスは最初から怠け者だったわけではない。
むしろ幼少期は誰よりも己に厳しく鍛錬に励んでいた。
大きくなったら立派な冒険者になる、と意気込んでいたのだ。
そんな彼が堕落したのは冒険者学校に入ってからのこと。
才能の差に、絶望した。
ルシアスには冒険者の才能がなかったのだ。
剣術の腕はいっこうに上達せず、スキルも習得できない。
どれだけ頑張っても、学年内の順位は常に底のほうだった。
そして彼は、諦めた。
自分に才能がないことを受け入れ、抗うことをやめた。
フリッツのような才能のある人間にはどうやっても勝てない。
そんな風に考え、努力を放棄し、だらだらと過ごしてきた。
「冒険者から足を洗って鍛冶屋でもするか」
ぼんやりと帰路に就くルシアス。
その時、道に落ちている謎のアイテムに気がついた。
「なんだこれは?」
ルシアスが拾ったそれは――スマートフォン。
この世界には存在するはずのない未知のアイテムだった。
それが何の因果か彼の前に落ちていたのだ。
ルシアスの指がホームボタンに触れたことで、謎のスマホが起動した。
一瞬でセットアップが完了し、ルシアス専用のスマホと化す。
画面には『これはルシアス様のスマートフォンです』と書いていた。
「俺専用のスマートフォン……?」
ルシアスが混乱する中、スマホの画面が切り替わる。
基本的な使い方を教えるチュートリアルが始まった。
操作方法のみならず、『タップ』や『画面』といった用語も説明される。
「スマホを使って買い物だぁ?」
チュートリアルの説明が〈ショッピング〉というアプリに移る。
スマホにチャージされたポイントを消費して買い物を行うアプリだ。
初回起動時は、複数の商品の中から一つだけ無料で買えるクーポンが使えた。
「意味不明な商品ばっかりだな……」
ルシアスはクーポンで買える商品を眺めながら困惑する。
懐中電灯やデジタル時計など、この世界には無い物ばかり並んでいた。
「なんだこれ? 武器なのか?」
その中でも彼の目を惹いたのは銃だ。
最大30連射が可能なアサルトライフルで、その威力は凄まじい。
商品ページに登録されている参考動画を観て、ルシアスは驚愕した。
「他のクーポン対象より通常価格の桁が2つも多いしコレにするか」
ルシアスはアサルトライフルを購入した。
定価35万ポイントの品だが、今回はクーポンを使ったので無料だ。
「うおっ!?」
商品の購入が終わると、買った物がルシアスの手元に現れた。
「本当に動画みたいな威力があるのか……?」
銃口を地面に向けて、ルシアスは引き金を引く。
――しかし、何も起きなかった。