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曇り時々晴れ ところにより蜂の雲(3)

東雲とその場で別れた後に少尉たちは天龍王によって執務室に招かれた。部屋に入ると天龍王は執務用の革製の椅子に深々と座った後に少尉たちにも備え付けのソファに座るように促した。

「お前な、東雲の奴をあまり刺激するなよ。あんまり目に余ると俺でもかばいきれなくなるぞ。」

「先に挑発してきたのはあっちのほうだ。」

あくまで非はこちらにはない、両目をつぶりながら憮然に答える少尉に天龍王はため息をついた。そんな天龍王の様子を片目でちらりと見ながら少尉は切り出した。

「東雲のような頭の固い奴がいつまでも今の軍部の中枢にいるのは問題だろう。」

「いずれは一新するさ。だが今の軍部は東雲の派閥の人間が多すぎる。無理な改革を強行すれば陸軍自体が機能しなくなるだろう。」

そう言った後に一拍置いて天龍王は切り出した。

「もっとも、お前のような奴が軍部のトップになってくれれば少しは組織風土改革も進むんだがな。」

「柄じゃないさ。」

天龍王の提案を少尉は即座に否定した。答えがあらかじめ分かっていたのだろう。天龍王は再度ため息をついた後に話を切り替えた。

「まあいい。今回お前たちに来てもらったのはほかでもない。今回の招集の理由を説明するためだ。」

「どうせロクな理由ではないんだろ。」

「よくわかっているじゃないか。実は龍眼の未来視が発動した。」

何気なく放った天龍王が放った一言に少尉の顔色が変わる。喉をごくりと鳴らしながら身を乗り出したではないか。横で見ていたコロは事態を呑み込めずに尋ねた。

「あの、龍眼ってなんですか。」

「簡単にいえば未来の光景が見えるインチキすぎる目だ。」

「インチキって。なんでも見えるわけじゃないしこちらで制御できる代物じゃない。簡単に言うと想像以上の危機が迫った時に自動的にその未来を回避するために自動的に発動する危機回避能力なんだ。」

そういって天龍王は自身の左目を指さした。

「実際に龍眼の恩恵がなければ死んでいたという事態が戦争中には何度もあった。それはそこにいる真一郎のやつが一番分かっているはずだ。」

「よほどの危機がなければ発動しないはずなんだがな。」

それだけの危機が迫っていることになる。やっぱり来るんじゃなかった。そう思いながら少尉は深々とため息をついた。そして尋ねた。

「で、どんな危機が迫っているというんだ。」

「遠くない未来に王都が蜂の群れに襲われる。」

その言葉に少尉は首を傾げる。

「別に普段通りに迎撃すればいいだろう。」

「数が問題なんだ。」

「なんだと。」

「龍眼が映した光景の中にいた蜂の群れが1000匹程度はいた。空を覆うほどの数だよ。」

その言葉に少尉はもちろんコロも言葉を失った。蜂と戦ったことがあるだけにその危険性と戦闘能力は嫌というほど分かっていた。1体でも死に物狂いで戦わなければならない相手が1000匹だと。本格的に少尉は王都から出ていきたくなって頭を抱えた。

「参考程度に聞きたいがお前だったらどうする。」

「私だったら王都を引き払って田舎に疎開するさ。まともに戦って勝ち目などないからな。」

にべつもなく少尉は言い放った。そんな少尉の様子に天龍王は苦笑した。

「なるほどな。参考にさせてもらおう。…おい、猫、お前の意見はどうだ。」

こちらに話を振られると思ってなかったのか、秘書らしい女性から出された茶菓子を口いっぱいにほおばっていたリムリィは喉を詰まらせて慌ててお茶を流し込んだ。だがお茶も相当に熱かったようで目を白黒させながら涙目になって悶絶した。

「何をやってるんだ。」

「見てて飽きないな、お前は。」

少尉と天龍王は苦笑いしながらその様子を眺めた。場の空気を和ませることに関しては天性のものがあるな。天龍王は心の中でそう思った。しばらくしてリムリィは落ち着くと同時に切り出した。

「わたくしごときが発言してもいいのでしょうか。」

「許す。何を思ったのか率直な意見を聞かせてくれ。」

リムリィはしばし思案したのちに口を開いた。

「対処方法もさることながら蜂がそれだけの数だけ集まったことに違和感を覚えます。」

ほう、そう呟きながら天龍王は肩眉をあげた。リムリィは天龍王と少尉の顔色を交互に伺いながら続きを言うべきかためらっているようだった。そんな彼女に天龍王が促す。

「構わん。続けろ。」

「は、はい。その前にお尋ねしたいのですが蜂が1000匹も集まるのは普通のことなのでしょうか。」

「いや、前例がない。あきらかに異常事態だろう。」

「そうであれば異常事態が起こる原因があるはずです。それを探ることが重要ではないかと進言いたします。」

「お前、やっぱり面白いな。」

天龍王はそういって笑みを浮かべた。そんな二人のやり取りに少尉は内心で舌を巻いた。リムリィがそれだけ冷静にものを考えられることに新鮮な驚きを感じていたのだ。天龍王は頷いた後に立ち上がった。

「猫、ついてこい。お前に会わせたい奴がいる。」

「私にですか。」

天龍王の言葉にリムリィは目を丸くした。



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