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止まない雨 ところにより蟲毒(9)

地中に潜った剛鉄はそのまま地下深くに潜行していった。敵が追ってくることはないだろうがそのまま土の中でやり過ごすのも危険であると判断したからである。ある一定の深さまで潜ったところで急に掘っていた地面の手ごたえがなくなった。違和感を覚えた剛鉄は慌てて踏みとどまった。はたしてそれは正解だった。開けた岩盤の先に広大な地下空洞が繋がっていたからだ。くり抜いた岩盤の一部が下に向かって落ちていく。それが地面にぶつかる音がするまでかなりの時間を要した。一見しても地面まで数十メートルはあるだろう。落ちれば剛鉄といえどもただでは過ぎない。落ちなくてよかった、そう剛鉄はため息をつきながら壁伝いに地面に降りていった。見上げるくらいに広大な空間だった。長尺だけでなく奥行きも数千人を軽く収容できるほど広大である。周囲の光景は鍾乳洞のようになっており側には地下湖までできていた。自然が作り出した神秘的な光景は見る全てを圧巻させるものだった。

「まさか地下にこんな空間があるとはな。」

【私も驚きました。この規模の空間が地下に広がっていたことに学術的な興味を覚えますね。】

剛鉄の素体となっている牧村は元々学者気質の男だ。だからこそ目の前の光景が気になって仕方ないのだろう。全く暢気なことだ。剛鉄の言葉に少尉はため息をついた。蟲を振り切ったことに気が抜けていたのかもしれない。それが間違いの元だった。

なぜならば次の瞬間に壁を突き破って蟲毒が現れたからだ。完全に隙をつかれた状態だった。まともな指示を出す前に剛鉄は突き飛ばされて横転して少尉達も床に投げ出される。蟲毒はその尻尾を蛇のようにしならせながら剛鉄に巻き付けていく。ミシミシと体をきしませられながら剛鉄が苦悶の声をあげる。

【少尉殿、物凄い力です。このままでは身動きができない・・・・】

剛鉄が破壊される。そう自覚した少尉は相打ち覚悟でライフルを手に取った。そんな少尉をコロは制した。

「少尉殿、ここは僕に任せてください。」

いうが早いかコロは外へ躍り出た。飛び出してきたコロに反応した蟲毒がその触手を振り下ろす。瞬間、コロはすでに上空に跳躍していた。破壊された岩盤が空中に跳ね上がる中でコロは半月を描くように刀を振り下ろした。一閃。その一撃は見事に触手を胴体から分断していた。体液をまき散らしながら蟲毒は悲鳴をあげた。悶えながらも残っているもう一つの触手で再度攻撃を試みる。

それを見た少尉が声をあげた。空中で逃げ場をなくしたコロが刀で受け止めようと試みているのを見たからだ。あまりに無茶すぎる。吹っ飛ばされて壁に激突するぞ。少尉の心配をあざ笑うかのように蟲毒はコロに触手を振り降ろしていた。少尉が息を呑む。だが、コロは吹き飛ばされることなくその一撃を受け流していた。まるで羽根のように衝撃を完全に受け流している。その見事な体裁きに少尉は再度の息を呑んだ。

「あいつ、あんな人間離れする動きをするようになったのか。」

仙人との修行は無駄ではなかったということか。コロは着地した後も器用に蟲毒の攻撃を避けながら確実に一太刀一太刀を蟲毒の身体に浴びせていた。だが決して余裕そうではなかった。戦いを見ておおよその予想はついた。何度も胴体を切っているようなのだが装甲が硬すぎてことごとく弾かれているのだ。それはすなわち、あくまでも今やっていることは時間稼ぎに過ぎないということである。




                  ◇




洞窟を飛び出した蟲毒を追うことに決めた剣狼はその足取りに追い付くべく足になる乗り物を片っ端から探していた。なにしろ相手は空を飛ぶのだ。普通の乗り物では追い付くことすらできないだろう。様々な資材が置かれたデッキのような場所でふいに一つの物体が視界に入った。同時に体内の魔核が共振を起こす。何かある。そう思った剣狼は近づいていった。そこに置かれていたのは混虫を思わせるデザインをした生態兵器型のオートバイだった。よほどの暴れ馬なのだろう。複数の鎖に繋がれながらも必死にそれから逃れようとする姿に剣狼は好感を持った。だからおもむろに近づいて手をかざした。

「取引しようぜ。俺に協力するなら解き放ってやる。」

オートバイはしばし逡巡した後に恭順の意思を示す共振を返してきた。その姿に剣狼は不敵に嗤う。そして一瞬で戒めの鎖を断ち切った。オートバイは嘶くようにその身を翻すと剣狼に乗るように促してきた。

「頼むぜ。相棒。」

そういって剣狼が跨った瞬間にバイクは一気に加速した。いきなり振り落とされそうになる。その速度が戦闘機を思わせるほどの加速だったからだ。まるでオートバイ自身が自分を試しているように剣狼は感じた。生意気な野郎だ。しかも壁に行きついた瞬間にその速度のまま直角に登り始めていくではないか。一気に襲い掛かるGに剣狼は絶句した。同時に鎖に繋がれていた本当の意味を理解した。これは普通の人間が乗れる機械ではない。普通の人間が乗れば操り切れずに振り落とされて死んでしまう悪魔のマシンだ。だが、自分も普通の人間とは違う。

(乗りこなしてみせるさ。)

剣狼は心の中でそう呟くとマシンに振り落とされないようにしがみつきながら自身もアクセルをひねってさらに加速した。そして凄まじい速度で壁を登っていった。



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