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止まない雨 ところにより蟲毒(1)

蟲毒と呼ばれる呪法がある。古くは大陸のほうから伝わったとされるこの儀式は蛇や百足、蛙や毛虫といった生き物を同じ容器に入れて互いに共食いをさせる忌まわしい代物だ。邪法とも言われる。生き残った蟲は凶悪な毒を持って人に害を成すと言われている。おぞましい話なのはこの儀式を巨大な混虫を使って行おうとする者達が古代の大陸にいたことである。儀式に使われたのは特殊な金属を使った巨大な球体の器であった。古い文献を読み漁ると球体の中には蜂、百足、蛾の幼虫、蟷螂といった混虫を召喚して入れたと言われている。共食いをすることで蟲達は融合していく。結果、出来上がるのは飛行能力と強大な装甲、そして鋭い鎌を兼ね揃えた化け物だ。

その凶悪さゆえに蟲毒は邪法と認定されて関連資料を調査することも閲覧することも禁止された。そして国家図書館の地下深くに長い間封印されていた。禁忌を破ったのはアイゼンライヒから亡命したベルゼベードだった。彼はその邪なる探求心と知識欲を押さえることをできずに封印を破って蟲毒の技法を知った。そしてその製法と欠陥についても学んだ。蟲毒は制御できないのだ。文献を読み漁ると蟲使いの一族ですら制御することは叶わずに国が滅んだと言われている。蟲毒を制御するのであれば何な巨大な力を持つ何かを混ぜ込む必要である。

ベルゼベードが考えたのは失われた妖精族の遺伝子を使用することだった。妖精族は混虫と融合する力を持つ特殊な種族だ。その危険性から様々な軍によって捕獲、殺害されて滅んだと言われている。その妖精族の遺伝子を蘇らせることができれば蟲毒によって作り出した化け物ですら制御することができるだろう。まともな発想とはいえなかった。

その狂気の発想に同調するものがいた。ベルゼベードの配下である東雲直人である。陸軍の統率者の一人である東雲昭道の息子でありながらベルゼベードの思想に心酔して国を裏切った若き科学者だ。彼はベルゼベードから研究を引き継ぐと人工妖精作成計画を立ち上げると遺伝子の欠片から見事に妖精を蘇らせた。一種の天才と言えた。その妖精族を使って狂気の実験が行われようとしていた。




                  ◇




剣狼が指定された洞窟にたどり着いて見張りに合言葉を伝えると奥に通された。奥の大空洞の中で待っていたのは一人の青年だった。東雲直人。組織幹部の一人である。常に笑顔の仮面を被っているが腹の奥では何を考えているのか分からないために剣狼が苦手とする男だった。

「やあ、遅かったじゃないか。待っていたよ。」

「こんなところで何をする気なんだ。」

こんな薄暗い洞窟の中で一体何をする気なのか。ふと傍らのフィフスの顔色を見てみるとあきらかな恐怖の色が伺える。なぜか東雲に対して怯えているようだった。何をするつもりなのかは分からないが詳細な情報を引き出してから判断しよう。剣狼はそう思った。

「そんな御大層なことはしないさ。さあ、早く五號を渡してくれ。」

「五號?こいつの名前はフィフスだろう。」

「五號がその子の正式名称さ。フィフスは戯れにつけた愛称のようなもの。人間でないのだから番号で呼ぶのは当然だろう。」

「なるほどな。五號だからフィフスか。納得がいったぜ。」

剣狼は俯いたままにその身を震わせた。震えていたのは込み上げる怒りに耐えていたためだ。東雲はそれを無視して時間の無駄とばかりにフィフスの腕を強引に掴んだ。その乱暴さにフィフスが悲鳴をあげる。限界だった。その瞬間に剣狼は切れた。その怒りは全身の毛を逆立たせるに充分なものだった。

「人の名前を番号で呼ぶんじゃねえよっ!!!」

剣狼はそう怒鳴った後に東雲から強引にフィフスを奪い取ると抱きかかえた。同時に身からあふれ出る闘気を解き放った。凄まじい殺気と熱が爆風のようにその場に荒れ狂う。爆風を耐え切れなくなった東雲が吹っ飛ばされる。慌てふためきながら東雲が尋ねる。

「組織に逆らうのか。どうなるかわかっているのか。」

「黙ってろ。俺はやかましい奴とデリカシーのない奴が大嫌いなんだ。」

剣狼はそういって東雲を睨みつけるとその凶悪な牙を覗かせた。



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