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止まない雨 ところにより蟲毒(3)

剣狼は力なくその場に崩れ落ちた。意識をなくしたと同時に剛魔合身による変身も解けていく。そして床に赤い染みが広がっていく。

「厄介な男だ。戦闘能力は卓越しているが思考に問題がありすぎる。」

脳改造が必要だな。荒い息をしながら東雲は一人呟いた。彼にとって他者への判断価値は基本的に利用できるかできないかに過ぎない。利用できなければ廃棄するのが鉄則だった。そんな彼にとって今のままの剣狼を駒として使うにはあまりにも問題がありすぎた。切り札である魔眼を使わせられたことも彼にとっては痛手であった。古代人のミイラから移植したこの目は血脈でない人間にとっての負荷が強すぎるのだ。あまり使いすぎれば脳神経が焼き切れる恐れがある。一日に使えるのはせいぜい数回に過ぎない。

「さて…邪魔者もいなくなったことだ。」

東雲はそう言った後で剣狼の元に駆け寄っていたフィフスの腕を強引に捕まえた。

「捕まえたよ、五號。」

東雲の口調は柔らかかったがその表情には全く優しさがこもっていなかった。まるで虫を見るような表情だった。東雲に見すくめられてフィフスの顔が恐怖に染まる。

「いい表情だ。そういう表情ができる子は好きだよぉ。」

粘着質な言い回しだった。フィフスは涙目になりながら言った。

「私はどうなってもいいからけんろうは助けて…」

「虫けら同士がかばい合うというのか。これは傑作だ。」

フィフスの必死の懇願を東雲は笑い飛ばした。静まり返った大空洞の中で東雲の嘲笑だけが木霊する。ひとしきり笑い終えた後に東雲は言った。

「全ては君次第だ。五號。私の言うことを聞けば彼の命は助けてやろう。」

そういった後に東雲はフィフスを床に降ろした。そして洞窟の奥についてくるように促した。フィフスは躊躇った後に歩き出した。少し歩いた後に振り返る。

「けんろう。ありがとうね。バイバイ。」

その表情は泣き笑いを浮かべた物だった。




                   ◇




大雨の中で剛鉄は線路の上を疾走していた。走っているのが森林地帯の真ん中を切り抜いたような場所のため、雨を含んだ植物の独特の匂いが剛鉄の車内にも広がっていた。

「嫌な雨だな。」

機関室から外の景色を眺めながら少尉は呟いた。そんな少尉の呟きに傍らのコロが答える。

「本当に。最近は長雨が続きますね。」

「気が滅入るよ。」

【私はそうでもありませんが。】

話に参加してきた剛鉄の言葉を少尉は鼻で笑った。剛鉄の物言いがおかしかったからだ。

「錆のことを考慮したら一番雨を嫌がるのが機関車のはずだろう。」

【錆ですか。新陳代謝が活発な私には無縁な言葉です。】

剛鉄の物言いに少尉はうなった。身から出た錆という言葉があるが彼にとっての錆というのは人間にとっての垢のようなものに過ぎないというのだろうか。おかしな男、いや、機関車か。少尉はあらためてこの奇妙な部下のことを良く知らない自分に気づいた。いくつかの戦いを経たことで基本的に臆病な性格のことは理解したが、その生態については調査が必要なのかもしれない。この際だ。少し深堀りして聞いてみるか。

「新陳代謝といったが代謝で老廃物が出るというならお前は何を食べて生きているんだ。」

【主に鉄や岩などの鉱石ですよ。取り入れた鉱石の成分がそのまま私の体の構成成分になります。】

「初耳だな。」

【今まで聞かれなかったものですから。百足自体がそういう生態なので私の嗜好もそれに付随しているのです。】

どおりでいつも燃料がいらないはずだ。随分前にリムリィいぬまんまを出していたのでそれが主食なのかと思っていたが、どうやら間違いだったようだ。少尉はそう納得した。同時にふと疑問を感じたために会話の流れで聞いてみる。

「仮の話だ。鉄以上の硬度を持った鉱石を食ったらどうなるんだ。」

【当然、現在以上の硬度の装甲を所持できるようになります。】

「ふむ……」

思わぬ情報を得たものだと少尉は思った。同じ鉄なら銃火器にも当てはまるのだろうか。検証が必要だな。この任務が終わったら試してみるか。少尉はそう決意した。


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