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剣劇は響く 高らかに(1)

少尉「今回の主役は私ではないのだな。」

リムリィ「そうですよ、しょーいどの。今回の主役はコロ兄さまなのです!」

少尉「朝からやかましいぞ、テンション押さえろ、ヒロイン枠から脱落しかかったゲロインが。」

リムリィ「ゲ、ゲロイン。なんですか、その不名誉な響きは。」

少尉「作中で吐いたかわいそうな女どもの総称だ。」

リムリィ「(ショックを受けながら)ゲロイン。ゲロイン…」

少尉「(無視して)次回予告。迷えるコロははたして強くなれることができるのか。『剣劇は響く 高らかに』。鋼の狼が運ぶものは絶望か、それとも希望か。」

リムリィ「(唇をわなわな震わせながら)…ゲロイン…。私はゲロイン…」





孤麗の護衛を終えて王都を発ってから数日後。早朝に目覚めたコロは走行する剛鉄の客車両の天井の上で一人、剣の稽古を行っていた。彼が行なうのはごく普通の素振りではない。抜き身の刀の剣先に強敵の姿をイメージして実戦さながらに攻守を行う。コロがイメージするのは先日戦った剣狼の姿であった。

「セイッ!」

短く呼気を吐き出しながらコロは突きを放った。そのままの流れに連続で突きを放つ。一突き一突き放つごとに玉のような汗が飛び散る。だが、その一突き一突きをイメージの中の剣狼は首を器用に振りながら避けていく。コロは突きを放った両腕を引くと手首を返して下段から切り上げる斬撃を放った。渾身の力で放った斬撃を剣狼はあっさりと反応して避けると同時にがら空きになったコロの腹部に突きを放ってきた。身を翻すことによって辛うじて避けたコロは距離を取って剣を構え直した。イメージとはいえ敵の身体能力はコロを完全に上回っていた。コロの額から冷たい汗が流れる。コロがイメージする剣狼の動きは全て彼が体験した戦いを元に作られている。すなわちそれは剣狼の動きが完全にコロを上回っていることに他ならない。

「…どうやってもこのままでは勝てない。」

荒い息をしたまま苦渋の表情でコロは一人呟いた。いつまた剣狼は襲ってくるか分からない。その時に自分は奴に勝てるのか。自問自答するコロに答えるものはなかった。




                 ◇




「剛鉄を降りたいだと。」

突然の部下からの告白に少尉は仰天した。話を切り出してきたコロはばつが悪そうにしながら頷いた。どういうことだ。度重なる戦いについに嫌気がさしたか。こいつがこんなことを言い出すくらいだ。もしかしたらほかの乗員達も。そんなことを夢想し始めた少尉の思考はコロの言葉によって遮られた。

「先日の剣狼の襲撃に恥ずかしながら私は敗れました。あれから何度も稽古を重ねているのですがどうやっても勝つ糸口を見出すことはできません。」

「臆病風に吹かれたわけではなさそうだな。」

コロの真意は分からなかったが、その目は死んでいない。少尉は長年付き合う相棒の目を真っすぐに見ながら次の言葉を待った。

「修行に行かせてほしいのです。」

「修行だと。白金山の大神仙人にでも弟子入りするつもりか。」

大神仙人。それは子供のおとぎ話に登場する伝説の剣豪の名前である。歴史に名を連ねる英雄たちの逸話にたびたび登場するその仙人はそのたぐいまれな剣の腕で英雄たちに剣の道を手ほどき、導いていく。恐ろしいのは彼が空想の存在ではなく現在も生きていることだ。

「はい、弟子入りするつもりです。」

「そうかそうか、さすがにそんなわけは…なんだと。」

頷いたコロに流石の少尉も唖然としながら口を開けた。




                 ◇




一か月後に迎えに来る。くれぐれも犬死しないようにな。白金山付近の駅にコロを降ろした後にそう言って少尉たちは去っていった。剛鉄が去っていくのを見送った後にコロは振り返って歩き始めた。さびれた駅だった。あまり利用されていないのだろう。足元のコンクリには亀裂が走っており、そこから草が自生している。改札を抜けるとホームのベンチに一人の小柄な孤狼族の老人が座っていた。かなりの老齢なのだろう。小刻みにぷるぷると震えるその姿はまだ生まれて間もない子犬を思わせた。コロは会釈をしてそのまま通り過ぎようとした。すると老人のほうから話しかけてきた。

「こんにちは。お若いの。」

「こんにちは。お爺さん。」

話しかけられるとは思っていなかったので内心コロは動揺した。そんな彼の心情を知ってか知らずか老人は続ける。

「あんたも大神仙人に会いに行かれるのかね。」

「ええ、どうしてお分かりになるんですか。」

コロの質問に老人は「ほっほっほっ」と笑った。

「こんな錆びれた駅に来る客なんてそんな奴ばかりじゃよ。」

老人はそう言って肩眉をあげた。老齢の割にはその眼光が鋭い。老人はコロの全身をまじまじと見つめた後に尋ねた。

「お若いの。なかなかの地獄を生き抜いてきたようじゃの。見たところ、かなりの腕前のようじゃが、それ以上強くなってどうする。」

老人の鋭い視線にコロはたじろぎながらも答えた。

「倒すべき敵がいるからです。」

「なるほどの。強さを求めるのは己のためか。」

老人の質問にコロは自問自答した。確かに自分自身のためではあるが、なんのためかという根底を辿れば少尉やリムリィや乗員達の仲間を守るためである。それはコロにとって明確な答えだった。

「己のためですが、仲間を守るためです。」

その答えに老人は楽しげに笑った。

「ならば行くがよい。おぬしが仙人に会えるかはお山が決めてくださるじゃろう。」

老人はそう言ってコロの背後を指さした。コロが振り返ると窓から白金山の山腹が見えた。コロが老人に礼を言おうと振り返るとそこにはすでに老人の姿はなかった。


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