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#6

「まさか・・・あれはクリスティーヌ?!」


二回の特等席でオペラを鑑賞していたオペラ座のパトロン…ラウルは、第三幕のアリアを

歌っている女性に気づいた。




「何てことだ。僕の初恋の女性がオペラ座で歌っているなんて!!プリマドンナの代理として!!これは運命だ!!そうに違いない!!!オペラが終わり次第クリスティーヌを食事に誘おう!!!!!」





クリスティーヌにそんな気がこれっぽっちもないことを知らない子爵は、夢見心地で彼女のアリアを聴いていた。





「私たちは誓っていない。愛は永遠で海のように変わらないなんて。


でも私に約束して、時々でいいの私を思い出して・・・・


この私を!!!!」



クリスティーヌの歌声は清らかに美しく、オペラ座全体に響き渡った。


そしてそれに答えるかのように、聴衆の喝采が彼女に送られた。












・・・・・・・・・・・・†・・・・・・・・・・・・




何て素晴らしいの!!!!


歌い終わった私は何百もの人に拍手を送られて、これ以上ない幸せに満ち溢れていた。



たくさんの人から愛されるのがこんなに幸せなことだなんて、思ってもみなかった。


お父さんのところに行かなくちゃ。


オペラが終わるとそっと劇場を抜け出して、父の遺影が飾られている部屋に行った。




蝋燭を燈し、祈る。













不意に蝋燭がゆらりと動き、私に()が来たことを知らせた。




「素晴らしかった、クリスティーヌ。」


「先生・・・・」


全部、全部先生のおかげ。


そう思って一人涙ぐんでいると、廊下がにわかに騒がしくなった。


「クリスティーヌ〜??」



慌てて涙を拭うと、ドアからぴょこっと彼女・・が顔を出した。




「全く、どこの世界に隠れちゃったのかと思ったよ〜


お疲れ、クリスティーヌ♪


今日のステージすっごい良かったよ!!!いつの間にって感じだった!!



ね、『特別な先生』って誰のこと???」





すごいマシンガントーク。


豊かな金髪をきらきらさせて、大きな緑の瞳をいっぱいに開いて、いろんなことを残らず知ろうとして。


この天才ダンサーは引っ込みがちな私にいつも新しいものを見せてくれた。






だから。



この子になら・・・いいかもしれない。お母さんだって知ってるんだし。





「私の先生はね、お父さんが送ってくれた天使なの。」


「は?またクリスティーヌったらそんな夢みたいなこと言っちゃって。」


「父は死ぬ間際に私に約束してくれたのよ。天国に行ったら、音楽の天使を送ってあげようって。その日、私は本当に音楽の天使に出会ったのよ。


彼はいつも私にレッスンをしてくれて・・・今この部屋にもいるわ。私にはわかるの。」



「眼を覚ましてよ。そんな御伽噺みたいな話、あるわけないよ!!ねえ、手が冷たいよ。」


「彼はいるのよ。」


「顔だって蒼いし。」


「だって私はそうじゃなきゃ一人・・・」


「私がいるでしょ?何をおびえているの!!ね、部屋に戻ろう。みんな待ってるよ。」






メグは私をぎゅっと抱きしめてくれた。





・・・・・・・・・・・・†・・・・・・・・・・・・






部屋に戻ると、花束や、プレゼントで溢れかえっていた。


こんなにどうしようっていうくらい。






コンコン






・・・誰じゃい。



「どなたですか?」



「ちょっと入りますよ。」






嫌な予感。



すごぉーーーくいやな予感。



この滑らかで綺麗なぼくちんかっこいいぜ系な声。






「ラウル・・・・」



「久しぶりだね、クリスティーヌ!!ずぅーっと君に会いたかったんだ!!!」



満面の笑顔には裏はなさそうだ。とりあえずいじめの記憶はないってことで。




「お、オペラ座のパトロンになったんだってね。おめでとう。」


「ありがとう〜☆ね、今日一緒にディナーしないかい?馬車なら待たせてあるよ!!」


「は?」


「じゃあ、5分で準備してね〜迎えにくるから!!!」


「ちょ、ちょっと待て!!!!」





あ〜ひとり浮かれて行っちゃった。


やだな〜ラウルとディナーとか。

最悪。




でもパトロンに逆らったらまずいのかな。




あ〜あいつのせいで気分ぶち壊し。









「私の宝物に手を出す愚か者め。そうやって自分の栄華に浸っていればいい。若

輩者がいい気になりおって。私のオペラ座を奪えるとでも思ったのか。」



突然聞こえてきた、心を震わすようなテノール。


こんなに豊かな声量と魅力的な声の持ち主はこの世で一人しかいないだろう。



「せ、先生!!」


「可愛い私のクリスティーヌ、今日のオペラは見事だったぞ。」


「全て先生のおかげです!!何てお礼を申し上げたら良いか……」


「私はお前の能力を引き延ばしただけだ。それより、幹部が交代して早々にお前は大成功を収めたのだ。プリマドンナになれるかもしれないぞ。あのへたくそなイタリア女の代わりにな。」


「そんな…私にそんな大層なこと…」


「お前と私なら出来るさ。

さあ、今夜はちょっとした祝いをしようかと思ったんだが…ラウル子爵様とのデートの方が良いかな?」


「ま、まさか!!先生にお祝いしていただけるなんて、最高です!!相手が子爵だろうが公爵だろうが先生のほうがずっといいです!!!!」



だって、先生に会ってみたい。


私は先生の姿を一度も見たことがないのだ。14年もレッスンを受けていな

がら。



「本当に面白い子だ。良いだろう。鏡の中の自分自身を見てみなさい。そこに私は居る・・・・・・」



目の前の大きな姿見。そこには自分を見つめる私の姿・・・・・・・




そして、顔を半分仮面で覆った、一人の男の姿が映っていた。



驚いて部屋の中を見回しても、そこには誰も居ない。


黒い燕尾服に身を包み、漆黒の髪をなでつけた彼こそ、私の音楽の天使、Angel of music・・・・・・



「その鏡は扉になっている。さあ、おいで。



二人だけの音楽の世界に・・・・・・」





その深く甘い声に酔ったように、私は隠し扉の鏡の向こうの世界に足を踏み入れた。










・・・・・・・・・・†・・・・・・・・・・







ん〜♪


クリスティーヌとデート♪


クリスティーヌとデート♪



着替えを済ませた僕はクリスティーヌの部屋に小踊りしながら足を運んだ。


どんな服かな。


セクシーなタイトかな。


それとも清純なプリンセスかな。


色は何色かな。


ピンクかな。


でも彼女は赤も似合うな。


いやいや、寒色系も素敵だろうな。




小さい頃こそいじめられっ子だったが、数年前頃から僕に近づく女性が多くなった。


美形で、お金があって、けっこう優しい。


僕の定評はそんなところだ。


この数年間、僕の甘い誘いを断れる女性はいなかった。

魅力的なウインクの仕方からキスのタイミングまで熟知している僕だから。




クリスティーヌもきっと今夜から僕にメロメロさっ。



きゃ☆


そんなことを考えて緩んだ口元を締めてから、ドアノブをこつこつと叩いた。


「クリスティーヌ〜準備は出来たかい?」


「ええ。」


微笑みながら現れる彼女の腕をとり、馬車の所へ……




そんな妄想は打ち砕かれた。




「先生……ぜひ……ええ、もちろん……」


綺麗なクリスティーヌの声が語りかけてる相手は僕じゃない。


「先生」って誰だ?!




しかしどんなに耳を澄ませても、不思議なことに相手の声は聞こえない。






「クリスティーヌ!!誰と一緒なんだ!!」


ドアノブをガチャガチャと回すが、鍵がかかっているようで開かない。




「くそっ!!クリスティーヌ!!答えてくれ!!クリスティーヌ!!!!」

















ラウルの叫びは彼女には届かなかった。









全てを見守るのはただ一人・・・・・・・・・



















マダム・ジリーのみ。

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