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虎狼と剣狼(7)

レビューやブックマークありがとうございます。今後の励みにします。

少尉がライフルの引き金を引くのと剣狼が斬撃を行ったのはほぼ同じタイミングだった。剣狼は銃弾の弾道を素早く見切ると一気に少尉の元へ詰め寄って袈裟懸けの斬撃を行った。ライフルの銃身がスパンと切り裂かれるが少尉は素早くライフルを手放した。そして身を翻して懐から拳銃を取り出すと同時に数発撃った。至近距離からの弾丸だ。タダではすむまい。ほくそ笑む少尉に対して剣狼が行なったのは刀身での受けであった。弾丸は跳弾したかのように撥ねて天井や窓ガラスに突き刺さる。

「あぶねえ、能力上がってなかったら死んでたぜ。」

「そのまま死んでくれるとありがたかったのだがね。」

「ぬかせよ。」

少尉の軽口に剣狼は斬撃で答えた。それを防いだのはコロだった。素早く少尉と剣狼の間に入ると剣狼の斬撃を受けた。鍔迫り合いをしながらコロが叫ぶ。

「おまえの相手はこの僕だ。」

「いいねえ、昔みたいに遊ぼうぜ、とらあ。」

剣狼はそう言って真っ赤に充血した目を光らせた。少尉は二人から距離を離すと同じく戦いを傍観していた乗員達に命令した。

「総員、狙いを定めろ。狙いはわかっているな。」

「いつものやつですね。」

「ああ、プランAだ。」

少尉が命じると同時に乗員は一斉に各々が持っていた銃器を構えた。

「プランA発動!!」

少尉の叫びにコロは弾かれたように剣狼の右側に飛びのいた。考えての動きではない。ほぼ脊髄反射に近い反応だった。

「ああん?」

そんなコロに剣狼が一瞬怪訝な表情を見せた。秒数としては数秒。だが次の瞬間に乗員達が一斉に剣狼に対して凄まじい数の銃弾を放った。

「ぐああああああっ!!!」

弾幕の雨あられに流石の剣狼も衝撃にこれえ切れずに車外まで吹っ飛ばされる。プランAとは別名「ハチの巣」と名付けた少尉の部隊オリジナルのフォーメーションだ。前衛にいるコロが強敵と接敵している間に後方にいる味方部隊が狙撃準備を行う。指揮者の掛け声とともにコロが射程から離脱、同時に味方部隊が対象に対して一斉射撃を行う。ハチの巣の名前の由来は攻撃を受けて絶命する敵の姿をイメージしてのものである。

「もともとは対人でなく混虫相手の攻撃なのだがな。」

相手はそれだけの化け物ということだ。無論あの一撃で死んだとは思えない。

「コロ、大丈夫か。」

少尉はそう言ってコロに手を差し伸べて助け起こす。

「はは、なんとか。」

「警戒は解くなよ。解いた瞬間に奴さんは襲ってくると思え。」

少尉は部下に常に言い聞かせていることがある。敵が死んだと思った時に「やったか」などという台詞を絶対に言わないことだ。そう言ってしまう時には人間はそうであってほしいという心理が働いて油断してしまう。そういう時が戦闘中は一番危ない。敵の死体を確認した時は念のために脳天に銃弾をぶっ放すぐらいの心構えでちょうどいい。聞くものが倫理を疑うような教えを普段からこの男は部下に行っていた。少尉は部下から予備のライフルを受け取ると懐中電灯で車外の様子を伺った。いる。生きている。「ちはや」から少し距離を離しているが蜘蛛の列車の先頭に先ほどの狼男は健在のようだ。

「主砲、いけるか。」

「いけるようです。」

「ならばよし。」

少尉はそう言って手をかざして振り下ろした。同時に「ちはや」の主砲が放たれる。凄まじい轟音と共に放たれた砲弾は真っすぐに剣狼目がけて突き進んでいくと同時に剣狼の体にめり込んで爆発した。爆発による明かりで一瞬あたりが明るくなる。爆発を確認しながらも少尉は警戒を怠らなかった。

「…おかしい。」

「なにがですか。」

隣のコロが少尉の言葉に怪訝な表情で尋ねる。

「あの男は蜘蛛に取り込まれている。そして子蜘蛛の攻撃も確認している。だが足りないものがある。」

「足りないものですか。」

「親玉だよ。子蜘蛛の近くには親蜘蛛がいるものだ。子蜘蛛だけで行動するなど奴らの習性上ありえない。あるとすれば…」

かつての戦争でも人類は蜘蛛と戦っており、その教訓は戦術教本にも載っていた。だからこそ戦術教本を熟読している少尉はその習性を知っていた。教本にはこうも書かれていた。子蜘蛛が単独で行動している場合、高い確率で標的を親蜘蛛のもとに誘導している可能性がある。それを思い出した瞬間に全身の毛が総毛だった。

「総員に通達!親蜘蛛に狙われている!」

少尉がそう叫んだ瞬間、列車が何かにぶつかったかのように振動した。同時に少尉たちの足元が傾いていく。

「衝撃に備えろ。脱線するぞ!!」

少尉がそう叫ぶと同時に「ちはや」は凄まじいスピードをあげたまま線路から脱線した。



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