私と瀬尾くんがあの2人をくっつけるために色々頑張った話
がっつり青春小説を書きました。
私の名前は、井上 梨沙。どこにでもいるような、都内の高校に通う高校2年生である。ブスではないので、彼氏もいたし普通に高校生活を充実していると思う。勉強は平均点ぐらいの成績で、部活には入ってない。
そして私にはとても気の合う友達がいる。名前は、相田 美琴。高校からの友達だが、同じクラスで趣味や話が合い入学早々意気投合した。美琴は特別美女というわけではないが、どちらかといえば可愛らしい容姿をしている。明るい性格で誰にでも優しく気がきくので、意外と男子から人気がある。本人は気づいてないが。
そんな美琴が、今日なんだかおかしい。急にバイトを始めると言い出したと思ったら、バイト初日の次の日である今日、なんだか機嫌が悪い状態で学校に来た。私は不思議に思い美琴に理由を尋ねると、バイト先に気が合わない人がいたらしい。しかもその人が同じ学校だと知りさらにブルーになったという。
なんじゃそりゃ
というか珍しい。美琴は性格が性格なので基本的に誰とでも仲良くなる。マイペースで変なとこで意地なところはあるが、それでも他人を嫌うということは滅多にない。
美琴の様子を見る限り、相当相手を嫌っている感じだ。どんだけ気が合わなかったんだ。相手がどんな人なのか気になるなー
移動教室で美琴と一緒に移動していると、美琴が急に苦虫を噛み潰したような顔になった。
「うわ、あいつがいる」
あいつって誰?と私が尋ねると美琴は、朝話したバイト先の人と答えた。
気になった私は、美琴が睨みつけている方向を見ると、そこには前方から歩いてくる2人の男子生徒がいた。そしてそのうちの1人は美琴をちらっと見て目をそらした。それを見た美琴はどんどん顔が怖くなり、あいつめ…など低い声を出している。
「…ねえねえ、美琴。朝話してた人って神崎 颯斗くんのことじゃないよね…?」
2人とすれ違ったあと、私は恐る恐る美琴に尋ねた。
「うん?あ、そういえばそういう名前だったかも」
美琴がさらっと言ったことに、私は顔がひきつるのを感じた。
「美琴、神崎 颯斗くんってあの女子から密かに王子って言われてる神崎 颯斗くんだよ?!」
「えっ、そんな風に言われてたの?知らなかったー」
おいおい、美琴。マイペースにもほどがあるよ。
神崎 颯斗くんとは、私達と同じ学年で特進クラスの1組の男子である。私達の学校には私達がいる普通科以外に特進クラスというものがあり、1組から3組がそのクラスに該当する。特進クラスは有名国立大学への進学者を多く出しており、特に1組は特進科の中での成績が40位以内の生徒で構成されるクラスである。神崎颯斗くんはそのクラスで毎回テストの順位が1位の秀才である。
それに加えてモデルのようなスタイルにサラサラの黒髪、鼻筋は通っていて、透き通った瞳。そのイケメンさから学校の女子からは王子と呼ばれている。
そんな神崎颯斗くんを、あいつと言い、しかも嫌っているなんて全校の女子から反感を買うようなものだ。
「美琴。悪いことは言わないから、神崎くんと仲良くしときなよ」
「えー、無理だよ。あいつとは仲良くなれないし、なんといってもあの性格が気に入らない!昨日だって、私にブスって言って来たし、女性のお客さんへの態度が悪いんだよ!」
いきなりブスとはなかなかだな。
だけど神崎くんは女嫌いで有名だしなあー。ベタベタしてくる女子や近づいてくる女子など露骨に嫌っているし。
とにかく美琴は神崎くんとは仲良くできないと主張しているし、周りが口出すことでもないのかな。だけどバイトでは神崎くんと会うのに、こんな調子で大丈夫なのだろうか。
***
美琴がバイトを始めて2週間ほど経った。
相変わらず、美琴は神崎くんと仲が悪いらしい。だけど美琴は最近、神崎くんのことをよく話すし、少し前は迷惑な客に絡まれていたところを神崎くんが助けてくれたらしい。
なんだか、いい雰囲気ではないか。まあ互いに気に入らないのも、似た者同士だからだと思うし。
昼休みになって、美琴が購買にお昼を行ってしまったので私は待っている間に自動販売機に飲み物を買いに行くことにした。飲み物を買い教室に向かおうとすると、中庭の方から声がしたので目を向けると、何故だか美琴が神崎くんと一緒にいた。しかも何か揉めている様子だ。バレないように近づいて話を聞いて見ると、神崎くんが女子からの告白を、うざいの一言で片付け、それを見た美琴が神崎くんに注意しているみたいだった。
「あんた、なんであんな酷いこと言ったのよ!女の子がかわいそうじゃない!」
「はあ?あんなベタベタしてくる女子、うざいに決まってんだろ」
「だからって、言い方ってもんがあるでしょ!そんな風にしてると女子から嫌われるよ」
「別に、好きでもない女にどうって思われてもいーし」
「えっ、好きな人いるの?」
「……別に」
「えー、絶対いるでしょー。誰なの?同じ学校?」
「…うるさい」
そんな2人の会話が聞こえてくる。…うーん。
なんかさあ、その、あのー、2人さあー
「「お似合いじゃん(だね)」」
……うん?今、私以外の声が後ろから聞こえたぞ。
後ろを振り向くと、そこには私より15センチほど背の高い1人の男子生徒。サラサラの明るい茶髪のマッシュヘアで、目は前髪で隠れて見えない。左耳にはピアスをしており、右手に飲みかけのバナナオレを持っている。
ここで言っとくと、この学校は進学校であるのだが校則がかなりゆるい。そのため髪を染めている生徒やピアスをしている生徒も多い。そういう私も髪は染めてはいないがピアスの穴を開けてい。ボブだから普段髪の毛に隠れて見えないけどね。
まあ、そんなことは置いといて、この目の前の男子は誰だろう。知り合いにこんな男子はいないし、同じクラスではないだろう。だけどどっかで見たことがあるような気がする。
少し疑わしい目で目の前の男子を見ていると、その男子は、ああ、ごめんと言い、右手に持つバナナオレを少し飲み再び口を開いた。
「俺は、瀬尾 真。一応あそこにいる神崎颯斗の友達やってます。よろしくー」
なんかチャラそうな雰囲気の男子だ。だけど律儀に自己紹介されたので、一応私も返す。
「えーと、井上 梨沙です。同じくあそこにいる相田 美琴の友達です。よろしく」
自分の名前を言った後、もう一度瀬尾 真と名乗った男子生徒を見る。
あー、思い出した。前、神崎くんと廊下ですれ違った時神崎くんの隣にいた男子だ、この人。だからなんか見たことあるって思ったのか。それで、神崎くんの友達の瀬尾くんは私に何かようなのだろうか。
「へー、井上さんって言うんだ。あっ、俺のこと覚えてる?前廊下ですれ違ったんだけど」
「覚えてるよ。あの時は美琴がすごい睨んでたけど」
「あー、あれね。俺あの後、颯斗に色々事情聞いたんだけど、なんだか面白いことになってるよね」
そう言った瀬尾くんは、ニヤニヤした顔で中庭を見る。そこには、先程の2人がまた言い合っていた。
「いやー、相田さんだったっけ?あんな風に颯斗に突っかかる女子なんて今までいなかったから驚いたよ。しかもなんだかんだ言って、颯斗も気を許してるみたいだし。こりゃあ、その後の進展が楽しみだねぇー」
相変わらずニヤニヤした顔で、バナナオレを飲みながら話す。目は前髪で見えないけどなんだろう、イタズラ好きの雰囲気がするぞ、この人。
そんな瀬尾くんを傍目に私はポツリと呟いた。
「……あの2人付き合えると思う?」
そう、これが私が一番気になっていたこと。多分あの2人互いに意識してると思うんだよね。私も美琴の友達だし、美琴には幸せになってほしい。だけどその相手は神崎くんだ。神崎くんはファンだってたくさんいるし、色々と弊害があるだろう。
私の言葉に、瀬尾くんは少しポカンとしていたがすぐに先程のようにニヤリと笑った。
「うーん、どうだろうねぇー。まあ、確実に颯斗は意識してるだろうから。だけど相田さんって見てる感じちょっと鈍感そうだよね。そうなると、進展するのは少し時間がかかるかなー。いやだけどそこは颯斗がビシッと決めてくれるか」
うっ、確かに。瀬尾くんの言葉に思いつく点がありすぎる。
美琴って恋愛に関しては鈍感なんだよなー。それ以外はすぐ気がつくくせに。クラスの男子とか、明らかにアピールしてるのに全く気がついてないし。
「まあ、外野は大人しく見守ってるとしましょうか。友達の恋を応援する同士、よろしくね。井上さん」
そう言いニヤリと笑う瀬尾くんによろしくと返すと、中庭の方からこちらに声がした。
「あっ、梨沙ー。そんなところで何してるの?」
「美琴」
声がした方には、美琴と神崎くん。神崎くんは私をちらっと見て、誰だこいつみたいな顔をしたが、私の隣にいた瀬尾くんに気づいたらしく美琴と一緒にこっちに近づいてきた。
「真、こんなとこで何してんだ」
「やだなー。ただ自販機に飲み物を買いに来ただけだしー。ていうか、女子に呼び出された颯斗くんはこんな人目のつかない中庭で可愛い女子と2人きりで何してたんですかー?」
っておい!さっき大人しく見守るって言ったばかりじゃないか。なんで瀬尾くん、ニヤニヤして会っていきなり神崎くんに爆弾落としてるの。ほら、神崎くん凄い顔してるよ。美琴も可愛いって言われたからって、照れてないで!
うわっ、その美琴見た神崎くんの顔がどんどん怖くなってるし。
で、いい加減瀬尾くんそのニヤニヤ顔やめて!
「まあまあ、そんな冗談はさておき」
絶対冗談じゃないよね?完全にいじろうとしてたよね?
「ちょうどそこで井上さんと会って、少し話をしてたんだ。あ、相田さん。俺、瀬尾 真。相田さんと同じバイトの神崎 颯斗のマブダチでーす。相田さんのことは颯斗と井上さんから話聞いてたから、知ってるよー。よろしくね」
神崎くんがマブダチじゃねーよって言ってるけど、瀬尾くんは無視して話し、美琴も瀬尾くんにつられてわ自己紹介していた。ついでに美琴は神崎くんに私のことを紹介した。いやー、なんか神崎くんの目線が怖いんだけど。
「じゃあ、俺はそろそろ教室戻るね。昼まだ食べてないし。あと次の授業、問題当てられてるし」
瀬尾くんが相変わらずのニヤニヤ顔で神崎くんと私の様子を見ながら言った。そういえば私もまだお昼を食べてなかった。
「真、どこ当てられてるんだ?」
私から目線を外した神崎くんが瀬尾くんに言う。
「問3。俺数学少し苦手だから、ちょっと悩んだんだよね。心配だからあとであってるかみてくれない?」
「ああ、あの問題か。少し応用的だったな。真なら大丈夫だと思うけど」
「ハイハイ、学年1位の秀才に言われても嫌味でしかないよ。ってことだから、またね。井上さん、相田さん」
「う、うん。またね」
瀬尾くんが私たちに別れを告げて、教室に向かって行った。神崎くんは、美琴をちらっと見てから瀬尾くんの後をついて行った。そして私はその2人の背中を呆然と見送る。
「瀬尾くんも1組だったんだね」
美琴がポツリと呟く。
……うん。今の完全に同じクラスの人同士の話だったもんね。えっと、何、瀬尾くんも1組の特進クラスなの?!ごめんなさい。見た目がチャラチャラしてたから完全に普通科だと思ってました。確かに1組の神崎くんと仲良いなら、瀬尾くんも1組の可能性が高かったよね。そういう考えに至らない私がバカでした。人って見た目は関係ないんだなー。しみじみ。
***
そんなかんやで仲良くなった瀬尾くんと私は、その後よく連絡をしあうようになった。主に神崎くんと美琴関係で。
2人を見守ろうと思ってたのに、予想以上に2人の仲が進展しなくてわざわざ瀬尾くんと私で2人っきりになるようにしたり、4人で遊園地に行ったりした。
2人が付き合えるよう私と瀬尾くんは裏で色々と頑張った。
それなのに、なんで美琴は私が神崎くんが好きって勘違いするのー???!!!
そして神崎くんも何故瀬尾くんが美琴のことを好きだと思ってるわけーーー???!!!
私と瀬尾くん頑張ってたよね?泣
瀬尾くんこれにはかなり呆れてたよ。
いや、まじ颯斗ありえない。なんでそこで俺が相田さんのこと好きって考えになるわけ?お前のその頭は何のためにあるんだよ。などと私にずっと神崎くんのことを愚痴ってた。そういう私も美琴が勘違いしたこと瀬尾くんに愚痴ったけど。
それでどうするかと考えて、私達は付き合っているふりをすることにした。
ほんと何で俺らがここまでしてやらないといけないんだって瀬尾くんと私は呆れていた。
2人に私たちが付き合っていると説明すると、誤解は解け安心した。だけど流石にすぐ別れると怪しまれるので、しばらくの間は付き合っていることにしようという考えになった。
そんなこともあり、神崎くんと美琴の恋のキューピッドをするなどしているうちに、瀬尾くんのことを知る機会が増えた。
バナナオレや最近はいちごオレなど、甘くてカロリーが高そうなものばかり飲んでいるのに、全然太らないらしい。その言葉通りに瀬尾くんはすらっとしている。しかしやはり男子。筋肉は付いており、時々ワイシャツの袖から色白で筋肉の付いた腕が見える。
知り合いも多いらしく、色々な人から声をかけられている。趣味はギターで、中学の時の同級生とバンドを組んでいるらしい。それもかなりレベルの高いバンドだと、他クラスの友達から聞いた。
そして相変わらず髪型は明るい茶髪(ホワイトベージュと言うらしい)のマッシュで目は前髪で隠れている。本人曰く、しっかり前は見えているそうだ。ある日の放課後何で目を隠しているのかと聞いたら、
「あー、これね。俺の母方のばーちゃんがロシア人なんだよね。そんで俺その血を濃く継いだらしくて、目の色が日本人と違うんだよね。なんつーか、グレーって感じ?そのせいか、昔から周りからかなり珍しい目で見られて、それが鬱陶しいからこうやって目隠してる。あと光を遮るって言う意味でもあるけど。見てみる?」
そう言ってニヤッと笑い瀬尾くんは、自身の前髪をあげた。そうして初めて見た瀬尾くんの瞳は、確かに彼が言うように青色に近いグレーの瞳だった。私達とは違う色のその瞳は、透き通っていて宝石みたいでとても綺麗だ。そしてそんな瞳を持つ瀬尾くんは、神崎くん程ではないけどイケメンだ。
思わずじっと見つめていると、瀬尾くんはパッと前髪を下ろし、私の頭を後ろに押した。
「近いしそんなに見つめられると、流石に恥ずいんですけど」
急な行動に驚き瀬尾くんを見ると、瀬尾くんはわたしから顔を背けながら早口でそう言った。
私も瀬尾くんを自分が思っていたより近くで見つめていたことに気づき、急に恥ずかしくなった。しかもここは昇降口の靴箱前で、2人隣り合わせになって座っている。そして当然のように私達以外にも生徒は多くいる。
「「…………」」
いやっ、沈黙がきつい。変な空気になったのは瀬尾くんを見つめてしまった私が悪いけど、いつもの瀬尾くんどこ行った?!このぐらいいつもならニヤッと笑って終わりでしょ!
「あ、あー、俺用事あったの思い出したわ。じゃあ、また明日」
瀬尾くんが素早い動きで立ち上がり、私の方を向かずに早口で言った。
「う、うん。またね」
それに私も動揺を隠すように早口で返事をする。
瀬尾くんがいなくなり1人になった昇降口で、私は思わず頭を抱える。
うわあー、なにあの雰囲気。何してんだ、私。しかも心臓の音がやばい。
***
文化祭の日になった。
あの瀬尾くんの目を見せてもらった日の次の日は、私達は特に何もなかったようにいつもの雰囲気に戻った。あの日は多分2人とも体調が良くなかったんだよ、多分。
そして現在、文化祭が終わり後夜祭が行われている。あれからまた瀬尾くんと2人で色々と頑張り、なんとか文化祭当日は神崎くんと美琴を2人で回らせることに成功した。っていうか、あの2人あんな甘々な雰囲気出しといて付き合ってないとかどういうことなの?!周りも気づいてるのに。
この学校の後夜祭は自由参加で、キャンプファイヤーや最後には花火が上がる。そしてその花火を好きな人と一緒に見ると、両想いになれるというジンクスがある。
私が今いる場所は中庭の物陰。ちなみに瀬尾くんも一緒。そして私たちから少し離れた場所には、ベンチに座る神崎くんと美琴。そうです、盗み見です。
黙って打ち上がる花火を見ている神崎くんと美琴。
そうしている間に、最後の花火が打ち上がり1番大きく輝きそして空へ消えていく。
静かになった学校の中庭で、神崎くんがポツリと呟く。
「好きだ」
「えっ」
空を見上げていた美琴が神崎くんの方を向く。
きゃー、神崎くん直球!
「相田 美琴、おまえが好きだ」
それを聞き美琴はしばらくポカンとしていたが、急に泣き出した。
それを見た神崎くんは慌てて、ごめん、嫌だったよなと言う。だけど美琴はその神崎くんの言葉に首を振る。
「うっ、ううん。違うの。嬉しくて」
「えっ、それって…」
「好きです。私も神崎のことが好きです」
………
やっ、やったああああああ!!!
やっと、やっとだよ!やっと2人が自分の想いを言ったよ!ここまでほんと長かったー。
私は喜びのあまり、瀬尾くんの背中をバシバシ叩く。運良く私たちがいると2人にはバレなかったみたいだが、瀬尾くんからの目線が怖い。目は髪で隠れて見えないけど。強く叩き過ぎたみたいだ。
本当はこの後の2人のことを見たかったのに、瀬尾くんがこのくらいで外野は大人しく去るよと言って私を無理やりその場から引っ張っていった。
「なんで、最後まで見ないのー?あのあとどうなったか気になるじゃん」
「そういうのって、他人に見られたくないでしょ。一応俺と颯斗との仲だしね」
確かに。盗み見してたのバレたら怒られそうだし。
「うーん。まあ、そうだよね。今回は大人しく引くとしよう!」
「今回はって。次があるのかよ」
だらだらと話しながら、私達は自販機の近くに来ていた。そして瀬尾くんが飲み物を買うらしいので、わたしは近くの壁に寄りかかって待つ。
「はい、これ。俺のおごり」
そう言って、瀬尾くんが私にレモンティーを差し出す。ちょっと前、これが好きって言ったの覚えてたんだ。
そして瀬尾くんは自分の分のいちごオレを買い、わたしの隣にくる。
「じゃあ、いろいろお互いにお疲れ様って事で、かんぱーい」
瀬尾くんが自分のいちごオレを前に出してきたので、私はそのいちごオレに奢ってもらったレモンティーを軽く当てる。
飲み物を飲んで一息ついたところで、瀬尾くんが口を開く。
「いやー、ここまでほんと長かったね。俺たちまじで頑張った」
「うんうん、ほんとそれ。あの2人なかなか進展しないし、終いには勘違いはするし」
「あの、俺が相田さんのことが好きで、井上さんは颯斗のことが好きって言う泥沼の四角関係のやつね」
「そうそう。なんでそんな勘違いするのって感じだったよ。最終的解決策で私たちが付き合ってるってことにしたしね」
「大変だったなぁー」
瀬尾くんがいちごオレを飲みながら、しみじみと答える。
確かに、すごい大変だった。なんで関係ない私たちがこんなに頑張んなきゃいけないんだとか思ったし。
だけどそれも瀬尾くんが一緒にやってくれたから、楽しかった。毎日がキラキラしていて、瀬尾くんと話すのが楽しみだった。
あれ?
だけどこの関係ってこの後どうなるんだろう。
1つの疑問が私の中に浮かぶ。
この関係はあくまで、神崎くんと美琴がうまくいくための関係だ。
神崎くんと美琴がくっついた今、私達の関係はどうなるんだろう。
今は一応、偽だけど彼氏彼女の関係だ。多分この後は、普通に友達ってことになるんだよね。元々知り合いだったわけでもないし、あの2人がきっかけだったんだし当たり前だよね。
なのに、なんでこんなに胸がズキズキするんだろう。
「じゃあこれで俺たちの役目は終わりって事で。あー、なんか今日一日でめっちゃ疲れたわ。早く帰って寝よー」
そう言い歩き出そうとした瀬尾くんの手を私は反射的に掴む。
「ん?どうかした?井上さん」
瀬尾くんが私の方を向く。
「あ…、いや、その…」
何やってんだ、私!
なんで瀬尾くんの手を掴んでしまったんだ。
瀬尾くん絶対困ってるじゃないか。
「あ、あの2人に私たちが嘘で付き合ってたっていつ言う?」
何言ってるの、私!
こんな事言いたいわけじゃないのに。
「…井上さんが言いたい時でいいよ。井上さんはいつがいい?」
瀬尾くんの声がする。いつもみたいなからかう声じゃなくて、少し暗い声だ。
「あ、えっと…」
言いたくない。
嘘で付き合ってたなんて言いたくない。ずっとこの関係でいたい。友達じゃ嫌だ。瀬尾くんの特別でいたい。
そうか私、瀬尾くんが好きなんだ。
本当は瀬尾くんと話すのはドキドキして、瀬尾君と一緒にいると楽しくて、ずっと一緒にいたくて。
だけどそんなの瀬尾くんに迷惑だよね。こんな私の一方的な気持ち。
瀬尾くんは多分モテるから、私より可愛い人と付き合うんだろう。女子の知り合いだって多かったし。
ああ、今頃になって美琴の気持ちがわかった。神崎は私みたいなやつ好きにならないって言った美琴の気持ち。辛いわ、これ。
「…井上さん?」
「……あれ?」
私の頬に温かいものが流れる。
泣いてるのか、私。
次々涙が溢れて止まらない。
「ご、ごめん。泣きたいわけじゃないんだけど…」
瀬尾くん驚いてるよね。
めんどくさい女だな、私。瀬尾くんに迷惑かけて。だけど、迷惑だってわかっててもこの気持ちを抑えることができない。伝えたい。この気持ちを瀬尾くんに伝えたい。
「瀬尾くん、好きです」
瀬尾くんが息を飲む音が聞こえる。
「好きです。迷惑だってわかってるけど、瀬尾くんと一緒にいるのはすごくワクワクして、ドキドキして毎日が楽しくて。これからも瀬尾くんと一緒にいたい。瀬尾くんの…瀬尾くんの隣にいたいです」
最後の方は涙でぐちゃぐちゃになって何を言ってるのか自分でもよくわからない。
瀬尾くんにこの想いが伝わってほしい。
だけど瀬尾くんは黙ったままだ。ああ、やっぱり迷惑だったんだ。
「ごめんね、いきなり。ほんと、ごめん。迷惑だったよね。今のは忘れていいか……」
自分の唇に、柔らかくて温かいものが触れた。しばらくしてそれが離れると、私の顔の目の前に瀬尾くんの顔があった。
「俺もおんなじこと思ってた」
そう言って目の前の男の子は、いつものようにニヤリと笑う。
好きな人からのキスは、ほんのり甘いいちごオレの味がした。
文章力が欲しい。
恋愛小説って書くの楽しい。
連載にしたいけど、もう1つの方の連載小説も書かないと…