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コネクト  作者: 夏みかん
第2話
13/43

理解の深さ、後悔の重さ(5)

最寄りの駅まで迎えに行った夕矢はラフなTシャツにジーンズ姿だ。日曜日の朝10時に駅前で人を待つことなどしたことがないが、意外にごったがえしていると思う。今日は香と愛瑠を家に招いてのカルフェス対策会議の日だ。茜が従姉妹と出かけたのは確認済みであり、リサーチ通り夜まで帰ってこないだろう。香の秘密を守るためだが、かといって何の罪悪感もない。夕矢が日影でぼーっとしているとすぐ近くに人の気配を感じてそっちを向いた。ほぼ時間通りにやって来た2人を見た夕矢は思わず息を飲んでしまう。愛瑠は薄いブルーのワンピースに身を包み、髪もポニーテールで青いリボンをしている。普段のツンツンした愛瑠にはない可愛さがそこにあった。対する香はシンプルな赤いTシャツにデニムのミニスカート姿だ。こちらはTシャツの下から自己アピールの激しい胸が突出している。行き交う男性の目を釘付けにする中、我に返った夕矢は目のやり場にこまりつつ頭を掻いた。


「待たせたかな?」

「いや、時間通りだからそうでもない」


香の言葉にそう言いつつあえて胸を見ないようにした。


「じゃ、行こっか」


可愛い笑顔でそう言う愛瑠も普段とはまるで別人だ。両手に花とはこういうことかと思いつつ歩き出す夕矢はドキドキしている自分がどこか不思議でいる。相手は香と愛瑠だ、そう言い聞かせてもドキドキは収まる様子を見せないでいた。


「茜、大丈夫なの?」

「ああ、出かけるのを確認した。ぬかりなし」

「家には誰かいるの?」

「妹が出かける場所が少し遠いんでね、母さんが付き添う形で一緒に出かけた。んで、親父は飲食業だから休みは平日、だから誰もいないよ」


その言葉に平然としている香の横では愛瑠が顔を赤くしながらどこかモジモジしている。


「か、家族がいない家で、2人きり・・・」

「いや、私がいるけど?」

「きっと、きっと、きっと・・・・今日は記念日になるのね」

「あのさ、私も・・・」

「愛ちゃん、超恥ずかしいぃぃぃぃ!」


両手で顔を覆いつつ体をもじもじさせてそう絶叫する様はもう異様を超えた異常さだ。奇声に気づいた夕矢も唖然とする中、香は大きなため息をついて夕矢のTシャツの袖を引っ張った。


「さっさと行きましょ、今日はずっとこんな調子だろうし」

「・・・・・そうだな」


ため息をつく夕矢が歩き出し、香が愛瑠の手を引っ張る。いつもはツンデレな愛瑠も今日はデレデレの日になるらしい。それも当然のことだとも思う香だが、かといってそれはそれでめんどくさい。夕矢に恋する愛瑠が好きな人の家に行けるというだけでテンションが上がるのも頷けるが、ずっとこのテンションではたまらないからだ。とはいう香も実は少し興奮していた。生粋のオタクである夕矢の部屋の中を見られるとあってそのテンションは表に出していないが高いという自覚もあった。愛瑠が夕矢の妹についての質問を投げ、これに答える形で会話をしていると家の前に到着をする。一応茜の家と陽太の家を見やるが誰も出てくる気配はない。陽太は雪のお見舞いに行くと言っていたし、最悪バレてもどうとでもなる。香のことも話しているだけに味方になってくれるだろう。


「んじゃ、どうぞ」


鍵を開けて中に2人を招き入れる。とりあえず自分の部屋に案内するかと思った夕矢は用意しておいたスリッパを履かせて階段を先導していく。香も愛瑠ももう内心ドキドキだった。男子の部屋に入るなど初めての経験だし、何よりそこは2人にとってお宝が眠る夢の部屋なのだ。夕矢が階段を上りきり、その夢の部屋の扉を開いて2人を招き入れた。


「どうぞ」


緊張の一瞬が過ぎ去っていく。2人はほぼ同時に中に入ると瞳をキラキラと輝かせた。左の壁にくっついて配置されているベッドはいい。右奥にある机の上にはいくつかのフィギュアが置かれ、高校入学時に撮った陽太と茜と一緒に写った写真が立て掛けられている、これもまぁいいだろう。問題は右の壁沿いに置かれているガラスの棚とベッドの足元左にある木でできた棚だ。ガラスの棚には所狭しとフィギュアや食玩などが並べられており、見た限りかなりのレア物やプレミア物までが飾ってあるのだ。奇声を発する2人を考慮して窓を開けずにクーラーを稼動させていた自分を褒めてやりたいと思う。とりあえずあまりいじくるなよといい残してキッチンへと向かった夕矢をよそに、香と愛瑠の目の輝きはさらにまぶしさを増していた。一発クジのA賞などがずらりと並んだ様は圧巻だ。深夜アニメからロボアニメ、ゲームのキャラや特撮ヒーローまで幅広いジャンルのそれらが輝いて見える。わいわい言いつつ木の棚に移動すれば、棚の上には特撮ヒーローの変身アイテムが箱のまま積まれているのが目に入る。木の扉にはめ込まれたガラスから中を見れば、そこには食玩やガチャガチャ、それに一発クジで当てたコップなどが並び、下の方には漫画やCDがきちんと並べられていた。触りたくてうずうずする香が棚の中に集中していると、愛瑠は夕矢のベッドの上に寝転がっていた。そのまま枕に顔を埋め、匂いをかぐ始末だ。恍惚の表情を浮かべる愛瑠に気づいた香は今の今まであったハイテンションが急速にしぼんでいくのを感じながら大きなため息をついてみせる。


「よだれ垂らさない!」


昇天しきっている愛瑠にそう注意すれば、ハッとして枕を抱いたままベッドに座る。表情はないがじっと自分の涎が染み付いた箇所を見つめているのが不気味だ。


「こ、こ、こ、ここに夕くんが口をつければ・・・・か、か、間接キス?キ、キ、キ、キスなのね!愛ちゃん、超恥ずかしいぃぃぃ」

「見てるこっちが恥ずかしいっての」


ため息と共にそう言う香はベッドから離れるよう促すが愛瑠は枕を抱いたまま動かない。好きな人の枕によだらを垂らすほど昇天する変態に引き気味になるが、香はふとあることに気づいて体を伏せるようにしてみせた。それに気づいた愛瑠は枕を抱きしめたままベッドの下を覗き込んでいる香を見て何かが閃いた顔をしてみせる。香はベッドの下に手を入れたりしてごそごそし、愛瑠はその様子を黙って見つめていた。枕は離さず。


「なにやってんの?」


少し赤い顔をした夕矢の言葉に、その夕矢にお尻を向けていた香も枕を抱えた愛瑠も体をビクつかさせる。ベッドの下を漁っていた香のミニスカートから見える薄いブルーの下着は夕矢の目に焼きついて離れなかった。香はゆっくりと身を起こして床に座り込むとニヘヘと笑う。そんな香に目を細めつつ、内心で下着を見せてくれた礼を言った夕矢はトレイに乗せたコップとペットボトルのジュース、それにお菓子の袋を机の上に置いた。


「で、何してんの、あんたらは?」


腕組みして香と愛瑠を交互に見やる。香はポリポリと頬を掻くようにしていたが、睨む夕矢に負けてその場に正座をした。


「男の子ってベッドの下にエッチな本とか隠すから・・・」

「そんなベタなとこには無い!ってかそこはスルーしろ!」


香はぺこりと頭を下げるしかない。夕矢は次にベッドの上にペタリと座り込みながら何故か自分の枕を抱いている愛瑠へと目を向けた。目が合った瞬間にビクッとなった愛瑠だが、枕を離す気はないらしい。


「で、オメーは?」

「べ、別に枕に夕くんの匂いがついてるからってそれを嗅いだり、添い寝をイメージして寝転んだりしてないからね!」

「・・・・・・・・・もう言葉もないわ」


変態を認める発言をした愛瑠にげんなりしつつ、夕矢はフローリングの上にトレイを置いてコップにジュースを注ぐ。お菓子の袋を開けてから机の引き出しを開けると、そこからカルフェスのガイドブックを取り出した。


「1500円な」


その言葉を聞いた2人が財布からお金を出して夕矢に渡し、ガイドをペラペラとめくっていく。いろんな企業や個人のブースがあり、2人の目はさっき同様輝いていた。とりあえずどこのブースに行くかを話し合い、そしてルートを決める。そうしていると香が奇声を発した。何事かと思う夕矢と愛瑠が見つめる中、震える手でガイドブックのとあるページを開いてそれを前に差し出す。


「こ、こ、こ、ここ!一発クジ限定モデル!魔法少女ユイ一発クジのA賞B賞がカルフェスオリジナル塗装で登場!」


指を差すところを見れば確かにそう書いてある。愛瑠もまた目を輝かせて同じページを開くとまじまじと見つめていく。よだれが光っているのは気のせいだろう。


「欲しい・・・・A賞B賞欲しい!」

「だよね!だよね!」

「ってかこういう場所では回数制限あるぞ」

「ならA賞だけでいい」


香の言葉に頷く愛瑠を見てため息をつく。時間は当日発表とのことで詳細は現地に行かないとわからないようだ。とにかくそのクジをメインにしつつ動くことが決定した。朝は5時半の電車で会場へと向かうことにして待ち合わせ場所も決めた。親の了解は取ってあるとのことで問題はないだろう。カルフェス自体は午後5時で終わるがおそらく3時過ぎには全て見終わるはずだとした夕矢は最悪でも4時に撤収で晩御飯を食べて帰ることを決める。常連である夕矢に全てを任せた2人はただ頷くだけに徹するのだった。

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