第5話 お菓子の国で人生最悪の夢
俺はアリスと戦ったあの後、意識が遠のき、いつの間にか倒れた。
人間でいられる神水の効き目時間は約30分ってところでかなり少なかった。
身体が思うように動かなくて辛い。正直今日は一日中眠ってたいです。
「(けど流石にこのまま起きずにずっと眠っているってのも迷惑かけちまうし、そろそろ起きるかな。)」
そうして俺はゆっくりと体を起こした。目を開けて周りを見回し、場所を確認する。
「ん・・・ここは・・・?」
見たことない風景で空はピンク色で周りには子供が沢山おり、甘い匂いがする。
さっきの見方と違って俺の身体は蚊に戻っており、よく見ると血がポタポタと垂れている。
「あっ...そういえばアリスの血吸ったんだっけか・・・」
今思うと凄い事をしたなと思い出すだけでも顔が真っ赤になりそうだ。
まあそんなことはどうでもいい。まずはここがどこかを調べないと
とりあえず人に聞くのが一番!といっても蚊なので無理だと気づいた。
しかし町の様子をよく見てみた。クリスマスでよく見るクッキー、如何にもお菓子で作ったかのような家
「(あれ、ここってもしかして...お菓子の国!?)」
何度か本で読んだことがある。お菓子の国は夢の国であって非現実的には存在は絶対しない。と
「(ってことは...ここは夢か?だとしても...まるで夢ようには思えない...)」
小学生の頃一度は皆思ったことがあるだろう。「お菓子の国に行きたい」という夢が
ここで俺は遂にその夢を叶えた。40年間生きてきて初めて非現実的な願いが叶ってしまったのだ。
「(とりあえず腹減った...なんか食べないと・・・)」
もう二日もろくに飯食ってないので、お腹が空く。そして俺はアリスの血を吸ったが為に気分が悪い。
蚊にとって血を吸うのは調整しながら吸ってるんだなと改めて実感する。
周りにあるのはお菓子の家、屋根がチョコレートで看板にキャンディ、家によってクッキーだけで作られている家もあれば、チョコのみの家もあるので、何だか見てると楽しくなってくる。
「(ここの家のクッキーを一つ食っても問題ないだろ...)」
少し小さいバター味のクッキーを家から引き出す。小さいから大丈夫だろうと思っていた。
しかし、何とか引き出した時に家が揺れだした。ガタガタガタガタっと家が音を立てる。
「お、おい!家が崩れるぞ!!!」
「うわー!パパ助けて!」
「きゃ~!」
3人家族の悲鳴ような声が聞こえた。俺はチョコをちょこっとだけ取っただけなのに家がまるごと崩れるなんて思いもしなかった。お菓子の家は頑丈に作っているというのは想像に過ぎなかったのである。
「ママ...パパ...!」
一人の少女が泣きながら両親の名前を言っている。娘だけを何とかして守りたいという一心で子供だけを先に行かせて後に遅れて行った両親は崩れて亡くなったのだろう。
俺は最低な人間だ。こんなはずじゃなかった。俺のうっかりした行動で周りの人間を殺してしまうなんて。よく犯罪者が言い訳することだ
「こんなはずじゃなかった。」「想定外」「うっかりミスで人を殺した。」
また俺はこう言って逃げる。せっかく異世界に来てまでやり直そうって決めたのに・・・
本当は謝罪したい。過去に戻ってあんなミスを避けようと思う。けど蚊だから、何かが出来るわけでもない。
「(何で・・・!なんで蚊なんかになっちまったんだ・・・!クソ・・・!)」
俺が幽霊になっていればあの子は助かったかもしれない。そういう考えで頭がいっぱいだった。
ひたすら泣いた。俺も少女も、町の住民も、
途中、目の前が真っ暗になった。紫の煙のようなのが見える。
「(はっ..!)」
目が覚めた。次は見慣れた天井、夢じゃないと分かった。
クリスやルーラがまるで恐怖を感じたかのような目で見てくる。
「おはようございます。随分と大雑把な起き方ですね・・・眠っている時に泣いている人とか初めて見ましたよ。」
クリスは呆れながらにも俺の顔を見ながら言う。俺はまだ人間の姿だった。
少し嫌な雰囲気が漂う中、
ルーラが嫌な雰囲気を蹴散らそうとして俺に少しイラつきながら喋った。
「あなた....人殺ししたでしょ?」