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曇り時々晴れ ところにより蜂の雲(11)【終】

少尉たちが目指した目的地は現在では誰も利用していない旧市街の廃墟であった。瓦礫などの遮蔽物をなぎ倒すような勢いで剛鉄が旧市街の中に入っていくとその後をスズメバチの群れが殺到していく。

「狙い通りだな、煙幕用意!」

少尉の指示に従った乗員達が煙幕の手投げ弾を投げ放つ。煙幕弾は地面に転がると急速に煙幕を溢れさせてスズメバチたちの視界を遮った。敵の居場所を確認できずにスズメバチたちは周辺を慌ただしく飛び回る。ようやく煙が晴れた瞬間にはすでに剛鉄の姿は周囲になかった。スズメバチ達が目標を見失って困惑した次の瞬間に視界を埋め尽くすほどの爆発が起こった。まず光と爆発が凄まじい勢いで放射線状に周囲に拡散していき、それを追いかけるように全てをなぎ倒すほどの爆風が広がっていった。ものを思う暇などはなかった。理不尽な暴力の前にスズメバチの群れは断末魔の叫びをあげる暇さえなく絶命していった。後に残ったのは煤けた臭いとかすかに残った瓦礫に燃え残る炎のカスだけである。

【火薬の量が多すぎです。少しでも地中に潜るのが遅れたらこちらもお陀仏でしたよ。】

「…あの野郎ども。」

地中深くに潜航していた剛鉄と少尉は予想外の爆発の振動の大きさと大地を伝わってもなお伝播してくる熱量の凄まじさに戦慄した。作戦を立案した司狼大臣の鉄面皮と天龍王の能天気な顔を思い返しながら絶対に奴らを一発ずつはぶん殴ってやろうと心の中で決めながら拳を震わせた。




                  ◇




「全滅、全滅だと…。」

視界の下に広がった光景を信じられずに蟲使いは絶句した。あれだけいたスズメバチの群れは大規模な爆発により残らず死に絶えていた。先ほどまで自らの勝利を疑うことさえなかった蟲使いは地面に大きく開いたクレーターを見ながら放心していた。時間としては数秒の刹那であったがその放心が彼の命運を決めた。真っすぐに放たれた一発の銃弾が彼の脳髄に到達すると糸が切れた人形のように彼は地面に落下していった。蟲使いを殺したのはまだ年若い一人の狙撃兵だった。かなり離れた崖の先端からの長距離狙撃、熟練の兵士でも絶対に失敗する距離からの狙撃を淡々と成功させた後に彼は大きく息を吐いた。感慨などは一切なさそうな表情だった。標的が死んだことを双眼鏡で確認した狙撃兵は長距離ライフルを背負うとバイクを走らせて去っていった。




                  ◇




「魔弾の射手が蟲使いを仕留めたとの報告が入りました。」

「彼とちはやの特務曹長に苦労様でしたと伝えてください。」

通信兵からの報告に作戦本部の士官たちから歓声が上がる。孤麗は椅子に深々と座ると満足げに笑った。

「スズメバチの残存兵力はどのくらいですか。」

「すでに0です。空軍と交戦中のスズメバチも撃破されたということです。」

「警戒レベルを一段階引き下げてください。様子見して何事もなければ解散準備です。」

そこまで指示を出した後で孤麗は大あくびをした。なんとも眠そうな表情であった。労をねぎらうためにリムリィを伴ってやってきた天龍王は孤麗の様子を見て尋ねた。

「眠そうだな。」

「ここ数日、作戦準備でロクに寝てなかったもので。気が抜けたら眠くなってきました。あとはお願いしますね。」

そう言って孤麗はその場でペタンと耳を降ろしたままでうつらうつらと居眠りをし始めた。

「たはは、しょうがないNO.2だな。」

天龍王は苦笑した。眠っている孤麗の寝顔は無邪気なものであり、とても先ほどに血みどろの戦闘を指示していた鬼軍師と同じものとは思えない表情であった。リムリィはそんな彼女のやすらかな寝顔がとても可愛らしく思えた。



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