表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、国王になりました!  結婚編  作者: 松岡 黒希
2/2

結婚宣言

お嬢様は変わっていると俺は思う。


お嬢様は他の世界から来た異人だ。

いや、”異人”と言うべきではなく、”ニホンジン”とういべきだったか。


ともかく、それは決して悪い意味ではなく。


そう、あのときもそうだった、、、。


その日の十二会議が終わった後、お嬢様はいつも以上に不機嫌だった。


城の長い廊下を、白の軍服にブーツをカツカツと鳴らしながら俺の前を歩く。


その姿を見て、悲しくなる。


あれだけ毎回、ドレスを着て欲しいと言ってもこのお方は聞いてくれないのだ。


キラリと透明の魔石のイヤリングが光を跳ね返し光る。

魔力の違いによって色を変えるそれはお嬢様の強い魔力を受け澄んだ透明になっている。


「スヴェンの兄さん、今日もまた言ってた。」


振り向かずにお嬢様は怒り口調で言う。


スヴェンの兄さん、というのは彼女の直属の臣下のスヴェン・フォン・バイルシュミットの兄に当たるダレン・フォン・バイルシュミット卿のことだ。


「納税の件ですか?」


「いや、それじゃなくて、、、、結婚のこと!」


「あぁ、確かに言っていましたね。」


「最近、会議のたびに言ってくるじゃん。結婚しろって。うるさいよ!お前は私の親か!?って思う。」


結婚で口を出してくるのは向こうの世界でも一緒なんだな、と俺は自分の親を思い出した。


「お嬢様のその気持ちがわからない訳でもないですが、王が結婚するというのは義務でもありますから。」


「え、義務。」


「はい。」


「うわ、そう言えば、ディオがそんな事を言っていたような、なかったような、、、」


そう言うとお嬢様は考える様に顎に手を置いた。

もう一度詳しく教えるようにクラウディオに言っておくか。


「お嬢様、何人とでも結婚できますので、とりあえず、誰かと結婚してみるというのはいかがでしょうか。」


「えー、誰かって、、、。でも、そんな軽い感じで結婚はしたくないなぁ。あ、ってかさ、私がその義務を廃止すればいいだけじゃん。いや、廃止するとなれば、十二貴族の承諾が必要か。」


「そうですね。」


「まぁ、結婚するにしろ相手がいないんじゃどうにもならないけどね。」


そう言い、ははは、と乾いた笑いをする。


「では、いつもお嬢様に婚約を申し込んでくるデリックという男は、、、」


「うわ、言うと思った。なし。」


即答。


「では、エリアスは?」


エリアスは十二貴族の一人、ヴェーラー卿のご子息だ。

お嬢様の直属の臣下の一人でもある。

クセっ毛の金髪と澄んだ緑目の美少年で、その容姿で何人の女性を骨抜きにしたことやら。

若くして第一部隊の隊長を務める実力者でもあり、多くの兵からの支持もある。

尤も、俺やスヴェンからしてみればまだまだ子供だが。


「うーん、なし。」


エリアスはお嬢様にベタ惚れしているが、お嬢様はエリアスの求婚を断った事がある。

断ったことによりエリアスが一層熱を上げているのはお嬢様には内緒だ。


「ギルベルト様はどうでしょうか」


「おー、いいね。容姿端麗で、しっかりしてて、かっこいいけど、でも、、、、エリアスもそうだけど、私にはもったいないよ。」


ギルベルト様は貴族出身で、まだ若いというのに、家を継いでらっしゃる。

性格も言う事なしの美青年だ。


それで駄目というなら、他には誰がいるだろうか。


考えている間に執務室に辿り着く。


「はー、この中で、スヴェンがたくさんの資料と待ち構えていると思うと気が重いよねぇ。」


お嬢様は戸に手を掛けたまま動かない。


「お嬢様、わたくしでは駄目ですか?」


「ん?」


なぜこのタイミングで言ってしまったのか自分でもわからない。


「いえ、すみません、何でもありません。」


「あー、さっきの話?」


「いえ、その」


思った通りお嬢様は一瞬驚いた顔をすると、気まずそうに少しうつむいてしまった。


「・・・ナイトはどう思ってるの?」


「お嬢様がよろしければ、その覚悟はあります。」


「でも、、・・・・・ない。」


「はい?」


「おもしろくない。却下。」


ガーン、、、


お嬢様が俺をそういう対象としてみていないのは知っていたけど、いざ振られるとショックだ。


お嬢様は何かまだ言いかけようとしていたが、その時扉が内側から開かれる。


「おい、いつまでそこにいるつもりだ?」


「うわ、でた。」


「スヴェン、、、様」


スヴェン・フォン・バイルシュミット。

貴族を纏める、王位にも並ぶと言われるバイルシュミット家の地位を持つ彼は、お嬢様の直属の部下の1人である。


「ここでは、「様」はいらん。ナイト。」


スヴェンがこう言うのは、俺たちは幼少期より一緒に育てられてきた仲だからだ。


それは、王を守るため、国を守るため、我々の家系が代々続けている事だ。


スヴェンは、第6部隊長であるが、城からあまり出ることのない彼はクラウディオと共に主に執務を手伝っている。


というより、ほぼスヴェンが一人で執務をしていると言っても過言ではない。


「スヴェンー、眉間に皺、寄ってる。それと同じ顔をさっき見たよ。」


「それは兄上の方だろ。いいからとっとと仕事をしろ。」


「うわ、兄弟揃って口うるさーい。」


「お前がしっかりしないからだ。」


「してるよ!そうだ、スヴェン、ダレンをぎゃふんと言わせるような何か弱みとか弱みとかないの?」


「そんなものはない!」


「えー、例えば、好きな人がいるとかさぁ、そんなの聞いたことないの?」


「ないな。第一、兄上に言い寄る女は居ても、兄上は決して心を許さないからな。」


「えー、なにそれ。ホモなの?他に何かダレンを黙らせるいい手は、、、、あ、思いついたかも。」


「何がだ。」


「いやいや、何もないよ、ひ、ひひひ」


ひひひ、、、と不気味な笑うお嬢様を見てスヴェンは引いている。


そして、俺は嫌な予感がした。

その予感は一週間後に的中することとなる。


「では、これでそろそろ切り上げたいと思いますが、何か意見のある人はいますかな?」


朝に行われる週一回の十二会議。


進行役のアレニウス卿がいつものように会議を締めくくろうとしていた。


お嬢様が何か話したそうに俺を見る。


俺は一歩前へ進んで屈んだ。


「どうされましたか?」


お嬢様へささやく。


「今日は優勢に終われそう。」


そういう事は終わってから言ってほしいものだが、どうしても今言いたかったのだろう。

お嬢様らしい。


「そうですね。しかし、ダレン様がこれで終わらせてくれるでしょうか?」


「いや、絶対無理。でも、それもひっくるめて優勢に終わらせる。」


「それはどういう、、」


「ちょっといいかね?」


ダレン様が咳払いをし、皆がそちらを向く。


「きたきた。」


お嬢様は嬉しそうににやりとした。


その意図がわからないまま、俺はお嬢様の後ろの定位置へ戻る。


「女王陛下よ、結婚の件は進んだのかね?聞くところによると、貴族たちの婚約を相も変わらず破棄しているようだが、、、」


はっきり言ってバイルシュミット卿がその発言をするまで俺は先週の事は頭から抜けていた。


「ん、そうですねぇ。その件について考えたんですけど、、、」



お嬢様の不気味な笑い声が脳裏をよぎる。



止めた方がいいのか?


しかし、それは間に合わず、俺が結論を出す前にお嬢様は答えていた。


「バイルシュミット卿、あなたが私と結婚してよ。」


・・・・・・・


いつもの俺ならこうだ。


やれやれお嬢様がまたとんでもないことを言い出した。


しかたないお方ですね。


私もそれに従いましょう。


しかし、今回ばかりは俺も動揺せざるを得なかった。


「お、おお、お嬢様。」


俺はそれ以上言葉がでてこなかった。


ここからお嬢様の顔は見えないがきっとニヒルな笑みを浮かべているに違いない。


貴族たちはざわついている。


ここに集まる十二貴族はバイルシュミット卿とお嬢様が犬猿の仲だということを誰よりも知っている。


「まあ、それ本気なの?」


それを知っていながら、アルベルタ様は手を合わせて 素敵~、でもエリアスと結婚してほしかったわぁ~ といつもの呑気な口調でにこりと笑った。


その横で、ひそかにお嬢様に想いを寄せていた、エドゥアルド・バストリーニ卿は、口をポカーンと開けたまま あ、 とか う、 とか呟いている。


その他は、疑いの眼差しだ。俺に向けて。


言っとくが、俺の入れ知恵じゃないぞ!!


バイルシュミット卿は真顔だ。笑っていいのやら、怒ったらいいのやらわからないといったところだ。


「お、お嬢様、これはどういうことですか!?」


俺はお嬢様へささやく。


「どうもこうも、そういうこと。」


「この場をどうするおつもりですか?収集つかないですよ。」


「どうするたってバイルシュミット卿の返事を待ってるんだよ」


そういうお嬢様はやはり意地悪な笑みを浮かべている。


「返事って無理に決まっているでしょ!?」


「そんなのわかんないじゃん。だから返事を待ってる。」


「あー、あなたと結婚したいと陛下は申していますが、バイルシュミット卿、どうされるのかね?」


さすがアレニウス卿。進行役の鏡だ。


資料が握りつぶされて犠牲になってはいるが、この中では一番冷静かもしれない。


ダレン様は名前を呼ばれてはっと我に返ったようだ。

低い声でゆっくりと答える。


「返事は次の十二会議、もしくはそれまでに個人的にお返ししたいと思う。少し、時間をいただきたい。」


そう言うダレン様はお嬢様と顔を合せず、斜め下を見ていた。


「と、バイルシュミット卿は言っていますがそれでいいかですか?陛下。」


「いいですよ、それで。じゃ、今日はこれで解散ですね。」


そうお嬢様が答えるとアレニウス卿は頷く。


・・・・・・


会議室から出るとお嬢様は速足で歩く。


「お嬢様、どちらへ行かれるのですか?」


お嬢様は下を向き何も言わずにカツカツと歩く。


「お嬢様」


もしかして、今頃自分がとんでもない事をしてしまったと感じ始めたのだろうか。


執務室のある長い廊下まで来るとお嬢様はようやく立ち止まった。


「お嬢さま、、、、」


なぐさめられるとしたら、俺しかいない。


その肩にそっと手を置こうとしたときだった。



「くっくっく、、、、はっはっはっはっはー」


大声で笑いだした。


近くを通る兵もビクリと肩を震わせるほどの笑い声だ。


「ちょっ、お嬢様、、、」


「ナイトー!見た?ダレンのあの顔。くくくくくく、うけるー」


うわぁ、、、、


駄目だ。

俺には制御しきれない。しかし、


「お嬢様、本気なのですか?」


「ははは、どうかな?取りあえず、みんなには内緒ね。」


やっと笑いが止まったお嬢様はご満悦のようだ。


俺の額からは冷や汗が噴き出る。

不安が止まらない。


「馬鹿な笑い声を出している奴がいると思えば、お前か。」

「楽しそうですね。」


「スヴェン、クラウディオ、、、」


「ひー、スヴェン、やめてよ、このタイミング。あははははははは」


どうやらスヴェンを見て、またダレンの事を思い出したみたいだ。


「なんだ、こいつは」


「スヴェン、あなた、何かしたのですか?」


「は?知らん。ナイト、こいつ連れて行っていいのか?」


「どうぞ。お願い致します。」


「おら、行くぞ。」


スヴェンはそう言うとお嬢様を肩に担いで執務室へと歩いて行く。


さすが、いいガタイをしているだけある。



いや、そこはお姫様だっこじゃない!?

なんだ、それは。



とお嬢様とスヴェンが言い争っているのが聞こえる。


「今日は私も執務を手伝いますが、あなたはどうしますか?」


クラウディオが聞いてくる。


「クラウディオ、実はあんたのところに行こうとしていたところだ。すまないが、時間をくれないか?」


「あら、そうだったのですか。わかりました。執務は後回しにしましょう。」


・・・・・・・



「なるほど、そういうことがあったのですね。」


俺はお嬢様のことについて相談していた。


クラウディオはお嬢様の教育係であり、お嬢様の事を一番知っていると思ったからだ。


「あぁ、今までの感じからすると、今回もお嬢様はお嬢様なりに考えて行動したことだと思うんだが、意図が俺にはわからない。ダレン様は十二貴族の一員で長で、そりゃ、貴族や他の人から見れば地位は魅力的だ。どんな婦女子だって結婚を申し込みたがるのはわかる。」


「そうですね。バイルシュミット家は昔から王に最も近い地位を、しかも安定した地位を持っていますからね。」


「しかし、お嬢様は王だ。すでに地位を得ている。」


「ナイト様、マコト様は、はなっから地位など気にしていないと思いますよ。そうでしょ?」


「ま、まぁ言われてみれば」


お嬢様は確かに地位など気にしていない。俺がお嬢様の側にいる。

それが一番の証拠だ。


「しかし、地位が関係ないのだとすれば、なぜわざわざ仲の悪いダレン様に結婚を申し込んだのかわからない。ダレン様が悪いという訳ではないのだが、、、誰でもいいのであれば貴族たちから結婚の申し込みはたくさん来ているからそこから選別すればいいのに、と」


尤も、お嬢様が興味を持った方などいないが。


「ダレン様がもし、マコト様と結婚をしたとします。ダレン様がお嬢様に協力するとすれば、マコト様にどんなメリットがあるでしょうか?」


「まさか、ダレン様が結婚を受け入れると?」


「もし、の話ですよ。」


ダレン様とお嬢様は仲は悪いが国の事を思っているのは2人とも同じだ。


ダレン様はこれまでも国の為、国民の為、といろいろ陰で動いて来た方だ。


「もし、二人が協力すればこの国は、確実にいい方向に向かう、、、。」


「そうですね。ちなみに、ダレン様は貴族の代表でもありますが、貴族を纏めるというのは決して簡単ではありません。国民の為、と納税を緩める者もいれば、民の負担がいかほどともしらず、限度を超えた納税義務を荷する者もいます。特に後者はマコト様が前から気にしている事ですし、ダレン様も頭をかかえていることです。しかし、こういう違反をする者には何度言っても言うことを聞かないものです。相手は貴族ですから、罰を与えるのも難しい。しかし、王族が言及したとなれば話は別です。事は一気に解決に向かいますね。」


納税の件は確かに、お嬢様が一番気にしているところではある。

その鍵は、ダレン様が握っているのだが、現状はすぐに解決することはできないと会議で何度も断れ続けられていたことだ。


ダレン様も裏では、動いてくれていたということか。


「まぁ、私もマコト様とダレン様の仲の悪さは聞いたことがありますが、そこは国を良くしていくという面ではマコト様には関係ない、という事なんでしょうね。何事もやってみなければわからないというのは、マコト様の性なんでしょう。」


何事もやってみなければわからない、それは俺もお嬢様の傍にいてつくづく感じたことだ。


「まぁ、あくまで、マコト様とダレン様の間に恋愛感情はなく、政治的な結婚ということで話をすると、ですけれどね。」


「恋愛感情は、、、ない、と思う。」


「そうでしょうか?喧嘩するほど仲がいいといいますし、意外と、、、」


「いや、それはない。」


それは残念です、とクラウディオはつぶやく。


「クラウディオ、時間とらせてすまなかった。」


「えぇ、大丈夫です。また、いつでも相談しに来てください。では、私は執務室へ向かいますね。ちなみに、この件、スヴェン様は、、、」


「まだ知らない。」


「わかりました。マコト様が自分から言うまで黙っておきましょう。」


「あぁ、そうしてくれ。俺は遠征の会議があるから、お嬢様のお迎えにはエリックを行かせる。」


遠征の会議が終わり自分の部屋にいると、扉がノックされた。


念のため、すばやく剣を手に取る。


「どうぞ」


「ナイト、俺だ。開けるぞ。」


「スヴェン。」


「マコトはどこにいる。あいつを直接探すよりお前に聞いた方が早いと思ってな。」


その声音を聞いて俺はダレン様の件を聞いたのだと察した。


「この時間なら、エリアスと中庭に居ると思う。」


「よし、お前もついてこい」


お嬢様は毎日、剣の稽古をエリアスにつけてもらっている。


それが終わったらお茶、といった感じだ。


中庭に近づくにつれ、剣と剣のぶつかる音が大きくなる。


「相変わらず、エリアスと互角の様だな。」


スヴェンが呟く。


2人が剣を交える傍らのテーブルではお茶の用意をしておるメイドと、エリック、エリアスの側近のレンが控えている。


こちらに気づいたエリックが駆け寄って来る。


「お疲れさまです、スヴェン様、ナイト様。陛下をお呼びいたしましょうか?」


「いや、そのままでいい。レンを呼んできてくれ、ついでにそこのメイドもだ。お前たちに頼みたいことがある。」


・・・・・・・・・


「お嬢様!エリアス!」


俺がそう呼ぶと二人とも手を止める。


「あれ、どうしたの。スヴェン、ナイト、ふたりで。一緒にお茶する?」


できるならそうしたいところだ。


お嬢様は剣を片手にこっちへ来る。


だいぶ近づいてきたところで、スヴェンが口を開いた。


「マコト、兄上に結婚を申し込んだんだって?」


お嬢様は思いだしたように、 あっ と声を発し、 マズイ という顔をした。


エリアスはメイドと話ながら不思議そうにこっちを見ている。


どうやらこちらの声までは聞こえていないようだ。


「いやぁ、どうだったかな。」


お嬢様は目を泳がせていたかと思うといきなり踵を返し走り出した。


中庭を駆け抜けようとした足に草むらの影からツルが伸びてきて巻き付く。


「こ、この魔法、、、レン、あんたもグル!?そっちが魔法使うなら、、、」


お嬢様は足に巻き付いたツルを剣で薙ぎ払うと風の魔法で空中に浮き2階の欄干へ着地しようとする。


「エリック!!」


「はい!陛下、すみません!」


着地しようとした欄干の影からエリックが現れ、お嬢様に触れる。


「え、ちょっと、今それやったら、、、」


エリック自身は魔法を使うことはできないが、魔法を消すことのできる体質を持っている。それは術者に触れることによってしばらくの間発動するものだ。

つまり、


「いやああああ」


「ナイスキャッチ、、、大丈夫かい?」


落ちて来たお嬢様をキャッチしたのはエリアスだ。


そのままレンが再び魔法を発動して真の手と足をツルで縛る。


「エリアスまで、グルだったなんて!」


「グル、というか、僕はさっきメイドから話を聞いて、、、」


「はっ、ハル、あんた!」


「ご、ごめんなさい、マコト様。」


メイドが深くお辞儀をしてお嬢様に謝る。


「呑気におしゃべりしている余裕があるのか?」


「うわ、スヴェン、、、」


スヴェンの眉間にはいつもの倍以上皺が現れている。


「マコト、じっくり話を聞かせてもらおうか、、、」


「ひぃ」


お嬢様はお叱りモードのスヴェンを見て大人しくなった・・・・のは一瞬だった。


「そう、これだよ、これ。これがお姫様だっこっていうの!あー、でも縄はほどいて欲しいんだけど。ねー、スヴェン、聞いてる?」


「だまれ」


「マコト、暴れないで。」


お嬢様を抱えているエリアスが困った顔をする。


「扱いひどくない?ねぇ、ひどいよね。鬼畜だよね。もうドSだよね。」


「だまれ。口まで塞いで欲しいのか?」


「ただでさえ魔力を無効化してるのにさ、手足まで縛る必要ある?しかも、私はか弱い女の子なんだよ!?あー、そうだ、もし、口を塞ぐならあなたのくち、、、、、もごご」


スヴェンはエリアスが首からかけていたタオルを手に取ると素早くお嬢様の口の中に入れた。


「んー、ほんほうに、ほれは ひほい、、、、」


本当にこれはひどい。


これが王の扱いだとは、、、。


「エリック、レン、外で見張っていろ。」


スヴェンは部屋まで来ると、扉を閉めた。


「そこに座らせてくれ。」


お嬢様は手足を縛られた状態のままでエリアスによって椅子に座らされる。


俺は定位置であるお嬢様の後ろに。


エリアスはお嬢様の横に、机を挟み目の前にスヴェンが座る。


これは取ってあげよう、と言ってエリアスが口のタオルを取る。


「す、すばらしい羞恥プレイでした。」


さすがにこれは勘弁。とお嬢様呟いた。


他の兵が、運ばれるお嬢様を不思議そうに見ていたからそれが堪えたらしい。


「ほんと、ドSだよね、スーちゃんは。」


「なんだ、拷問部屋の方がよかったか?」


「いえ、何でもないです。」


「はぁ、お前が王になってから災難続きだ。で、今回はどういうことか説明しろ。」


「どういうことも、何も、そのままなんですけどね。」


「何をやらかしたんだい?マコト」


状況を把握できていない、エリアスが聞く。


「やらかした、というか、何と言うか」


「こいつ、兄上に結婚を申し込んだ。」


そう言うとスヴェンは はぁ、とため息をついた。


「それってバイルシュミット卿に?マコト、」


「そう。ダレン・フォン・バイルシュミットに。」


「、、、、、。え、ウソでしょう?なんの冗談だい?」


そういうエリアスは俺の方を見た。

残念ながら、


「事実です。」


「マコト、何を考えている!」


そう叫ぶとエリアスは正面からお嬢様の肩をガシリと持った。


「ふぇっ!?」


お嬢様はびっくりして目を見開く。


エリアスがこんなに大きな声を出すのは戦場以外でみたことがない。


「本当にバイルシュミット卿に結婚を申し込んだのかい?」


「うん、」


「いつ?」


「今朝の十二会議」


「十二会議で!?他の貴族の前で?」


「そういうこと。」


「ナイト、何で止めなかった!」


エリアスは俺の方へつかつか来ると襟首をつかんだ。


やっぱりそうなりますよねぇ。


「エリアス!ナイトは悪くない!私が、悪いから!独断で行動したの!だから、、、スヴェンも怒ってる。」


「君は、こんな大事なことを独断で決めたのか?僕たちに相談もなしで唐突にそういう事をするなんて、、、」


すまない、とエリアスは俺から手を離すとため息をついた。


「君らしいって言うか、何て言うか、、、」


「マコト。まるで、こうなる事を予想できたような口ぶりではないか。わかっているならなぜ我々に相談しなかった。」


「いつもの悪い癖だね。マコト。僕たちの事、まだ信じきれていないのかい?」


そう言うエリアスは悲しそうだ。


「そういうわけじゃないけど、、、。ナイトもスヴェンもエリアスの事も、信じてる。でも、事前に相談していたら、私が何を言おうと、絶対ダメって言ってたでしょ?」


「当たり前だ。」


スヴェンが即答する。


「でしょ。だから、こういう手段を取りました。」


「だから、それがお前のいけないところだと言っているんだ。」


「説教しないでよ。私だって一応考えてやってるんだから。」


「一応、とは何だ。お前は国王だ。もう少し行動に責任を持て。」


「持ってる。そういうスヴェンは頭が 固すぎるんです!なんでもっと柔軟な思考を持たないわけ?」


「お前の行動が軽率すぎると言っているのだ。」


「これでも自重してるんです!そんなこと言うんだったらもう我慢しない!私は私のしたいように行動する!」


「お前はガキか。」


「えぇ、ガキですとも。私は異人だからあなたたちより300歳くらいは年下ですから!」


二人の間に挟まれ、エリアスは目を白黒させている。


これ以上は無駄に長い言い争いになりそうだ。


再び口を開こうとしたスヴェンに目配せをする。


「スヴェン、そこまでにして下さい。」


口論を止められたスヴェンはむっとした表情になる。


ここは、お前が大人になって許してやってくれ、スヴェン。


それが伝わったのかスヴェンは大きなため息をついた。


問題はこっちだ。



「お嬢様。」


「・・・。」


「お嬢様、戴冠式を覚えていらっしゃいますか?我々はお嬢様と運命を共にすると誓った仲です。今回の件は、今までと違い、我々にとっても非常に重要な出来事なのです。」


「そういうことだ。我々の今後にも関わることを独断で決められては困る。」


スヴェン、そうきつい言い方をしないでほしい。


「お嬢様が結婚を申し込んだ相手が受け入れるかどうかはともかく、事前に我々に相談していただきたかったです。」


その言葉にエリアスも頷く。


「ましてや、ダレン様はこの国の全貴族を纏めるお方。もし、本当に結婚されるのであれば、いろいろと手順がありますし、こちらも準備をしなければなりません。」


「そっか。ごめん。まぁ、そうだよね。本当にごめん。」


お嬢様の気持ちの切り替えは相変わらず早いものだと感心する。


「マコト、、、」


エリアスはお嬢様の頭をなでる。


「今更後には引けないぞ。もちろん、こんな行動に出たということは、私達が納得のいくような理由があるんだろうな。」


そこからお嬢様が話したことはだいたい予想通りの事だった。


「今まで、十二会議の時に何回もバイルシュミット卿とは話合いの機会を設けたけど、相手にされなかったのは知っているでしょ?


でも話合えば、きっと分かり合えると思う。それはバイルシュミット卿も気づいてる。私も、バイルシュミット卿も国の為、国民の為、できるだけ動いているのは一緒だし。


けれど、バイルシュミット卿は十二貴族の長であって、その後ろにはもっとたくさんの貴族がいて、その行動を見張っている。

いくら地位を約束されたバイルシュミット家だからって行動を一つでも間違えれば、ただじゃすまないだろうし、そう軽い気持ちだけじゃ、動けないのはわかってる。


私に結婚しろ、と言ってくるのも、後ろの貴族たちがうるさいから言ってるだけだと私は思ってる。


今のバイルシュミット卿はダレン・フォン・バイルシュミットとして動いているんじゃなくて、貴族代表のバイルシュミット卿としてしか動けない。でも、私と結婚すれば、そんなしがらみから解放される。もっと自由に国の為、国民の為、動ける。」


「まぁ、そうすれば、兄上は確かに自由になれるが、、、それは、私にバイルシュミット家を継げ、ということか?」


「そういう事。」


よくわかったね、 というお嬢様にスヴェンは 


ひどい話だ、 とため息をつく。


「しかし、それではお前は兄上の為に結婚してやるって感じだがな。」


「そういうこと。私は別に結婚にメリットなんて求めてない。でも、しいて言うなら、十二貴族の代表がスヴェンになれば、私はコミュニケーションがとりやすいし、もし、私が王位戦で負けてしまって失脚したとしても、次の王は簡単に私とダレンを殺せない。


バイルシュミット家の者を殺すには十二貴族の許可が必要だったでしょ?でも十二貴族の長はスヴェン。だから、スヴェンが粘ってくれてる間は私たちは生きていられるってこと。」


「そこまで考えていたとはな。ほとんど考えなしかと思ったがそうでもないのか」


「まあね。」


お嬢様はにやりとする。


「しかし、結婚したとなれば、少なからずコミュニケーションをとる必要がある。

兄上がそうするとは思いたくもないが、政権を悪い方向に乗っ取られる可能性も十分ある訳だ。そうならないようにお互いを分かり合えるとお前は思っているのか?」


「思っている。私があなたたちと分かり合えたように。」


「兄上は私たちと違って難しいと思うがな。」


「僕もうまくいくとは思えない。ちなみにバイルシュミット卿は何て言ってたんだい?」


「返事は次の会議かそれまでに個人的に、って言ってた。」


「そうなんだ。スー兄様はどう思いますか?バイルシュミット卿はマコトの結婚を受けるでしょうか。」


エリアスの質問にスヴェンは目を閉じる。


「正直、私にはわからん。即答で断らなかったことが予想外だからな。」


「そうですよね。マコトは断られたらどうするつもりだったの?」


「それもちゃんと考えてたよ。でも、これはもしダレンが断ったときに教える。」


「お前なぁ、」


そう言いかけたスヴェンは はぁ と大きなため息をつき、こいつには何回言っても無駄か。 と呟いた。


「マコト、折り入って聞いてほしいことがあるんだけど。」


そう言うとエリアスは火の魔法で、お嬢様を縛っていたツルを燃やした。


灰が椅子の周りにゆっくりと落ちていく。


エリアスはお嬢様の前に膝をつくと、手を取った。


デジャヴだ。この光景は見たことがある。


スヴェンも動揺したのか、椅子ごと身を引いた。



「マコト、もし、バイルシュミット卿に断られたら、いや、断られなくとも、僕と結婚してください。」


・・・・・


部屋の外


エリック 「すっごく怒ってたな、スヴェン様。」


レン 「はい。あれは相当やばいですね。」


エリック「ま、兵士に怒るならともかく、陛下にあそこまで怒るなんて」


レン「今回は何をしたんですかね。」


エリック「さあね。ナイト様も困った顔をしてらっしゃったし、相当やばい事なんじゃないかな。」


レン「でも、こういうのって少し楽しいです。」


エリック「同感。マコト様が王になって楽しいことが増えた。スヴェン様は相当苦労されてるようだけど、ありゃ絶対内心楽しんでるぜ。何やかんや言って、陛下のこと好きだしな。」


レン「ですね。」






・・・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ