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閑話休題 はぐれ狼娘一人旅(4)【終】

見晴らしのいい公園のベンチに三人並んで鯛焼きを食べる。なかなかシュールな光景だった。外套に身を覆った目つきの悪い孤狼族と犬耳娘と幼女の組み合わせ。親子として見るには少し無理があった。フィフスがちまちまと鯛焼と格闘している間に剣狼はがつがつと喰らった。そうそうに自分の鯛焼きを食べ終えてしまうと少し物足りないと思った。もう一つ食うかな、そう思って紙袋に手を突っ込んで二つ目の鯛焼きを取り出した後にちらりとフィフスの隣に座るリムリィのほうをちらりと見た。

「もう少し奇麗に食えねえのか。」

「なんですか。ちゃんときれいに食べてるじゃないですか。」

「そういう台詞は口の周りのあんこを取ってからいいやがれ。」

剣狼の指摘に顔を赤らめながらリムリィは口の周りを服の袖で拭った。せめてハンカチを使えよ、剣狼はため息をついた。剣狼が呆れるほどにリムリィの食べ方は汚かった。どうすればそうなるのか。口の周りだけでなく掌にもあんこを纏わりつかせている。よほど強い力で握りしめないとそんな事態にはならないだろう。

「ママ、こうやって食べるんだよ。」

「はわわ、知らなかった。フィフスちゃんは物知りだね。」

いや、お前が物を知らなすぎるだけだろう。幼女に食べ方を教えてもらうな。剣狼はツッコミそうになるのをグッと堪えた。この女の天然ボケにツッコミを入れ出したらいくら入れてもキリがないからだ。本当に調子の狂う女だ。

「お前、俺が怖くないのかよ。」

ふと頭をよぎった疑問を剣狼はリムリィにぶつけた。リムリィは呆けた顔をした後に数回の瞬きした。まるでそんな質問をされるとは思っていなかったかのような表情をしている。

「いきなりなんですか。えっと…名前が…」

「剣狼。」

「そ、そう!剣狼さん。」

質問するのやめようかな。人の名前すら満足に覚えていないような記憶力の女にするべきではなかったかと剣狼は軽く後悔した。剣狼の後悔など全くお構いなしでリムリィは自信満々で答えた。

「もう怖くないですよ。」

「なんでだよ。」

「だってフィフスちゃんがそんなに懐いているじゃないですか。本当に怖い人ならとっくに逃げてますよ。」

言われてはじめて気づいた。確かにフィフスは剣狼から逃げることなく側で安心してはぐはぐと鯛焼きを食べている。犬娘の言わんとすることが分かった。本当に怖い人間の側ならこんな風に一緒に並んで何かを食べることなどないと言いたいのだろう。

「フィフスは俺が怖くないか。」

剣狼の質問にフィフスは首を傾げる。

「なんで。けんろうは怖くないよ。優しいよ。」

「ならなんで逃げたんだ。」

「フィフス、あそこに行きたくなかったから。」

剣狼にはフィフスの言わんとすることが分からなかった。『安らぎの館』という名と場所こそ聞いているが、そこが何をする場所なのかということは詳しくは聞いていない。余計な詮索をするなというのが剣狼の雇い主からの命令だったからだ。

「そっか。行きたくないか。」

「うん、でも行かないとけんろうは怒られる。だから我慢する。」

なんて気配りのできるお子さんなんだろう。幼女に気遣われるとは思っていなかったために剣狼は言葉を詰まらせた。クソガキと罵って申し訳なかったな。黙ってフィフスの頭を撫でた後に剣狼は二つ目の鯛焼きを食べだした。




                 ◇




夕方になって剣狼はフィフスを伴って目的地に向かうことになった。当然の流れでリムリィも駅前に見送りについていった。

「ママ、また遊んでね。」

別れ際にフィフスにそう言われたものだからリムリィのほうが涙ぐんでしまった。名残惜しいのだろう。フィフスの服の袖をぎゅっとリムリィは掴んでいた。普通、逆じゃねえのか。リムリィの姿を見ながら剣狼は心の中で突っ込んだ。

「いろいろ世話になっちまったな。」

「私がいなくなってもフィフスちゃんに優しくしてあげてくださいよ。」

「はは、せいぜい努力するさ。」

剣狼がそう言った後で発車を告げる警笛の音が鳴った。フィフスを抱きかかえると剣狼は列車に乗り込んだ。同時に列車の扉が閉まる。手を振るフィフスをリムリィは泣きながら見送った。列車が見えなくなるまで手を振り続けた後にリムリィは涙をぬぐった。

「行っちゃったな。」

そう呟くと名残惜しさがこみ上げてきた。同時に寂しさが蘇ってくる。自分は一人ぼっちだ。そう思いながら呆けていた彼女の背後から頭上目がけてげんこつが振り下ろされる。

「ようやく見つけたぞ、この迷子娘が。」

突然の激痛に振り返るとそこにいたのは少尉であった。気のせいかげんなりした表情をしている。服もところどころ破けており、まるで先ほどまで戦闘を行っていたような様相であった。

「少尉殿、どうしてここに。」

「お前を探しにきたに決まっとるだろうが。」

リムリィの質問に馬鹿にしているのかといった表情で少尉は怒鳴った。身をすくませるリムリィを憮然と眺めながら少尉は続ける。

「まったく。混虫の襲撃に遭ってこんな時間になってしまった。にもかかわらずお前はだれとさっきまで遊んでいたのだ。」

「えっと、それは、そのう…」

「だいたい持ち場を無断で離れるからこんなことになるのだと平素から言っているだろう。いつも言っているように貴様はそういった連絡を怠る癖がある。この際だから言わせてもらうが…」

これは長くなる奴だ。延々と続くお説教を喰らいながらリムリィはそう思った。結局、少尉のお説教から解放される頃にはとっぷりと日が暮れてしまっていた。



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