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コネクト  作者: 夏みかん
第2話
14/43

理解の深さ、後悔の重さ(6)

お昼はいらないという2人だが、夕矢はお腹が空いている。そこで駅前のファーストフードへ買いに行こうということになり、夕矢が家を空けるということはまずいということで香と愛瑠が買いに出かけた。20分ほどで戻ると部屋でそれを食べる。食べながら話題は夕矢のコレクションの事へと移っていった。


「でも凄いよね・・・数もそうだけど、結構なレア物もあるし」

「まぁ、クジで当てたり、食玩も中を察知できるからな」

「そういう特殊能力っていうか超能力欲しかったなぁ」


愛瑠が感心し、香も頷く。自分にもその能力が欲しいと思うのは誰でも同じなのだ。


「でも思ったよりかは少ないわね」


棚を見渡しながらそう言う香に夕矢は押入れの方へと目をやり、そこで何かを思い出したような顔をする。だが今は食事に集中し、カルフェスの話やフィギュアの話に花を咲かせた。


「ここで徹夜でDVD鑑賞会とかしたい」


愛瑠の言葉に香も頷いた。だがそれは無理な話だ。男子の部屋に女子2人が泊まりこむことなど許可が降りるはずもない。夢は夢でしかないのだ。そんな話をしつつ毎月買っているオタクなグッズの本を見ながら近日中に発売されるグッズについてあれこれ話しているといい時間になってきた。妹や母親が帰る前に家を出ようということになった2人が帰り支度を始める中、夕矢は押入れを開く。2人は扉を開けた夕矢を押しのけるようにしてその前に立った。2つに分かれた押入れの半分には布団や衣装ケースが積まれているが、その隣にはびっしりと箱に入ったグッズが積まれていた。よく見れば同じ物も複数ある。


「これって・・・」

「オークションに出す物やら、まぁ、いろいろ保管してるとこ」


言いながら2つの同じ箱を取り出すとそれを2人に差し出した。


「これって・・・1つ前のユイの一発クジのA賞じゃない!」

「・・・・・10回ぐらいしたのに出なかったヤツが2つも?」

「私も10回以上したけどフィギュアはE賞だけだったし」


まじまじと箱を見つめている2人は愚痴を言いながらも目は箱から離れない。そんな2人を見て微笑み、夕矢は押入れを閉めた。


「やるよ。オークション用に余分に手に入れたんだけど、すっかり忘れててね。昨日思い出して、持ってても仕方ないからあげる」


その言葉に表情を輝かせるが、喜んでその場でくるくる回る愛瑠とは違い、香はどことなく申し訳なさそうな顔をしていた。そんな顔をする香に微笑みながら頷く夕矢を見て、香はお礼を言って箱を抱きしめた。当時でもオークションで相当な値がついていただけに、今ではどれぐらいの価値があるかわからない。帰ってから調べようと思う香に押入れから出しておいた紙袋を2人に手渡す夕矢は一旦クーラーの電源を落とした。


「駅まで送るよ」


そう言い、家を出る。紙袋の中にフィギュアとガイドブックを入れた2人がお邪魔しましたと口にして玄関を出た。


「よぉ」


不意にそう声を掛けられた香と愛瑠がそっちを見れば、自転車から降りたばかりの陽太がそこにいるではないか。焦りまくる香をよそに、愛瑠は澄ました顔のまま陽太に挨拶をする。これがどういう状況か理解できていないらしい。気持ちは夕矢に貰ったフィギュアに注がれているからだろう。


「あ、これは、ね・・・その・・・・」


どういう言い訳が最善か頭が回らない。陽太は自転車を庭先にしまうと玄関の鍵を閉めた夕矢に近づいてきた。


「オタクの集いが終わったのか?」

「ああ、ちょうどな」


陽太の言葉に我に返った愛瑠が焦るが、夕矢の笑みを見て心を落ち着けた。逆に香は陽太が自分のことを知っていた、つまりは夕矢が話をしていたことがショックで固まってしまっている。


「陽太には最悪の場合の保険になってもらうつもりで全部話した。知っての通り、こいつはオタクに対して偏見はないから安心しろ」

「で、でも・・・」


そう言われても不安でしかない。もし誰かに、それこそ茜に話が漏れた場合を考えるとぞっとする。そんな香の表情を見た陽太は小さく微笑むと香の肩に手を置いた。


「誰でもオタクなんだよ。俺はテニスオタクだ。プロの試合は録画してるし、好きな選手のリストバンドとかも集めてる。世の中偏見に満ちているけど、君たちと俺なんかは大差ないんだ」


その言葉に夕矢も頷く。付き合いは短いが陽太がどういう人間かは理解しているつもりだ。香は頷き、陽太を信じることにした。


「でも姫季さんもそうだったなんて、意外というか・・・でも、いい顔してたよ、袋の中を覗いている顔」


そう言われて顔を真っ赤にするが、微笑む夕矢を見て俯いてしまった。


「さ、行こうぜ」

「小泉、信じたからね・・・・じゃ、ばいばい」


香の言葉に頷きながら微笑む陽太が手を振る。


「小泉君、またね」


愛瑠も赤い顔のままそう言って手を振り、陽太が振り返した。3人はそのまま駅へ向かって歩き出す。その後ろ姿を見つつ笑みを消さない陽太はああいう関係も羨ましいと心底思い、家の中に入るのだった。



無事2人を見送って家の前に来た夕矢はちょうど帰ってきたばかりの茜と出会った。2人を送った後で本屋に寄っていた夕矢は3時半に対策会議を切り上げたことに間違いはなかったと思いながら茜に近づいていく。従姉妹はもう家の中に入ったようで、外には茜しかいなかった。


「よぉ」

「珍しいね、こんな時間に・・・どこ行ってたの?」

「駅前の本屋。そっちは?」

「従姉妹と買い物・・・・・水着、とか」


何故かそこでベッドの下を漁っていた香の下着を思い浮かべる。


「あのさ・・・」


茜の言葉に我に返った夕矢がそっちを見つめる。茜にしては珍しくどこかそわそわした感じが見て取れた。


「夏休みにさ、海に行こうって、言ってたじゃん?」

「ああ、そうだったな」

「来週とかは?」

「来週末はカルフェスあるし・・・その次の週ならいつでもいいぜ。平日のがいいんだろうけど、平日は部活あんだろ?」

「んー・・・・確か水曜日はなかったはずだけど・・・・確認して連絡する」

「わかった」


微笑む夕矢に微笑み返し、茜は一歩だけ夕矢に近づいた。


「水着、可愛いの選んだから期待してていいよ」


その言葉に思わず胸に目が行く。今日見た香のビッグボリュームな胸や、ワンピースながら結構な膨らみのあった愛瑠のそれに比べれば貧相にしか見えない。


「どこ見てんの?」


尖がった怒り口調にあわてて視線を逸らし、条件反射からか全身を強張らせた。だがそれは徒労に終わる。いつもなら飛んでくる蹴りも拳もなかったからだ。


「期待しとく」

「気持ちのない言い方ねぇ・・・」


茜は目を細めてそう言うが、雰囲気は優しかった。


「じゃね」

「ああ」


手を振りながら茜は家に入り、それを見送った夕矢も玄関に手をかけた。2人で海へ行こうなどと言い出した茜の心理がわからないが、とにかく楽しもうと思う。


「そういや・・・・2人だけで出かけるのってアレ以来か」


苦笑し、ドアを開いた。鍵を開けることを忘れていたが、開いた扉の向こうにある靴をみれば妹と母親が帰宅していることがわかる。夕矢はドアを閉めると鍵をかけ、そのまま少し険しい表情で階段を上るのだった。

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