第三話 姫と皇太子 その1
「ただいま」
ザックスとともに自室へと戻ってきたルイディアナは、扉が閉まるのを確認すると椅子に腰掛けて入口を監視していたルッツに声をかける。
「姫様!」
ルッツはルイディアナの顔を見て、ほっと安心のため息をつく。
「レオナありがとな」
ザックスは姫の身代わりになっていたレオナに声をかける。
それに対してレオナは無言で頭を軽く下げると、着替え直す為に奥の部屋へと移動する。
それを見てルイディアナも慌ててその後に続いた。
「で、なんかあったか?」
2人が着替えている間にザックスはルッツに尋ねる。
「まあ色々と。」
「色々?」
「騎士長が説明を求めに来たり、殿下がお見舞に来たのを追い返したりと」
「・・・そりゃまた・・・すまない」
ザックスは頭をかきながら、申し訳なさそうにルッツに謝罪した。
「ふぅ・・・レオナさんの格好も素敵だけど、やっぱりこっちの方が着慣れてて落ち着くかも」
着替え終わったルイディアナはそう言いながらルッツ達の元へと戻ってきた。
「姫様、殿下がお見舞いにきていましたよ」
「え?」
「勿論、姫様は伏せっているのでお顔はお見せ出来ないと伝えて帰って頂きましたが
夕食前にでもまた姫様の様子を見にこられるようです」
ルッツは先程ザックスにした説明よりも詳しくルイディアナに報告をする。
「わかりました。
ザックス、レオナさん今日は本当にありがとうございました。
おかげでとても有意義な一時を過ごせました」
笑顔でお礼を改めて言うルイディアナに、ザックスもつられて笑顔になる。
「こちらこそ楽しかったぜ。じゃあな姫さん」
片手をあげて挨拶するザックスの隣でレオナも静かに頭を下げた。
2人が帰った後、ルイディアナはルッツに向き直る。
「ルッツもありがとう!
・・・お兄様も来たから大変だったでしょう?」
「いえ全然」
ルッツはザックスに言った事とは真逆の返事を笑顔で返す。
「それより夕食まであまり時間が在りません。そろそろ殿下がいらっしゃると思うので心構えを」
「そ、そうね」
ルッツの言葉にルイディアナは頷き、いつ兄が来ても良い用に心の準備を整えた。
そして間もなく・・・
部屋の扉がノックされた。
「姫、ギルバート王子がお見えです」
部屋の外から護衛が声をかける。
「お通しして」
儀礼的にルイディアナの許可をとる作法を終えて、兄であるギルバートが部屋の中へと入る。
「伏せっていると聞いたから心配したが、どうやら顔色は良いみたいだね」
紳士的と言う言葉が似合う風貌と所作のギルバートが、穏やかな笑みを妹へと向ける。
「ええ。もう元気だから大丈夫よ」
お忍びで外出していたとは言えず、ルイディアナは心苦しいながらも何とか嘘にはならないようにはぐらかす。
「そうか、それなら良かった。午前は顔すら見せて貰え無かったから気が気では無かったよ」
話ながらギルバートはテーブルを挟んでルイディアナの正面に座る。
そしてルイディアナと、その後ろに立っているルッツに目を向けながらにこやかに笑う。
「さてと・・・ディアはあんな事があった後だし、今日は体調が優れなかったのもあって大変申し訳無いんだけど公務の話をして良いかな?」
部下から礼儀作法の教師の件を聞いていたギルバートは気遣わしげな表情を浮かべながらも、そう切り出した。