プロローグ
孤独な私
生れ落ちた瞬間から誰にも愛されることなく
ただ憎まれ続けた自分。
いつからだろう。
心にまで仮面をつけ始めたのは。
愛されたかった。
ただそれだけだったのだ・・・・・・・・・
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お父さんが死んだ。
いっつも優しくいろんなことを教えてくれたお父さん。
「クリスティーヌは声が綺麗だね。」
そう言って頭を撫でてくれたお父さん。
ついさっきまでお話してたお父さん。
どうして急にいなくなっちゃったの??
眼から溢れる熱いものは止まることを知らず、私もまた流れるに任せていた。
いつまでも泣きじゃくる私をそっと抱きしめてくれたのは親友のメグ。
なんであなたまで泣いてるの。
クリスティーヌが悲しいときは私も悲しいの。
優しいメグ。それを暖かく見守る優しいマダム・ジリー。
泣いたらみんなが困るって知ってるけど、やっぱり涙は止まらない。
いつまでそうしていたんだろう。
みんなが気を使って一人にしてくれた。
蝋燭に火を燈し、お父さんに話しかける。
お父さん、どうしてクリスティーヌのところからいなくなっちゃったの。
お父さん、クリスティーヌはまだ知りたいことたくさんあるよ。
ねぇ、ねぇ、お父さん・・・・・・・・・・
ふと、思い出した。
死ぬ直前にお父さんが約束してくれたんだっけ。
「私が死んだら、神様に頼んで、音楽の天使をクリスティーヌに送ってあげよう。
私の代わりに、その方に頼りなさい。」
「音楽の天使」。
その響きは耳に心地よく、幸せを運んでくれそうな気がした。
私は祈った。
早く音楽の天使に会いたい、と。
そうしているうちに私は眠ってしまったようだった。
いつの間にかぼんやりと霧の中に私は一人立っていて、どこからか優しい声がした。
「一人ぼっちの孤独な少女よ。
私は音楽の天使だ。君のお父さんに使わされてやってきた、音楽の天使だよ。」
甘く、柔らかい低い声。ああ、これは夢なんだ。お父さんが送ってくれた夢なんだ。
「君の声は素晴らしい。だが、まだ飛び方を知らない雛鳥のようだ。
私が教えてあげるよ、飛び方を。君に私の音楽を教えてあげよう。」
「私に音楽を教えてくれる?」
「そうさ、君はやがてヨーロッパのプリマドンナになれるよ。
私が歌を教えてあげよう。その綺麗な声がいっそう輝きを放つように。」
その声は硬く縮こまっていた私の心を和らげ、甘く誘った。
ああ、どうしてNOと言えるわけがあろう。
他にすがるものなんてないのに。
それが悲劇への第一歩だと知らなかったのに。