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姫と七人の守り人  作者: ウィッツ
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第一話 姫と教育係 その③

「まあ!ルッツ様にそう言って頂けるなんて、なんてわたくしは幸せなんでしょう。

さあ、お入りになって」


マルベーラは頬を染めながら快くルッツを作法室の中へと招き入れた。


「あ・・・」


ルイディアナは部屋に入ってきたルッツを見ると気まずそうな顔をして俯いた。


「姫様。ルッツ様が日頃の成果を見せて頂きたいそうよ。


人に見られて緊張するかもしれないけど、わたくし達の努力が評価されるのですから頑張って下さいね」


ルイディアナと二人きりの時ではとうてい聞けないような優しい声でマリベーラは姫にそう語りかける。


しかし言葉こそ優しいものの、その裏には「わたくしに恥をかかせたらただじゃおかない」と言おうとしている事がルイディアナには痛いほどに伝わってきた。


「さあ、それではルッツ様に淑女らしい歩き方を見せて差し上げて」


にっこりとほほ笑むマリベーラの笑顔に見送られ、ルイディアナは足の痛みを我慢しながら再び部屋の隅へと移動した。


ルッツの目から見てもルイディアナの歩き方はとても美しい物だった。


もともと姫であるよう躾けられて育てられたルイディアナ。


そこにマリベーラによって厳しく叩きこまれた作法が身に着いた事で文句なしと呼べるほどに乱れのない歩き方となり、


そして何より姫自信が産まれ持った気品や知性が口元に浮かべられた微笑からにじみ出ていた。


唯一惜しい点としては、まだ幼さの残る顔が淑女と言うよりは、少女に近い印象を与えている事だった。


もちろんそれもあと数年すればとても美しい女性へと成長し文句なしの淑女となるであろう。


そうルッツが考えながら見ていると、わずかに・・・そう、毎日姫を見ているルッツにしかわからない程度に、姫の片足が不自然に動いている事に気付いた。


「どう、でしょうか?」


歩き終えたのに誰も言葉を発しないことに、ルイディアナは不安になり自ら評価を伺う。


「え、あ、どうかしら?ルッツ様?」


ルイディアナではなくルッツの横顔に見惚れていたマリベーラは我にかえってルッツにそう尋ねた。


「失礼いたしました。

大変素晴らしかった為、感嘆の声も上げる事を忘れておりました」


本当は姫の足がどうかしたのではないかと考えていたため、ルッツは言葉を発するのを忘れていた。


「そう言って頂けるとわたくしも姫様に教えたかいがあったと言う物ですわ」


口元を上品に隠しながらマリベーラは控えめな笑い声をあげた。


「マリベーラ殿のご指導が大変素晴らしい事がわかり安心致しました」


そう言ってルッツはにっこりと笑った。


その言葉にルイディアナは”もしかしたらルッツなら気づいてなんとか先生をかえてくれるのでは”という一欠けらの望みは消え、落胆の表情を隠すために俯くしかなかった。


幸いルッツの姿にしか目に入らないマリベーラにはルイディアナの落ち込んだ様子など目の端にもうつっていなかった。


「褒めて頂き光栄ですわ」


ルッツに褒められ鼻高々といった様子のマリベーラは、心の底から嬉しそうな笑い声をあげた。


「ところで・・・姫様は足でも怪我をされましたか?」


「え・・・!?」


思いもよらぬ言葉にルイディアナは驚いて顔をあげる。


「歩き方は完璧でしたが、立ち姿が何やら不自然な気がいたしますが」


本当は歩いている姿で気付いたのだが、正直に言うと”緊張していたのでは”とマリベーラにごまかされる可能性と、失敗したと言う事で後で姫が叱られる可能性を考慮していた。


「あら?わたくしはちっとも気づきませんでしたわ。


姫様、もしかして練習に夢中になりすぎて捻挫でもされました?


そうなら遠慮せず言って頂ければすぐに休憩を差し上げたのに」


自分が傷つけたと悟られない為にマリベーラは遠まわしに捻挫した事にしろっと姫に訴えかける。


「あ、はい。あの・・・ちょっと足首を捻っただけなので、大丈夫です」


嘘の苦手な姫はルッツから目をそらせて返事をかえす。


「それは大変です!ただの軽い捻挫だと甘く見ていると悪化しますよ。


手当しますから見せて下さい」


「る、ルッツ様!手当ならわたくしがするので大丈夫ですわ!」


素足を見せたら一発で捻挫ではなくピンヒールで踏まれた後だとバレてしまう。


それを防ぐためにマリベーラは慌てて声をあげた。


「それにほら、いくら幼少の頃から知っていると言ってもルッツ様も男性なのですから、女性の素足に触れるのはよろしくありませんわ。


ね、姫様もわたくしの方がよろしいわよね?」


「あ、はい」


姫は小さく頷く。


本当はルッツに真実を知って欲しかった。


しかし、ここでマリベーラをあからさまに拒否する事も出来なかった。


そう出来ないようにすでにマリベーラに体の痛みとともに躾けられていた。


「そうですか、それではここで手当ての様子を見させて頂いてよろしいですか?


幼少の頃からともにいるのですから、私にとって姫様は妹のように大切な存在なのです」


「え、ええ。かまいませんわ。


でも、あまりじっくり見られると姫様も恥ずかしいのではないかしら?」


踏みつけた後が見えないようにどう手当てするか考えながらそれと同時に、なんとか断る事が出来ないかと考えていた。


「そんな事ないですよね姫様?」


決定的な証拠がそこにあると睨んだルッツは、引き下がる事をやめ多少強引にでも証拠を押さえる事に決めた。


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