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曇り時々晴れ ところにより蜂の雲(7)


                    ◇




「うろたえるな!それでも貴様らは誇りある王国軍人か!」

恐慌を起こす新兵を怒鳴り散らしたのは近くにいた卜部刮目であった。喝を入れたのはいいが自身も完全にビビっている。膝ががくがくと踊っている。だが、彼の部下はそんな様子などは気づかずに歓声をあげた。

「おお、さすがは刮目様です。」

「フハハ、当たり前だ。誇りある西方刮目師団の戦車兵達よ。狙いを定めよ。王都を脅かす悪漢どもに目にもの見せてやるのだ。戦車砲発射だ。」

刮目は恐怖で震える膝を必死に奮い立たせながら部下に命令を出した。しかし戦車に搭乗していた兵たちは困惑した表情で反論した。

「刮目様、射線上に味方や建物があるのですが。」

「え、だったら撃ったら駄目じゃない。」

ならばどのように指示を出すべきか迷った刮目達の前に一体のスズメバチが迫る。危うく針で刺されそうになる部下をかばった刮目は地面にその身を投げだして無防備になる。その隙をスズメバチは見逃さずにその手足で刮目を捕獲すると上空へ舞い上がろうとした。

「ぬお、離せっ。」

刮目は必死に抜け出そうともがいたが、蜂の力は強くてびくともしない。なおももがく刮目を自らの正面に向けると蜂は狂暴な牙を剥いた。殺される、そう確信した刮目は青ざめた。その時だった。


「コロ、抜刀を許可する。」


背後から一人の男の声がかかり、直後に孤狼族の侍が大地を蹴って疾走する。ホバリングする蜂は地面からは距離を離していたが、建物の壁と地面を三角飛びするようにしてあっという間に蜂の背後に飛翔すると刀で一閃した。直後、刮目の目の前で蜂の顔面に縦の筋が入ったかと思うと顔面がゆっくりと左右に割れていく。

「はえ?」

間抜けな表情をした刮目の目の前でスズメバチが真っ二つになる。直後に顔面から地面に落下した刮目は何が起こったのか分からずに周囲を見渡した。そんな彼の前に手が差し出される。

「相変わらずだな。不沈艦。」

「貴様は…ぽっぽ屋か。」

「その呼び方はよせと何度も言っているだろう。」

差し出したのは少尉だった。苦笑いをしながら刮目の手を掴むと力強く引き起こした。

「大本営の近くで戦闘が行われているから駆け付けてみればあんただったとはな。まだ死んでなかったんだな。いい加減やめろよ、その髭、全然似合ってないぜ。」

「そういう貴様も口の利き方をいい加減に覚えろ。」

そう言って少尉と刮目は笑い合う。

「お知り合いだったんですか。」

「腐れ縁だ。」

周囲からいつ襲ってくるかも分からない蜂達に警戒しながらコロが尋ねると少尉はそう言って短く答えて口元をゆるませた。そして周囲全てに聞こえるような大声で怒鳴った。

「歩兵どもは遮蔽物を利用した陣形を組め。市街地戦の地の利を最大限に生かすんだ。戦車兵は弾幕を絶やすな、撃って撃って撃ちまくれ。的なんぞはそこら中に飛んでいる。射線上のことをいちいち考えていたらあっという間にあの世行きだと心得ろ!」

少尉は周囲の兵隊たちに指示を出しながら自らもライフルを構えて警戒態勢を取った。そして背後の刮目に声をかける。

「見渡せばなかなかの地獄だが、あの地獄に比べれば遥かにマシだ。そうだろう。」

「貴様の言うこと、いちいちもっともである。」

旅順攻略の時の地獄を思い出したのか刮目の表情が引き締まる。

「総員に命じる。虫けらどもにここを襲ったことを後悔させてやれ!」

少尉の号令にその場にいた全員が短く返答した。からりと晴れた晴天の元で血みどろの戦闘が行われようとしていた。


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