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剣劇は響く 高らかに(11)【終】

剛鉄が視認の確認な距離にたどり着いた時にはすでに蟷螂によって戦車部隊は壊滅しかけていた。最後に残った戦車から引きずり出した戦車兵を貪り食う様を双眼鏡で眺めながら少尉は歯ぎしりした後に怒鳴った。

「主砲放てっ!」

【了解しました。】

少尉の命令に応じた剛鉄が威嚇射撃を放つ。移動しながら放つ射撃だ。もとより敵を撃破するためのものではなく、注意をこちらに引き付けるために行った攻撃だった。蟷螂は苦もなく砲弾を避けると威嚇するようにその両腕の大鎌を掲げた。その後に大地を踏みしめて羽根を広げた後にバネのように跳ねて飛翔した。

「なんだとっ。」

予想外の動きに少尉が声を上げる。蟷螂は死角である列車の上空を一瞬で舞っていた。一瞬の見逃し。だが、それは戦況を覆すには十分な隙となった。瞬時に剛鉄の胴体である車両の上に着地すると蟷螂はその鎌を振り下ろして剛鉄の胴体を切り裂いた。

【痛いっ!!】

激痛に剛鉄が悲鳴をあげる。少尉は目を見張った。剛鉄が痛みを感じるということは大砲の砲弾をも跳ね返す装甲を切り裂く攻撃を敵は備えているということだ。

【離れろっ!このっ!!】

激痛に耐えかねた剛鉄がその身を悶えさせながら蟷螂を振り落とそうと試みる。乗っていた少尉達もバランスを崩して車内の壁に叩きつけられた。振り落とされそうになりながらも蟷螂が再度の攻撃を行なおうとする。

「暴れるのをやめろ、剛鉄!」

左右に揺れる車内で必死にこらえながらも少尉は怒鳴った。だが、慣れない痛みを感じる剛鉄は完全に恐慌を起こして少尉の命令を聞き入れようとしない。剛鉄はパニックを起こしながら大地に身を叩きつけながら暴れる。それは釣り上げられて暴れる魚のような暴れぶりだった。蟷螂がようやく離れて剛鉄が横たわった頃には少尉の三半規管はさんざんに揺さぶられて眩暈を起こしている状況であった。まともに命令を出せる状況ではない。その隙を蟷螂は見逃さなかった。吐き気と気持ち悪さからたまらずに機関室の窓から顔を出した少尉を獲物として捕らえた蟷螂はその鋭すぎる鎌を振り落とした。

(やられるっ!)

死を実感した瞬間に景色がスローモーションになっていくのを少尉は感じた。ゆっくりと振り落とされる鎌。だが、それが分かっていても少尉の体はまったく反応できなかった。ひどく冷静になりながらも他人事のように「ああ、あの鎌に切られたら痛いだろうな」と考えてしまっていた。同時に「こんなところで終わるのか」とも思った。そう感じて受け入れられない自分がいた。そんな少尉に蟷螂の鎌は残酷にも振り下ろされた。















































無情にも振り下ろされたはずの蟷螂の鎌は少尉の体を貫く前に一人の侍の刀によって受け止められていた。いうまでもなくコロであった。

「ご無沙汰しています。」

蟷螂と少尉の間に立ちながらコロは話しかけてきた。自分が助かったことを確認して安堵のため息をついた後に少尉は軽口をついた。

「もう少し遅ければ死ぬところだったぞ。」

「ご冗談を。少尉殿が死ぬことなんてありえません。」

「なぜそう思う。」

「地獄の閻魔様が嫌がりますから。」

「こいつ…」

自分がなじられているにも関わらず少尉は心地よい気分になった。しばらく見ないうちにずいぶんな軽口を覚えたものである。見れば口だけでなく、一回りも二回りも大きな背中になっているようであった。

「調子に乗るな。さっさと片付けろ。」

「承知。」

コロは返答すると同時に受け止めていた鎌を大きくはじき返した。その膂力に少尉は目を見開いた。だが、それよりも驚いたのは鎌をはじき返された蟷螂だった。虫けらと思っていた小さな生き物が自分の攻撃を受け止めたばかりか弾き返している。その姿が脅威と感じたのか蟷螂はコロから飛びのくと一定の距離を取った。その様子を見ていたコロがしまったなという表情で頭をかいた。

「まいったなあ。」

「何が参ったというんだ。」

「失敗しました。16太刀は入れようと思ったんですが。」

「何を言っている。敵はまだぴんぴんしているではないか。」

「大丈夫です。もう終わってますから。」

そう言って刀を納めた瞬間、蟷螂の体中に線のような亀裂が走っていく。そしてそのままバラバラになった。いつ切ったのかまったく見えなかったぞ。少尉が絶句する中でコロは蟷螂の死骸に歩み寄ると冷たく見下ろした。

「仕方ないよ。お前は少尉殿を殺そうとしたんだから。」

戦車の残骸が燃える炎を背に受けながらコロは冷たく言い放った。


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