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コネクト  作者: 夏みかん
第5話
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心、コネクト(7)

12月のホビーショーのためにせっせと転売する傍ら、期末テストに向けての勉強もしていた。元々テスト前日にその教科のヤマを張って勉強するタイプの夕矢であったが、さすがにこの状況ではそうもいっていられない。夜は転売のためにパソコンと向き合い、昼間はこうして勉強会である。何故か学年の違う雪まで参加した勉強会のメンツは夕矢と香、茜、陽太、そして穂乃歌に愛瑠と多種に渡っていた。お嬢様だという噂は聞いていたが、この広い部屋を見ればそれも納得できる。いや、お屋敷といっていい広い家を見た時点でそれを確信した面々は雪と仲良くなれたことに感謝をするしかなかった。


「明日は英語なんだよねぇ」

「それ、3年生だけですよ」

「んー、不公平だ」

「どういう不公平ですかねぇ」


雪の言葉に逐一反応する穂乃歌に対し、他の面々はあれこれ教えあったりしている状況であった。真面目モードの愛瑠がいるせいか、緊張感もあって勉強会は進んでいた。おかげで夕矢ですらそこそこ真面目にするほどなのだ。そうして勉強会は終わり、あとは和やかなティータイムとなった。女性陣がわいわい騒ぐのを見ていた夕矢の横に陽太がやってくる。


「クリスマス、どうするんだ?」


小声でそう言いつつも顔は女子の方に向いている。自分たちに注意をひきつけないようにとの判断であり、そこは夕矢もよく理解している。


「サンマルテ」


必要最小限にしか言葉を出さず、ジュースを飲んで空気に紛れた。


「こっちはここで、だ」

「ほう」


そう言い、チラッとベッドを見やった夕矢を肘でつつく。陽太とはお互いに恋愛相談をしあっているため、2人がまだそういう関係でないことは知っていたが、いよいよクリスマスでそういう関係も終了かと嫌な笑みが浮かんでいたからだ。


「しない、よ」


そこはきっぱりと言い切る。陽太は自分の中で雪が卒業するまでは絶対にしないと決めていたし、それでも延長もありだと考えているほどにそういう面では厳しかった。


「我慢できるのか?先輩の部屋で、なのに?」

「お前よりは」

「俺は意志が固いからな」

「瀬川はしてほしそうだけど?」

「かもな」


こちらもいつものポーカーフェイスを貫いている。現に香はいつでもいいという感じでいるのは知っている。それこそ、タイミング次第という感じで。対する夕矢は高校生の間はしなくてもいいんじゃないかと思いつつも、最近は香への愛情がより深くなってきたせいか欲望に押されている自分を自覚していた。


「ところでさ」


女子の恋愛談義を目にしつつそっと陽太がつぶやく。何かの相談かと思った夕矢が気持ち頭を陽太に寄せた時だった。


「あのおっきな胸の感触はどんなんだ?」


いつかの借りだという嫌な笑みを浮かべる陽太に対し、夕矢はポーカーフェイスを崩してしまった。


「さ、触ってねーし」

「マジで?」

「ああ・・・・ってか、触りたいとは思うんだけどさ、あれは香のコンプレックスだし」

「辛いなぁ」

「ああ・・・・そういうお前は?」

「柔らかかったぞ」

「・・・そうなんだ」

「ああ」


自慢げにそう言う陽太を見ず、何故か負けた気持ちになる。体の関係はない陽太であったが、雪の強引な誘いによってその胸は何回か触っていたのだった。素直に羨ましいとは思うが、夕矢にとってそこは攻めづらい部分だ。それを知った陽太はちゃんと香と向き合っている夕矢を夕矢らしいと思うしかなかった。ちゃんと香のコンプレックスを考慮し、嫌がることには自分で歯止めをかけられる。


「夕くん、そういえば、ホビーショーに先輩も来たいって」


振り返ってそう言う愛瑠に首を傾げたのは陽太の方だった。そんな話は一切聞いていないからである。大体、ホビーショーとは何なのか。


「行くならカルフェスの方がいいんじゃないか?」

「そっか、そうだね」

「カルフェス?」


夕矢の言葉に賛同した愛瑠が疑問を口にする雪に説明をしていく。興味を抱く雪の横でため息をつく穂乃歌は同じ感覚の持ち主であろう茜にそっと耳打ちをした。


「オタクのイベントなんかに行く気になれるって、すごいよね」

「あ、うん。雪さんだから、ね」


どこか歯切れの悪い茜に、雪の悪口は言いにくいんだろうと曲解した。実際は茜の胸中は複雑なのだ。カルフェスでは自分と明日那が即売会で本を売ることになっている。基本的に変装するとはいえ、近くに来れば夕矢や香にばれる可能性が高いだろう。しかし明日那は楽観視しており、BLエリアに連中が寄りつくはずがないと決め込んでいたのだ。実際、香にしても愛瑠にしてそっちの方面に全く興味がないのは茜もよく知っている。だが、雪の動向は予測不可能だ。天然である雪が興味を示さないとも限らない。かといってイベントの参加に反対すれば、それはそれで怪しまれるだろう。どうするか明日那に相談することを決めた茜なのだったが、とりあえず作画に入っている明日那の進行具合も気になっているせいか、勉強会をした割にはそう成績は上がっていなかったのだった。



無敵のクジ運という名のインチキをする夕矢によってホビーショーの特別一発クジをゲットした香と愛瑠は満足げに各企業ブースを回っていた。限定品こそあまり買えなかったものの、それでも新製品などを間近で見られたことはかなり大きかった。今後の購買計画を見直しつつ、貯金の上限を決めて予算の必達を目指すモチベーションも上がるからだ。コンパニオンを写真に収める夕矢に怒りの目を向ける香、そんな香をなだめる愛瑠。3人の関係はより深い絆で結ばれていた。愛瑠はまだ夕矢を好きでいる、それは香も理解している。それでもそれを隠さず、夕矢の言葉や態度で嬉しさを爆発させてくるくる回る姿に香はどこか和んでいるのだった。そうして12月のイベントも残すはクリスマスだけとなるが、夕矢と香にしてもディナーコースを楽しんだあとはイルミネーションの町を歩くだけの簡単なものしか行わない。まだ16歳の2人に濃いクリスマスなど送れないからだ。お金もないし、時間も制限されている。何より、付き合って最初の大きなイベントだけに、一緒に過ごせるだけで満足なのだった。一方で、陽太と雪には多少の変化があった。もちろん、体の関係はない。けれど、外国語大学に進学することが決定している雪のその動機を知り、陽太が燃えたのだ。


「いつか陽ちゃんがプロになって外国を拠点に活動しても、そこなら留学先を選べるし、将来を考えたらいろんな言葉も学べるし、一石二鳥だもん」


チキンを食べつつそう言った雪の言葉は陽太を奮起させた。盛り上がった気持ちだが、それはそれでちゃんとブレーキをかける陽太であり、雪は渋々ながらそんな陽太の意思を尊重したのだった。2組が愛情を深める中、茜は明日那と作品の打ち合わせと作成に時間を費やしていた。クリスマスなど1人身の女子には関係がない、そんな風に意地になっている部分もある。穂乃歌に女子だけのクリスマス会に誘われたが、それを用事があると断っていた。もちろん、男関係ではなく家族で過ごすという理由だ。実際はケーキを食べながらBL談義に華を咲かせ、作品の向上に努める有意義な時間でもあった。ユニット名は決まった。『YAYA』である。夕矢と陽太のアルファベット頭文字と自分たちのアルファベット頭文字を合わせたものだ。


「作品名はどうする?」


作画は半分以上出来ているが、タイトルはまだ仮名なのだ。いい案が浮かばずに後回しにしているものの、さすがにそろそろ決めないといけない時期にきている。


「『寝取られ幼馴染』じゃぁ、ねぇ・・・・・なんかこう、シンプルでインパクトのあるの、ないかな?」

「キーワード的な?」

「そうそう」


言いながらも明日那の手は止まらない。1年以上前から漫画を描いているだけあって、明日那のそれは上手だ。先輩の姉に同行してコミケに参加すること2回、売り上げも黒字を記録している明日那の実力はそれなりに高かった。


「そうだな、今年中に茜ちゃんが考えて」

「えー、私?」

「原作者なんだから」

「うー、そっかぁ」


そう言われては仕方がない。年内にどうにかすることで茜は了承し、腐女子2人のクリスマスはこうして終了したのだった。



雪が積もった窓の外の景色は幻想的で、寒そうであった。旅行前日に振った大雪のせいで電車のダイヤが心配だったものの、出発の時間には通常通りに運行されていて茜たちはホッとしたものだった。結局、温泉旅行に参加となったのは陽太、雪、茜、香、そして穂乃歌の5人だけとなっていた。ドタキャンやらあって、結局このメンバーに落ち着いたのだ。大きな露天風呂があり、女性陣が目を輝かせる。穂乃歌が一番乗りをしようと駆け出して盛大にこけ、茜が勢いよく風呂に飛び込んでいく。他の客がいないからできる贅沢な行動に雪も香も真似をするのだった。大きく胸を揺らす香を恨めしい顔で見つめるのは茜。形のいい胸にどういう秘訣があるのかを聞く穂乃歌。しかし穂乃歌もちゃんと胸はあり、香のFカップ、雪のDカップに次ぐCカップとなっていた。気持ち程度膨らんでいるだけの茜は全員が恨めしくなっていた。そのため、鼻先を水面に出すワニの如く香の背後に回り込み、素早くその大きな胸をわしづかみにする。


「はうっ!こ、こら!茜っ!」

「大きすぎる・・・そうか、こんなのを夕矢は・・・・・夕矢はこの胸に・・・これさえ私にあればっ!」


恨み節を口にしつつ弾力を確かめる。エロチックなその光景に目を輝かせる雪、呆れる穂乃歌。


「あんたも、恨みがましい」

「絶対この胸に負けたんだよ・・・・絶対・・・・くそぉ!夕矢の揉んだ胸を揉んで意識の共有を!」


その瞬間、穂乃歌が茜の背後に回り込んで小さすぎる胸を揉むようにするが、揉み甲斐の無さに少々同情心が芽生えてきてしまった。


「いったいわね!」

「ゴメン・・・・・なんか、ゴメン」

「・・・謝らないでよ、みじめになる」

「本気でへこまないで」


そう言い、穂乃歌が茜を慰める。そんな2人を見つつ雪が香の横に並んだ。


「茜ちゃんって気にしすぎだよね?」

「まぁ、コンプレックスなんでしょうね・・・私もそうだし」

「あら、大きいと彼氏も喜ぶでしょう?」


その言葉に即座に反応した茜が香の真正面に来たために香は両腕で胸をガードした。


「まだそういうの、ないから」

「そうなんだ?夕矢君ってグイグイ来そうな感じなのに、意外」


雪がそう言い、香が苦笑する。見た目で言えば確かにそうだ。


「あいつは意外とヘタレなんだよね」


茜がそう言い、そこでハッとなった。


「もしかして、ずっと私と一緒だったから、ない胸の方が好きなんじゃ?」


ぱぁっと表情を明るくする茜に自分が振られたという現実を受け止められていないのかと勘繰る面々。しかし、茜の頭の中では胸のない女子に恋していた男子がそういう面から別の男子を好きになるというストーリーを頭に描いている状態にあった。早くも第二作目のプロットが頭の中で出来上がっていく。途端におとなしくなった茜を無視し、香は雪に質問を投げた。


「先輩はどうなってるんですか?」

「んー・・・・キス以上エッチ未満だね」

「ろ、露骨にわかりやすい・・・」


穂乃歌の言葉に苦笑しつつ、そう言う面では陽太と夕矢は似ていると思う香はやはり幼馴染だからかと思っていた。価値観が似ている、そう感じたのだ。


「なんかもう、今日は小泉の顔をまともに見られないよ」


呟き、口までお湯に浸かる穂乃歌を見て苦笑するしかない香もまた同じことを思うのだった。

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