俺の異世界転生がヘルモードだけど、嫁はめっちゃかわいいです
「新戸万斉さん。あなたは不幸にも、お亡くなりになってしまいました」
いずことも知れない白い空間。
そこで俺は、これまた真っ白な古代っぽい服を着た女性にこう告げられた。
この人は……雰囲気からして女神っぽいな。
背中に翼が四枚も生えているし。
つまり、何かしらの理由で死んだ俺はこれから異世界転生するというわけか。
「あ、理解が早くて助かります」
「異世界転生は令和オタの基本教養なんで」
「……はぁ、さようで」
しかし、いいことはするもんだな!
トラックに跳ねられそうになってた猫を助けたおかげで、異世界転生できるとは。
やっぱり、いざというときにとっさに体が動いてしまうっていうのは主人公の資質――。
「……悦に浸ってるところ申し訳ないですが少し違いますね」
「へ? 俺は確かに、猫を助けようとしたはずだぞ?」
「はい。トラックに跳ねられていた猫を助けようと、スライディングしたのは間違いありません。ですが日ごろの運動不足で飛距離が足りず、猫には手が届きませんでした」
「じゃあ……あの猫は死んじまったのか?」
「野生動物を舐めちゃいけません。時速四十キロ程度でしたからね、軽くよけましたよ」
「つまり……犬死にってことか?」
「イエス!」
妙にいい発音をするな!
あんた、絶対に面白がってるだろ!
口元がちょっと笑ってるぞ!
この女神、清純そうに見えて結構性格が悪い!
「神なんてそんなものですよ。ギリシャ神話とかあれだいたい実話なので。昼ドラを数千年かけてやってるのが神です」
「知りたくなかったな、そんな世界の真実」
「……まあ、おふざけはここまでとしまして。あなたの死については、天界でも予想しておりませんでした。そのため、寿命がまだ残ってしまっている状態です。なので! 地球で生き返ることはできませんが、異世界にて蘇生することができます!」
おめでとう、とばかりに手を叩く女神様。
流れで予想はついていたが、改めて言われると感慨深いな。
俺は軽く息をのむと、少しためらいがちに尋ねる。
「それで……チートとかは?」
「ありますよ」
うおお、始まった!
俺の第二の人生、始まったぞこれ!!
俺は思い切りガッツポーズをすると、そのままこぶしを天に突き上げた。
さようなら、俺の冴えないモブ人生。
こんにちは、俺の光あふれる主人公人生。
父さん、母さん。
俺、成し遂げたぞ!
「転生先は、いわゆる剣と魔法の異世界ですね。中世風ファンタジーです」
「だったら、俺がやり込んでた『サモンファンタジア』の力が使えるようにしてくれないか?」
サモンファンタジアというのは、俺がここ三年ほどプレイしていたMMORPGである。
当然ながらキャラはカンスト。
イベントでは常に上位にランクインするトッププレイヤーの一人だった。
ゲームキャラのステータスに反比例するように、リアルのステータスは落ちたけどな!
「わかりました。では、あなたが使っていたキャラクターの能力をすべて与えましょう」
「うっしゃあ!! ついでに、容姿とかもキャラに合わせてもらえるか?」
「はい、もちろんです」
おおお、なんて気前がいいんだ!
さっきは清純そうに見えて性格悪いとか、見た目のわりに仕草がおばさん臭いとか思ってしまったけれど、やっぱり女神様は女神様だ!
今度、神社にお賽銭入れとくよ!!
「いえ、私は神道系の神ではないので神社に入れられても……。というか、仕草がおばさん臭いってさらっとひでえこと考えますね」
「ごめんなさい! 根が正直なもので!」
「そういうとこですよ! ああ、もういいです。ニートオタクに期待するだけ無駄でした」
「ニートじゃない、自主休学中の大学生だ!」
「実質同じでしょう」
違う、そこは断じて違うぞ!
心が海よりも広い俺だけど、ここだけは言わせてもらう!
そもそもニートの定義というのは、職業訓練などを――。
「はいはい、言い訳はそのぐらいにしまして。転生を始めさせていただきますね」
「あ、ちょっとまだ……!」
「ではいってらっしゃい! GOGOGO!!」
足元の魔法陣が輝き、景色がゆがんだ。
そのまま意識が闇にのまれ、気が付いたころにはもう、青い空の下にいた。
周囲には青々とした草原がどこまでも広がり、さわやかな風が吹き抜けている。
そして遠くには、城壁に囲まれた大きな町があった。
「おおお、異世界! 異世界だ!!」
目の前に広がる光景に、無理やり送り出されたことによる不快感はたちまち吹き飛んだ。
ひとまずは、あの街を目指していこうか。
……っと、その前に!
「ステータスオープン!!」
まずはこれをしておかないとな。
異世界転生においては大事なお約束だ。
俺が声を上げた直後、期待した通りに半透明のウィンドウが現れる。
えーっと、ステータスは……よしよし。
ばっちりいつもと同じになってる!
装備とストレージは初期化されてるようだけど、この能力なら十分戦えるだろう。
何といっても、レベル100でカンストしてるんだからな。
これで弱いなんてことはまずないはずだ・
「ってあれ。いつもと同じってことは……!」
ふと気づく。
目の前に表示されているステータス画面は、いつもとほぼ同じだ。
装備とストレージが初期化された以外は、特に変化したところはない。
当然のことながら、名前も同じ。
俺がサモンファンタジアで使っていたユーザーネームがそのまま表示されていた。
いや、ちょっと待ってくれ。
これ最悪の事態が起きてないか?
だって俺のユーザーネームって……その……。
オンライン特有の悪乗りというか、そういう文化の産物というか……。
人にあんまり言いたくないような感じのやつなのだ。
女性に言えば、最悪、ポリスメンを呼び出されるような……。
「俺、これから『股間パンパンマン』って名乗ることになるのか……!?」
絶対に嫌だ、そんなもん!!
履歴書に「股間パンパンマン」って書くなんて大事件だろ!
そんなことするぐらいなら俺は誇りある死を選ぶぞ!
あの神、わかってて名前を変えなかったな!!
嫌がらせだ、神のくせにやることちっさ!
そんなにおばさん臭いって言われたの嫌だったのか!
俺も悪かったけど、こんな陰険な報復するんじゃねえよ!!
「すぅう……はぁあ……。落ち着け、大丈夫だ。本名がひどくても偽名を使えばいい。俺には最強クラスのステータスがあるんだ、多少身元が怪しくたって生きていける」
じたばたすること数分。
俺は深呼吸をして、何とか落ち着く。
現代日本ならともかく、ここは異世界ファンタジー。
戸籍の管理なんか相当に雑だろう。
わざわざ本名を名乗らなくたって、不都合なことなんておそらくない……はずだ。
「ひとまずは魔法の確認をしよう。これから生命線になるだろうし」
そう思ったところで、再び気づく。
サモンファンタジアの魔法って、詠唱の最初に「●●が命ず」って言わなきゃいけなかったよな。
ゲームではフレーバーみたいなもんだから、詠唱の存在自体をすっかり忘れてたけど……。
「股間パンパンマンが命ずって言わなきゃいけねえのか? ダメやん!」
人に聞かれたら終わりだろ、こんなもん!
普通に名乗るよりも恥ずかしさが三乗されるわ!
ま、まいったな。
詠唱ができないとなると、使えるのは下級魔法ぐらいだぞ。
一気に不安さが増してきた……!
「そ、そうだ! 召喚獣だ! 代わりに戦ってもらえばいい!」
うっかりしていた!
もともと、サモンファンタジアは召喚獣とともに戦えることを売りにしたゲームである。
当然ながら、最強クラスのキャラである俺は最高峰の召喚魔法を使える。
燃費はいささか悪いが、召喚獣を呼び出して戦闘を任せっぱなしにしてしまえば、いちいち恥ずかしい詠唱をしなくても済む!!
「そうと決まれば……股間パンパンマンが命ず! 我と縁を結びし偉大なるものよ! その姿を今ここに顕現せよ! サモン、イフリート!!」
詠唱を終えると同時に、空中に大きな魔法陣が出現した。
これがファンタジーか、すげえ……!
淡く神秘的な光を放つそれに、俺は思わず目を奪われた。
画面越しにはよく見た光景だけれど、やっぱり生で見ると迫力が違うな。
前に山奥で見た星空よりもきれいかもしれない。
けど……。
「なんかちっとも出てこないな?」
三十分ぐらいは待った……だろうか?
魔法陣の向こうから、何かが現れる気配は一向になかった。
妙だな……詠唱は間違えてないし、俺のスキルが足りないはずもない。
不審に思った俺が首をかしげていると、ようやく人間の手らしきものが現れる。
向こうにいるのは女の子……だろうか?
「すいません、引っ張ってください! 出られないんですー!」
「……わかった。よっこいしょっ!」
いくら魔法職とはいえ、もともとの俺とはスペックが違う。
女の子を引っ張り出すことぐらいは簡単であった。
こうして無事に姿を現した少女は、俺に向かってぺこりと頭を下げる。
はて……この子はいったい何だろう?
紅い髪をしたなかなかかわいい子だけれど、見覚えはさっぱりないな。
俺が首をかしげていると、女の子は申し訳なさそうに切り出す。
「私はシンディアと申します! イフリート様の代理の代理のそのまた代理としてきました!」
「はい? 代理の代理?」
「そのまた代理です! えっとですね、その……イフリート様やその代理の方々が、股間パンパンマン様との契約を打ち切りたいとおっしゃられまして……」
「どして?」
「股間パンパンマン様の下僕であるのが恥ずかしいと」
……そりゃそうだよな!
俺だって、上司の名前が股間パンパンマンだったら会社辞めるよ!
けど、いきなり契約打ち切りってマジか……。
このあたりもゲームからリアルになった影響ってことか。
それにしたって、タイミングがあまりにも悪すぎるぜ……!
「すいません、すいません、すいません!! イフリート様のわがままを、私が代わりにお詫びいたします!」
「あ、あの……」
「私でよければイフリート様の代理として誠心誠意、お仕えさせていただきます! 御覧のように、人間との混血が進んだ雑種の精霊ですが……その分だけ、ご一緒しても魔力への負担は少ないはずですので! どうかおそばにおいてください!」
俺がうんうんうなっていると、すごい勢いで土下座をするシンディア。
まさしく、ジャンピング土下座というべき勢いだ。
そのあまりの勢いに俺は一瞬呆けてしまうが、すぐさま頭を上げるように促す。
悪いのはあくまで契約をぶっちぎったイフリートであって、彼女ではないのだから。
女の子にここまでさせるのは、さすがに決まりが悪い。
日本だったら犯罪的な光景だしな。
「顔を上げてくれ。わかった、これから一緒に頑張ろう」
「あ、ありがとうございます!」
土を払いながら、ゆっくりと立ち上がるシンディア。
予想とは少し違った結果になっちゃったけれど……これも悪くはないか。
かわいい女の子の旅仲間なんて、そうそうできるもんじゃないしな。
せっかく異世界に来たんだ、前向きに行こう!
「よし、じゃああの町へ行こうか」
「はい!」
こうして俺とシンディアの、異世界冒険が始まった――!
たまにいるよね、こういうプレイヤー!
ということで書いてみました、新作短編です。
ここまでギャグに振り切った作品は久しぶりですので、感想・評価をいただけると嬉しいです。
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