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虎狼と剣狼(6)

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「ちはや」の後を追うように蜘蛛列車は追いかけてくる。どこから増えているのかは分からないが蜘蛛の数は確実に増えているようであった。

「コロ君や。ガソリンの一斗缶はまだ残っていたかね。」

「こないだの百足戦で使い切りましたよ。」

ああ、そうだったかな。配達先の補給部隊にもえらく怒られて謝ったっけか。形の上だけだがな。精製されたガソリンというのは輸入していることもあって大層高価ということだが私からしてみればオートモビルに使用されるくらいなら戦闘で利用したほうがよほど価値のある使い方に思えて仕方ない。少尉は心の中でそのように毒を吐いた。

「火炎放射器のような気の利いたものがあればなあ。今度追加兵装として申請してみるか。」

「生き残ってから考えましょうか。」

そうこうしているうちに列車全体に衝撃が襲った。背後から何かが繰り返しぶつかってきている。どうやら蜘蛛列車が追い付いてきているようだった。

「伝令より報告。蜘蛛が何体か列車内に侵入した模様。」

「リムリィをここに連れてきて操縦させろ。護衛もだ。私たちは迎撃に行くぞ。」

少尉はそう怒鳴ってライフルに銃弾を装填した。コロも頷きながら刀を抜くと刃こぼれと目釘が折れてないかを確認する。

「そういえば天龍王から頂戴したんだっけな。その刀。」

「さきほどの激しい戦闘でも刃こぼれひとつありませんでした。間違いなく名刀ですよ。」

コロはそう答えたあとで刀を納めた。ちらりと少尉の頭に天龍王からいつか聞いた刀のコレクションの話が思い出された。王家に献上された刀の中には古くは鬼を千匹切って刃こぼれのなかった刀や山ほどの大きさの大蛇の体内から出てきた名刀というものがあるらしい。あれもおそらく曰くつきだろう。

「肩は大丈夫か。」

「痛みはありますが無理をすればなんとかなります。」

「無理はいつものことだがな。」

「違いないですね。」

少尉の言葉にコロは笑った。この男も少尉の元で何度も死線を潜り抜けている。この程度の怪我は物の数に入らないということだろう。二人はそういって笑い合うと戦闘準備を開始した。




                 ◇




最後尾の客車両では蜘蛛と乗員との激しい戦闘が行われていた。荷物を置いて簡易的なバリケードを作って銃撃を行うのだが一体倒してもまた一体と蜘蛛は際限なく侵入してくる。少尉は客車の中に入ってくるなり仲間たちに告げた。

「総員、撤退しながら銃撃だ。この車両は廃棄する。」

少尉の指示に乗員達は素早く従った。少尉は最後の一名がドアの向こうに出たのを確認した後に手投げ弾の安全弁を引き抜いて投げつけた。手投げ弾は二、三回転がると蜘蛛達の足元に転がった。

「じゃあな、化け物。」

少尉はそう言って部屋から出て隣の車両に移ると同時にコロが連結部を切り裂く。同時に客車が爆発した。爆発を連結部の上から冷めた視線で眺める。

「とりついた奴はあれで全部だったか。」

そう言って煙草に火をつけるとスパスパと吸った。

「虫を殺した後は小便がしたくなるな。」

「完全に悪党の台詞ですよね、それ。」

コロの突っ込みに少尉はへらへらと笑いながら煙草の煙を吐いた。風にまかれて煙はあっという間に消えていく。少しは時間稼ぎになったかな。そんなことを考えていたが燃えている客車を突っ切るようにして蜘蛛列車が迫ってきた。

「うおっ!」

先ほどまでの余裕から一転して少尉とコロは扉を開けて中に飛び込んだ。直後に追突するような衝撃を受けて床に投げ出される。

「奴さん、随分とやる気だな。」

「あれを何度も受けては「ちはや」が持ちませんよ。」

「だよなあ。」

少尉は身を起こしながら答えた。状況は切迫している。打開策を見出さねばならない。そう考えていた少尉の目の前で鉄の扉に無数の線が引かれる。直後、扉がバラバラになって一人の男がゆっくりと乗り込んできた。それは黒い狼男であった。


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