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姫と七人の守り人  作者: ウィッツ
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第二話 姫と専属医 その3

中央前の席はすでに先客達にとられていたが、三列目のやや中央よりの場所が空いていた為


ザックスはルイディアナの手をとり、その席へと引っ張って行く。


「俺は食いもん買ってくるから隣の席確保して置いてくれ」


ルイディアナが着座したのを見届けると、そう指示を出してザックスは劇場からやや離れた場所にある屋台へと向かった。


1人取り残されたルイディアナは不安そうにキョロキョロと辺りを見渡す。


「あ・・・」


辺りを見回していたルイディアナは見覚えのある姿を見て固まった。


そしてすぐさま見つからないように俯く。


「どうした姫さん?」


そこへ両手に食べ物と飲み物を持ったザックスが戻ってきて声をかけた。


「あそこに・・・」


俯いたままのルイディアナは見覚えのある人物のいる方を膝の上で小さく指差す。


「ん?ああ」


指差す方を確認したザックスは肩をすくめ苦笑いを浮かべる。


「ばれ・・・たのかしら?」


「さぁな。ま、気にすんな」


不安そうな顔のルイディアナとは対照的に、ザックスはおおらかに笑った。


本来ならルイディアナの部屋の前にいるはずの護衛騎士が、他の観客に紛れるようにして立っているのが気になりながらも


連れ戻されない事に安心したルイディアナはザックスから飲み物が入った器を受け取りながら舞台正面に向き直った。


「食ってみろ。美味いから」


そう言ってザックスは手に持った紙包を一つ渡す。


「美味しそう!」


包みを開くと炙った馬肉とチーズ、菜を間に挟んだパンが入っていた。


中には香ばしい匂いを漂わせる特製のタレがたっぷりと塗られている。


「こうやって開いて、そのまま端っこからかぶりついて食え」


ザックスはパンの端っこだけ出るように紙包みを開いて見せる。


「こう・・・?」


普段では絶対にしない豪快な食べ方を教わったルイディアナは、大きく口をあけてかぶりついた。


「ふはっ!ちっせぇなぁ姫さんの口は」


タレが口の周りについたルイディアナの姿にザックスは思わず吹き出す。


「そーゆー時は、この紙の端で拭うんだ」


ザックスは開いた紙包の余った部分を指差す。


「なる程!これは包みの役割だけでは無くて布巾の役目も担っているのね」


真面目なルイディアナは感心して頷いた


「いやいや、そんな真面目に考えなくて良いから」


ザックスは生真面目なルイディアナに苦笑しながらも、何でも知識として吸収しようとするその姿勢に好感を持っていた。


「さてお喋りはこのぐらいにして、そろそろ始まるぞ。


あ、いい、いい。


こーゆー庶民向けの演劇は食いながら見るのがオツなんだ」


劇が始まると聞いて、食べていたパンを包み直そうとしたルイディアナにザックスは慌てて声をかけた。


そして間もなく劇場周辺の灯りの半分は火を消され


逆に舞台上には新しく灯りがいくつか置かれた。


そして低いラッパの音が辺りに響く。


『これより千花一座による“王と国”が開演致します。


ご覧になる方はどうぞお席に座ってお待ち下さい』


おそらく一座の見習いであろう少年が、幕の落ちた舞台の真ん中で先が広がった筒を口にあてながら周囲へと呼びかけた。


その呼びかけのすぐ後にもう一度ラッパの音が響き、そして先ほどの少年が舞台横へと移動した。


『むかしむかしの物語。


今は無き国の賢王と呼ばれた王の生涯。


国を奪われた王が最後に選ぶのは国かそれとも・・・』


語り部の前口上が終わると、舞台横にいた少年が幕を開ける紐を引っ張った。


するすると滑らかに上へとめくられていく幕。


そしてその幕の裏には豪華な王座と凛々しい俳優の演じる王の姿があった。


こうして演劇は幕を開けた。


俳優達による熱演や、時折挟まる剣舞。


そして一座専門の楽隊による場面に合わせた音楽。


それらに心を震わせ、夢中で観覧するルイディアナは食べて良いと言われたにもかかわらず


パンを食べる事も飲み物を口にする事も無く、ただ食い入るように舞台上を見つめていた。


演劇が終わり幕が閉じた瞬間


観客席から盛大な拍手が送られた。


ルイディアナも幼子に戻ったかのように夢中で両手を何度もく。


その拍手の嵐に答えるかのように劇に参加した役者達が幕の外側に現れ一斉にお辞儀をする。


そして再び観客席から拍手が送られた。


「こんなに楽しかったのは久しぶり!」


役者達が舞台裏に戻った後もルイディアナの興奮は覚めずイキイキと劇の感想をザックスに話しかける。


それをザックスは満足そうに笑いながら相槌を打っていた。


「話も演技も円舞も全部良かった!


でも特に第三王女役の人が槍で華麗に戦う姿が凄く格好良くて!


美人で女性らしい方なのにあの時だけは、どの男性よりも格好良く見えたの!」


「そんなに気に入ったなら会ってみるか?」


今まで頷いていただけのザックスが予想外の返事をくれた事にルイディアナは驚き、身振りで説明していた手をとめた。


「その第三王女役の役者に面識があるんだ。


まあ前に稽古中に怪我した事があって俺が治療してやっただけだけどな。


丁度その時の怪我の経過を見にいく予定だったし、一緒に行くか?


アイツは気さくだから頼めば会ってくれるだろさ」


そう言ってザックスは劇場の横にある控え室のある扉へと向かう。


「ほ、本当に大丈夫?」


その後ろをルイディアナが不安そうに、しかし期待に瞳を輝かせながらついて行く。


「だーいじょうぶ、大丈夫!」


ザックスは前を向いたままヒラヒラと手をふって控え室の扉を開けた。


扉を開けるとまたすぐに扉があり、その前に護衛らしき用心棒が一人立っていた。


「契約期間内は、ここから先は劇団関係者しか立ち入れない。さっさと出ていけ」


雇われであろう用心棒はザックス達を見て”帰れ”と言う意味の仕草である横にした手を降る。


「ザックスが往診に来てるってレイのやつに伝えてくれ」


そう言われ用心棒は怪しげにザックスを見ながらも、しぶしぶ内側の扉を開けて中にいる見習いに伝言を伝えるように指示する。


そしてしばらくして伝言を伝え終わった見習いが、今度は用心棒に伝言を伝えた。


「・・・入れ」


ザックス達に聞こえるように大きく舌打ちしながらも用心棒は伝言通りにザックス達を中へと通した。


「よ、レイ久しぶり!怪我の具合はどうだ?」


控え室の奥へと進むと、鏡付の化粧台の前に色気のある綺麗な第三王女役の役者が先程の衣装のまま座っていた。


「問題はないよ・・・これで用はすんだ?」


ザックスにレイと呼ばれた人物は、鏡の方を向いたまま化粧を直している。


「相変わらずだな。恩人に対してその態度は無いんじゃねぇか?」


肩をすくめるザックスに、レイは大袈裟にため息をつきながら振り向く。


「本当にザックスは恩着せがましいね。

で、本当に用があるのはそちらのお嬢ちゃん?」


「往診も本当なんだがな。


彼女は、さっきの舞台見てレイの事が気に入ったんだとさ。


格好良いって褒めてたぜ」


レイの質問にザックスが代わりに答える。


「ふーん。ま、どうでも良いけど。


お嬢ちゃんどうやら育ちが良いみたいだけど、こんな風に人脈を利用して人より得しようなんて考え方好きじゃないね。


出直してきな」


そう言ってレイは再び鏡の方へと向き直る。


「お、おい誤解だって!


俺が勝手に連れてきただけで、ひ・・・コイツからお前に会わせろなんて言ってねぇんだ!」


ザックスが慌てて弁解するが、レイは無視を決め込んだのか返事をせず黙々と化粧を直している。


「レイ!話しを聞・・・」


「ザックス、良いから・・・」


懸命にまだ説明しようとするザックスをルイディアナが制する。



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