表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫と七人の守り人  作者: ウィッツ
1/21

第一話 姫と教育係 その①

むかしむかし あるところに


それはそれは可愛らしい


お姫様がおりました


・・・中略。


そして幸せに暮らしましたとさ


めでたし めでたし


「あー面白かった」


とある国の姫ルイディアナは、読み終わった子供向けの絵本を


ぽんっとベットの上に投げ出し、ごろんとベットに横になった。


「姫様、休憩時間はとっっっくに終わっていますよ。そしてはしたないです」


仰向けに横になり両手を広げてベットに寝ている姫に、


教育係であるルッツは声をかける。


左手は寝室の扉を開いた状態でおさえ右手には分厚い本を肩にのせるように持っていた。


この教育係であるルッツは物腰が柔らかく

そして女性と身がまうほどの綺麗な顔立ちだが

彼をよく知る知人達はこぞって「恐ろしい人物」と称していた。


「むー・・・」


物語の中に浸っていたルイディアナはふくれっ面をしながら起き上った。


「ねえルッツ」


スカートの裾を正しながらルイディアナは何か閃いたような顔でルッツに近づく。


「なんですか姫様?」


「私思うの。世の中には勉強よりも大切な事が沢山あるって」


「そうですね」


「でしょ。だからね、たまにはお勉強をお休みして、もっと大切な事を学びに行くべきだと思うのよ」


「なるほど。それで?」


「街中に出てもっと国民達の生の声を聞きにいくべきじゃないかしら?」


「それは素晴らしいですね。では、勉強しましょうか」


にこにこと笑顔で話を聞きながら、ルッツはいつの間にか姫を隣の勉強部屋へ連れ出して椅子に座らせていた。


ルイディアナの目の前のテーブルには分厚い本が3冊。


メモ用の羊皮紙が10枚広げられていた。


「だ、だから、街に・・・」


「国民の声を正しく聞き取る知識が貴女にはありますか?


たとえばパンが現状いくらで、何故その価格で提供されているのか、されなければいけないのか。


それを判断するには、パンと言う物の原材料の価格や加工する為の人材費用、それからその材料費の相場も調べなければならない。


材料費の相場がわかったら、何故今その価格で提供されているのか、その為に必要な知識は経済の動き。


もちろん政治的な事もかかわってくるでしょう。


そして国民にとってその値段がどのぐらいの価値であるのか。


高いのか、安いのか?


それを判断するには、国民の平均的収入、そして平均労働時間、平均の労働内容など事細かに知らなければいけません。


ろくに知識もない人間が『パンが高い安くしろ』と言われて的確な判断が下せますか?


勝手に値段を上げ下げしたら、それこそ国民が混乱します。


それにただパンの値段を変えただけでは根本的な解決にはなっていません。


ただの一時的な気休めにしかなりませんよ。


本当に国民の事を思って最善をつくしたいと思っているのであれば、貴女がまずしなければならない事は正しい知識と知恵を身につける事です。


・・・わかりましたか?姫様?」


ルッツの長いお説教に、姫はすっかり委縮して椅子の上で縮こまっていた。


「は、はい・・・。ちゃんと勉強します」


「さすが姫様ですね。それが賢明な判断と言えます」


にっこりと笑うルッツに、ルイディアナは涙目になりながら勉強に励むこととなった。


*****


「はい、よくできました」


ルッツのその一言で本日の勉強が終了した。


「では明日、今日までの所を理解しているか試験するので復習しといて下さいね」


にっこりと天使の笑顔で鬼のような事を言うルッツ。


「うう・・・はい」


本当は嫌だと言いたい所だが、そんな事を行った日にはどんな大惨事が待っているか経験済の姫は素直に頷くしかなかった。


「さて、今日は午後から礼儀作法の日ですよね。


どうですか先月から来た新しい先生は?


上流階級では有名な先生ですから大丈夫だとは思いますが」


「あ・・・うん。熱心な先生で・・・とても素晴らしいです」


「・・・姫様?何か隠してます?」


「え・・・?ううん、大丈夫」


何事もなかったように冷静な顔で首をふる姫。


しかし長年の付き合いであるルッツには、その姫の姿に違和感を感じた。


本来、姫はとても表情豊かで仲が良い相手の話をする時は笑顔満面になる。


しかし今は悟られないように表情を消しているように見えた。


まだ一月しかたっていないのだから先生とは親しくなっていないと考えれば普通だが、しかし・・・。


「姫様、悪口は聞きませんが相談ならいつでものりますからね」


姫が言わないと言う事は今は言いたくないのかもしれない。


そう判断したルッツは優しく姫の頭をなでる。


「うん。ありがとう!」


さっきの冷静な無機質な表情とはうってかわり、姫は花をまくかのような可愛らしい笑顔でルッツの好意に答えた。




午後・・・昼食を終え、礼儀作法を習いに作法室へと向かう準備をする姫。


しかし、その手はのろのろと・・・けだるそうに動いていた。


「姫様。早く準備しないと遅刻しますよ?」


その様子を見てルッツが急かすように声をかける。


「あ、うん。もうちょっとだから・・・もうちょっとだけ・・・」


ルッツに背を向けて準備しているため、ルッツからは姫の表情が伺えなかった。


しかしそれでも嫌々ながら準備しているようすがはっきりと伝わってきた。


「・・・ねえ、ルッツ」


「なんですか姫様?」


「あのね、もし、もしもの話よ。


もし私が今教わっている教師を変えたいって言ったら、その先生はどうなるの?」


「つまり現行の教師をクビにするって事ですか?」


「う、うん・・・」


「それはまあ、姫様から首にされた教師と噂になれば、どんな優秀な教師であろうと次に雇ってもらう場所を探すのは大変になるでしょうね」


姫を安心させる為に、クビになってもすぐ次の職場がある・・・と嘘をついても良かったが、それでは姫の為にならぬ事をわかっているルッツはキッパリと真実を述べた。


「姫の言動には人の人生を大きく左右するほどの影響力がある事を肝に銘じて下さいね」


「う、うん!!」


(まったくわかりやすい姫様だ)


ルッツには姫が礼儀作法の先生とうまくいっていない事がすぐにわかった。


しかし、それを姫が相談してこない以上は手出しはできない。


そう判断してあえて気づかないふりをして黙っていた。


「じゃあ行ってきます!」


自分に気合を入れるように力強くそう言って、ルイディアナは護衛とともに作法室へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ