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止まない雨 ところにより蟲毒(2)

怯える東雲の背後から現れたのは武装した数十人の兵士たちであった。途端に東雲は笑顔の仮面を脱ぎ捨ててその狂暴性と凶悪性を表に出した。

「私に逆らったことを後悔させてやる。」

東雲が命じると兵士たちは一斉に異形へと変化していく。黒い外殻に覆われたそれは蟻を思わせる昆虫人間達だった。化け物に囲まれたにも関わらず剣狼は冷静だった。

「組織の混虫人間の量産がそこまで進んでいたとは知らなかったぜ。」

「ガキは殺すな。男のほうは殺して構わん!」

東雲の叫びに反応するように混虫人間達は剣狼に向かって一斉に殴り掛かった。だが、混虫達の攻撃は剣狼に通じていなかった。フィフスを庇いながらも多方向から殴られたまま一歩も微動だにせずに剣狼は東雲を睨んだ。

「今、何かしたのか。」

「馬鹿な、蟻人間どもの力は普通の人間の10倍はあるんだぞ。」

それに耐えられるということは目の前の孤狼族の男はそれだけの力を秘めているということになる。呆然とする東雲の呟きを剣狼は鼻で笑った。そして腹に力を込めながら叫んだ。

「今度はこっちの番だ。『剛魔合身!!』」

そう叫んだ瞬間、剣狼の全身からバキバキと異音が鳴りながら混虫の外骨格が剥きだしていく。それは蜘蛛を思わせる装甲だった。剛魔合身。それは孤狼族である彼が蜘蛛の能力と体を取り込んで新たに得た戦闘スタイルだ。その出力は強大そのもので他の混虫人間を圧倒する。変身が終わって現れたのは背中に八本の触手を生やす蜘蛛を思わせる装甲兵だった。

「あいにくとこの姿になっちまったら手加減はできねえ。」

首をゴキゴキと鳴らした後に剣狼は手始めに目の前の蟻人間に拳を放った。直後、東雲のすぐ横を吹き飛んでいった蟻人間は壁にめり込んだ後に動かなくなった。東雲は微動だにすらできなかった。完全に自分の反応できる速度を凌駕していたからだ。

「なんという力だ。その出力、魔将校並ではないか。」

「たかが一般兵の俺が大幹部様並みとは嬉しいねえ。コアクリスタル様様だな。」

「そうか、貴様は大蜘蛛のコアクリスタルを奪ったのか!」

「気づくのがおせえんだよ。」

剣狼はそう叫んだ後に背中の触手で蟻人間達を薙ぎ払った。直後、蟻人間達の首と胴体が宙を舞う。触手の一撃一撃が凶悪な刃物のような切り口で蟻人間達を切り裂いたのだ。

「ひいいいいいっ!!!!!」

一瞬で起こったあまりの凄惨な光景に東雲は腰を抜かした。恐怖のあまりに股の間からあたたかいものがあふれ出る。周囲に動くものがなくなったことを確認した後に剣狼は抱きかかえていたフィフスを降ろした。そして血の海をちゃぷちゃぷと踏みつけながら東雲の元へ無造作に近付いていく。

「た、助けてくれ。」

醜く後ずさりながら東雲が命乞いする。その見苦しさに剣狼は苛立った。

「先に喧嘩を売ったのはてめえのほうだろう。」

「許してくれ、お前がここまで強いとは思わなかったんだ。」

「命乞いなら地獄でするんだな。」

そういった後に剣狼は腰の刀を抜いて東雲の首元に突き付けた。東雲は泣き笑いを浮かべていたが、観念したのか目を瞑った。観念するとは随分いさぎいいことだな。そう思いながら剣狼は止めを刺そうとした。

次の瞬間に東雲は目を開けた。その目は普通の人間のものでなく眼球中に幾何学模様のような真っ赤な魔術文字が描かれた不気味なものだった。その不気味な目に睨みつけられた瞬間に剣狼の脳を直撃するような衝撃が襲った。衝撃の後に金縛りが起きた。脳は覚醒しているのにまるで自分の体ではないかのように微動だにできないのだ。

「この私に()(ロール)を使わせるとは大したものだな。」

「貴様、何をしやがった…」

「『魔眼』というやつだ。蟲を操った古代文明に伝わる最終兵器の一つだよ。蟲を操るだけでなく蟲を宿すものも自由に操ることができる。例えばこんな風に。」

東雲がそう言った瞬間に剣狼は自分の意志とは無関係に自らの腹に刀を突き刺していた。背中から刀が生えた姿にフィフスが悲鳴をあげる。

「フィフス、逃げろ…」

薄れゆく意識の中で剣狼は呟いた。だが、その呟きはフィフスに届くことはなかった。



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