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姫と七人の守り人  作者: ウィッツ
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第一話 姫と教育係 その④

「えっと・・・」


マリベーラとルッツに挟まれ、ルイディアナはどう返答して良いのか困ってしまった。


ルッツの言う通りにすれば後でマリベーラに叱られる。


それだけならまだしも、もしかしたら大事になる可能性がある。


姫に体罰を加えている事がバレたら首になるだろう。


そしてきっとルッツが言っていた通りに生涯職を失うはめになる。


それは避けたかった。


いくら自分に体罰を加える教師だからと言っても、それ以外の面では有能で教え方も上手だった。


だからこそルイディアナはマリベーラを嫌いになりきれないでいた。


「仕方ありませんわね。

では、そこで見ていらして」


何かを悟ったのかマリベーラは少しだけ本性を現した喋り方でルッツに指示を出すと、作法室から行ける隣室へ手当道具をとりにいった。


その間、部屋に取り残されたルッツとルイディアナは一言も喋る事なく静かに待っていた。


「お待たせいたしました。


姫様、そちらにお座りなさい」


「はい」


マリベーラに促されルイディアナは椅子へと腰掛ける。


「足をお出しなさい」


言われるまま怪我している足を差し出す。


「あら?そちらの足かしら?」


「あ・・・」


マリベーラの言いたい事に気付いたルイディアナは、慌てて反対の足を差し出した。


「いえ、さきほどの足であっていますよ」


すかさずルッツが指摘する。


「あら?そうだったの?ごめんなさいね勘違いして」


舌打ちをしたいのを堪えながらマリベーラはそしらぬフリを続ける。


「靴をぬがせて手当した方が良いと思いますよ。


足首だけひねったとはかぎらないのですから」


マリベーラは靴をぬがさず、そのままで手当てしたふりをしようとしたが、再びルッツに指摘された。


「それもそうですわね」


観念したのかマリベーラはルイディアナの靴を脱がす。


すると足の甲に丸く赤い痕が露わになった。


「まあ!もしかしてこれはダンスの練習で誤って踏んでしまった所かしら?


ごめんなさい、姫様が大丈夫と言うものだからたいした事がないと信じてしまったわ」


白々しいほどの言い訳。


しかし、それが嘘だと言う証拠もない。


“さあ、どうする気かしら?”


開き直ったマリベーラは挑発的な顔でルッツを横目で見る。


「へえ、ダンスの練習で。


あなたから事前に頂いている授業予定表にはダンスの項目はありませんでしたが?」


「ええ。姫様がダンスが苦手とおっしゃっていたので急遽予定を変更して教えていましたの」


まるで狸とキツネの化かし合いのようにルッツとマリベーラの二人はお互い本心を隠しながら探りを入れていた。


「姫様がダンスが苦手とは初めて聞きました。


幼少の頃から姫様はダンスの才能があるとよく言われていましたからね」


「・・・謙虚な姫様ですこと。わたくしには苦手とおっしゃていたのよ、ね、そうでしょ?」


「・・・・・・」


もはやどっちの味方につけば良いのかわからなくなったルイディアナは困り顔でルッツの顔を見上げていた。


「もう、よしましょうか。


単刀直入に聞きます。


これはあなたが体罰を加えた結果だとお見受けしますが?」


「そんな証拠がおありになって?


さきほども言ったようにこれはただの事故でできた傷でしてよ」


「なら姫様の体を調べさせて頂いてよろしいですか?


それでもし他の痕が見つかった場合は・・・」


「それをわたくしがつけた証拠がありませんわ!もしかしたらルッツ様、あなたが加えた傷じゃないのかしら?


それを新参教師のせいにしようなどとお考えなのでは?」


「馬鹿げた事を・・・なら」


普段の穏やかな微笑みを一片も残らず消したルッツは、鋭くそれでいて禍々しい美しさを醸し出す瞳でマリベーラを睨みつけた。


まるで蛇に睨まれた蛙のように身動きする事を忘れたマリベーラ。


そんな彼女にルッツはそっと近づく。


「これは、何に使うつもりですか?」


間近で見るルッツの美しさに思わず見惚れているうちに、いつの間にかルッツはマリベーラのポケットから素早く制裁用の棍棒を抜き出していた。


「それは・・・」


制裁用の棍棒を持っていた正当理由など言えるはずも無く、マリベーラは観念したように俯いた。


「さて、貴方の処分ですが・・・」


ルッツはちらりと横目でルイディアナを見る。


「姫様はどうされたいですか?」


「え・・・」


「姫様自身で彼女の処分を決めて下さい」


「私は・・・」


ルイディアナはマリベーラの顔色を伺うように見る。


しかしマリベーラは憮然とした表情でルイディアナから顔をそらした。


「”二度と体罰は加えない”


と約束して下されば、このまま礼儀作法の教師としてお願いしたいです」


「・・・正気ですか姫様?」


「ええ」


キッパリと頷く姫の言葉にルッツは呆れたように溜息をついた。


「お人よしと言うか考えがたりないと言うか・・・まあ答えは彼女に聞いてみましょう。


姫様はこう申しておりますが、どうされますかマリベーラ殿?」


「人をおちょくるのもいい加減にして頂きたいですわね」


怒りを抑えた声でマリベーラは吐き捨てる。


「こんな状態で教師を続けるほど、わたくしの神経は太くありませんわ。


もともと王室教師などやりたくありませんの!


命令されて仕方なく教えていただけなのですから、辞めさせて頂きます」


マリベーラはそう吐き捨てると作法室の扉を乱暴に開いた。


「後日で良いので正式な辞表を私宛に提出して下さい。


受理後、あなたの残った荷物を自宅に送らせて頂きます」


「どうぞ、ご勝手に」


そう言い残してマリベーラはヒールの音を響かせながら去っていった。


「これでよろしいですか姫様?」


「・・・あ、バレてた?」


「もちろん」


ルッツはにっこりと笑う。


「さきほど気にされていましたからね。


姫様から首にすれば彼女は今後、職を失う。


そうさせないためには自ら王宮教師を辞める必要がある。


正当な理由で辞めた場合なら咎められる事もありませんからね。


彼女の場合うまく正当理由を辞表に書くでしょう。


しかし、もしああ言って本当に教師を続けたらどうする気なんですか?」


「それならそれで良いかなっと思って。


体罰さえなければ私、彼女は教師として一流だと思うわ」


「器が大きいと言うか・・・素直ですね本当に」


呆れたような、それでいて優しい瞳でルイディアナを見ながらルッツは微笑んだ。


「さて、とりあえず医療室に行きましょうか。


さきほど侍女達に聞いたら、最近ずっとお一人で入浴されているそうですね。


どうやら足の傷以外にも今までの傷があるみたいですから、この機会にきっちり診てもらいましょう」


「はい」


ルイディアナの足を気遣いながら、ルッツは姫と一緒に医療室へと向かった。



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